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殺っちまおうぜ、今すぐ
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「まったく、お前と言うやつは……仕事もそうだが、強引なやり方は相変わらずのようだな」
「いいの、いいの。親父たちはもちろん、奈々子のご家族も承知してくれたし、皆に祝福された結婚なんだから」
「それにしても、すっ飛ばしすぎだろう」
「大丈夫だって」
涼しい顔で返事する。
羽根田社長はまだ何か言いたそうにするが、あきらめたように肩をすくめた。
「確かに大事なのは本人の意思だ。それに、一人が承知なら、私が口を出すことじゃない」
苦笑を浮かべるとルイボスティーを一口飲み、少し考える風にしてから、別の話題に移った。
「ところで……先ほどスタッフから、展望フロアで騒ぎがあったと報告を受けた。お前が関係しているようだが、何かやったのか?」
ドキッとした。
展望フロアでの騒ぎ。
それは、私が綾華と遭遇してパニックになり、取り乱した出来事である。
泣いて騒いだのは私なのに、詳しく伝わっていないようだ。
「あの、違うんです。それは私のせいで……」
「そうそう、俺が原因」
由比さんの声が被さり、話を遮った。
「ほう、一体何をやらかしたんだ」
「いやあ、あまりにも夜景がきれいで、つい興奮しちゃってさー。大声出しちゃったんだよ。フロアのムードをぶち壊して悪かったと思ってる。このとおり、勘弁してください!」
がばりと頭を下げた。
私は慌てるが、由比さんに手をぎゅっと握られ、声を引っ込める。
「なるほど。私はまた、なんとかチューバーの格好で暴れたのではとヒヤヒヤしたぞ」
(えっ?)
キングのことだ。
羽根田社長は、ウーチューバーとしての由比さんを知っている?
由比さんを見ると、バツが悪そうに笑う。
「まさか、そんなわけないでしょ。キングが暴れるのは動画の中だけ。リアルでやったら、親父に殺されちゃうよ」
「そのとおり、大変なことになる。しかしお前という男は何をするか分からんからな、一応確認せねばと思ったのだ。それに……」
羽根田社長が口髭を撫でつつ、今度は私に確認した。
「奈々子さん。あなたは織人の妻であり、由比家の秘密を共有する立場となった。もちろんご存知ですね? この男の正体と、特殊な活動を」
「は、はい」
特殊な活動とは、キングとしての活動である。
「あの動画は、三保コンフォートのトップシークレットだ。外野で知るのは、私と翼ぐらいのものだろう。織人がバカな真似をしないよう、これからは奈々子さんがしっかり監視してください。こやつは昔から、興奮すると我を忘れるたちで、どうしようもない暴れん坊なのだ」
羽根田社長が大きなため息をつくが、由比さんは知らん顔。
聞き飽きたという態度である。
「まあしかし、今夜は奈々子さんがいてくれたから自重したのでしょうな。あなたのおかげで暴走せずに済んだのかもしれない」
「いえ、それは……」
なんだかいたたまれない。
展望フロアの件は私が原因なのに、由比さんが責められている。
日頃の行いはともかく、今回は由比さんに罪はない。私から正直に話すべきだろう。
(大騒ぎしたのは私なんだから、やっぱり言わなくちゃ……!)
「そうそう、これからは奈々子がいてくれるからね。九郎さんは心配しなくてもいいよ」
由比さんが明るく笑い、私の手をもう一度ぎゅっと握りしめた。
さっきよりも強く。
大丈夫、本当のことを話す必要はない。
(由比さん……)
彼の気持ちが伝わってきて、私は何も言えなくなり、大人しくした。この人は、私を守ってくれているのだ。自分が盾になって。
しばし沈黙が流れ、羽根田社長があらたまった口調で由比さんに命じた。
「織人。お前は三保コンフォートのCEOだ。身を固めたことだし、そろそろ落ち着いて家業に専念しなさい」
「分かってます。これでも大人なんで」
「それなら、なんとかチューバーの活動はもう止めるんだな。いつまで夢を見るつもりだ」
由比さんは答えない。
ルイボスティーを飲み干すと、私に向き直った。
「そろそろ行こうか、奈々子」
いつものように微笑むが、気のせいか少し、寂しげに見える。
羽根田社長はゆるゆると首を振り、ソファを立った。
「いいの、いいの。親父たちはもちろん、奈々子のご家族も承知してくれたし、皆に祝福された結婚なんだから」
「それにしても、すっ飛ばしすぎだろう」
「大丈夫だって」
涼しい顔で返事する。
羽根田社長はまだ何か言いたそうにするが、あきらめたように肩をすくめた。
「確かに大事なのは本人の意思だ。それに、一人が承知なら、私が口を出すことじゃない」
苦笑を浮かべるとルイボスティーを一口飲み、少し考える風にしてから、別の話題に移った。
「ところで……先ほどスタッフから、展望フロアで騒ぎがあったと報告を受けた。お前が関係しているようだが、何かやったのか?」
ドキッとした。
展望フロアでの騒ぎ。
それは、私が綾華と遭遇してパニックになり、取り乱した出来事である。
泣いて騒いだのは私なのに、詳しく伝わっていないようだ。
「あの、違うんです。それは私のせいで……」
「そうそう、俺が原因」
由比さんの声が被さり、話を遮った。
「ほう、一体何をやらかしたんだ」
「いやあ、あまりにも夜景がきれいで、つい興奮しちゃってさー。大声出しちゃったんだよ。フロアのムードをぶち壊して悪かったと思ってる。このとおり、勘弁してください!」
がばりと頭を下げた。
私は慌てるが、由比さんに手をぎゅっと握られ、声を引っ込める。
「なるほど。私はまた、なんとかチューバーの格好で暴れたのではとヒヤヒヤしたぞ」
(えっ?)
キングのことだ。
羽根田社長は、ウーチューバーとしての由比さんを知っている?
由比さんを見ると、バツが悪そうに笑う。
「まさか、そんなわけないでしょ。キングが暴れるのは動画の中だけ。リアルでやったら、親父に殺されちゃうよ」
「そのとおり、大変なことになる。しかしお前という男は何をするか分からんからな、一応確認せねばと思ったのだ。それに……」
羽根田社長が口髭を撫でつつ、今度は私に確認した。
「奈々子さん。あなたは織人の妻であり、由比家の秘密を共有する立場となった。もちろんご存知ですね? この男の正体と、特殊な活動を」
「は、はい」
特殊な活動とは、キングとしての活動である。
「あの動画は、三保コンフォートのトップシークレットだ。外野で知るのは、私と翼ぐらいのものだろう。織人がバカな真似をしないよう、これからは奈々子さんがしっかり監視してください。こやつは昔から、興奮すると我を忘れるたちで、どうしようもない暴れん坊なのだ」
羽根田社長が大きなため息をつくが、由比さんは知らん顔。
聞き飽きたという態度である。
「まあしかし、今夜は奈々子さんがいてくれたから自重したのでしょうな。あなたのおかげで暴走せずに済んだのかもしれない」
「いえ、それは……」
なんだかいたたまれない。
展望フロアの件は私が原因なのに、由比さんが責められている。
日頃の行いはともかく、今回は由比さんに罪はない。私から正直に話すべきだろう。
(大騒ぎしたのは私なんだから、やっぱり言わなくちゃ……!)
「そうそう、これからは奈々子がいてくれるからね。九郎さんは心配しなくてもいいよ」
由比さんが明るく笑い、私の手をもう一度ぎゅっと握りしめた。
さっきよりも強く。
大丈夫、本当のことを話す必要はない。
(由比さん……)
彼の気持ちが伝わってきて、私は何も言えなくなり、大人しくした。この人は、私を守ってくれているのだ。自分が盾になって。
しばし沈黙が流れ、羽根田社長があらたまった口調で由比さんに命じた。
「織人。お前は三保コンフォートのCEOだ。身を固めたことだし、そろそろ落ち着いて家業に専念しなさい」
「分かってます。これでも大人なんで」
「それなら、なんとかチューバーの活動はもう止めるんだな。いつまで夢を見るつもりだ」
由比さんは答えない。
ルイボスティーを飲み干すと、私に向き直った。
「そろそろ行こうか、奈々子」
いつものように微笑むが、気のせいか少し、寂しげに見える。
羽根田社長はゆるゆると首を振り、ソファを立った。
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