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彼女はオタク
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海水浴場を望むカフェの二階で、進藤は待っていた。慧一が来たのを見ると椅子を立ち、まっすぐな姿勢で挨拶した。
「悪いね、呼び出して」
これまで面識のない、他部署の先輩社員に突然呼び出された進藤だが、「いえ、とんでもないです」と、人のよい笑顔を見せた。
まだ十九歳の、純朴な青年である。
慧一は秘かに気合を入た。
ガラス張りの明るい店内には、海水浴場から流れてきた若い女性やカップルが、水着姿で休息している。
外階段からも入ることが出来るこのカフェは、開放的な雰囲気が魅力で、若者に人気があった。
慧一はビキニスタイルの女性達に頬を緩めるが、すぐ進藤に向き直って椅子に座る。
「君、組合の三原峰子さんと同じ高校だったね。彼女について、少し教えてほしいんだけど」
「みはら……さんですか? ああ、組合の事務員さんの」
「うん、ちょっとね。関心があって」
「えっ、滝口さんがですか」
進藤は不思議そうな顔をした。
「ん? おかしいか」
「あ……いえ、だってあなたはその」
「俺は?」
進藤は少し言いにくそうにした。
「すみません。同じ課の人たちから、あなたはすごくモテる人だって聞いてますし、三原さんみたいなタイプが好みだとは意外でしたから」
関心があると言うのを、気があると解釈したらしい。それならそれでもいいと慧一は思い、話を続けた。
「うん、そうかもね。まあとにかく、彼女について知ってることを教えてほしんだけど。例えば、え~と……何部にいたとか」
鎌をかけてみる。
「部活ですか? あの人は文化系でしたよ。確か、なんて言ったっけ。ち……地球がどうとか。石ころを山に拾いに行って集めて来るような」
慧一は内心、にやりとした。
「もしかして地学部?」
「あっ、そうです、それです。僕の友達が所属してたから、覚えがあります。オタクな先輩がいるって」
「オタク?」
新鮮な言葉を聞いたと思った。
「あ、すみません。僕が言ったんじゃないんです」
進藤は慌てたように、顔の前で手を振る。
「いや、いいんだ。そのオタクがもしかして三原峰子?」
「はあ、そうです。何でも、アニメとか漫画が大好きで、少し変わってるらしいです」
「ほうほう、どんな風に?」
慧一は運ばれてきたアイスコーヒーを脇によけて、身を乗り出した。
「三原さんは、自分で本……同人誌っていうのを作ってて、どこかに売りに行くのが趣味とかで。聞いたことありませんか? コミック即売会とかいうオタク系のイベント。あれには毎年参加してるらしいですよ。文章も絵も上手くて、けっこう売れてるって話でした」
「ふうん。要するに、彼女はオタクってわけだ。それで、その同人誌のイベントには今も参加してるのかな」
慧一の問いに、進藤は「うーん」と首を傾げる。
「多分、参加してると思いますよ。ああいう趣味は、一度ハマったら楽しくて仕方ないらしいですから」
「そうか。コミック……即売会?」
「はい。毎年夏に開催されてますよ。盆休み中だと思います」
「君、詳しいね」
慧一は感心し、この前まで現役の高校生だった進藤の顔を、まじまじと眺めた。
「だって、テレビでも紹介されたり、有名ですから。社会現象ですよ、あのイベントは」
◇ ◇ ◇
進藤にコーヒー代を奢るとカフェを出た。
海岸通りを家に向かって歩きながら、慧一は話をまとめてみる。
三原峰子は「モース」4の制作者に確定だ。
証拠固めは出来た。
進藤が、峰子が所属した地学部の後輩の友達だったのは幸運である。この偶然は、天の導きにすら思えた。
峰子のいかにも地味で大人しそうな雰囲気と、同人誌の現実に即さない性描写。そのギャップの面白みに、慧一はあらためてほくそ笑む。
ニヤニヤと笑いつつ、自宅への近道である石段を上り、さらに近道であるスイカ畑を横切ろうとすると怒鳴り声が飛んできた。
「こおらあーっ!! 貴様、どこを歩いておる、このばか者が!」
振り向くと、手ぬぐいを頭に被った年寄りが、すごい勢いで走って来る。この畑の持ち主、石田の爺だ。
「悪いね、呼び出して」
これまで面識のない、他部署の先輩社員に突然呼び出された進藤だが、「いえ、とんでもないです」と、人のよい笑顔を見せた。
まだ十九歳の、純朴な青年である。
慧一は秘かに気合を入た。
ガラス張りの明るい店内には、海水浴場から流れてきた若い女性やカップルが、水着姿で休息している。
外階段からも入ることが出来るこのカフェは、開放的な雰囲気が魅力で、若者に人気があった。
慧一はビキニスタイルの女性達に頬を緩めるが、すぐ進藤に向き直って椅子に座る。
「君、組合の三原峰子さんと同じ高校だったね。彼女について、少し教えてほしいんだけど」
「みはら……さんですか? ああ、組合の事務員さんの」
「うん、ちょっとね。関心があって」
「えっ、滝口さんがですか」
進藤は不思議そうな顔をした。
「ん? おかしいか」
「あ……いえ、だってあなたはその」
「俺は?」
進藤は少し言いにくそうにした。
「すみません。同じ課の人たちから、あなたはすごくモテる人だって聞いてますし、三原さんみたいなタイプが好みだとは意外でしたから」
関心があると言うのを、気があると解釈したらしい。それならそれでもいいと慧一は思い、話を続けた。
「うん、そうかもね。まあとにかく、彼女について知ってることを教えてほしんだけど。例えば、え~と……何部にいたとか」
鎌をかけてみる。
「部活ですか? あの人は文化系でしたよ。確か、なんて言ったっけ。ち……地球がどうとか。石ころを山に拾いに行って集めて来るような」
慧一は内心、にやりとした。
「もしかして地学部?」
「あっ、そうです、それです。僕の友達が所属してたから、覚えがあります。オタクな先輩がいるって」
「オタク?」
新鮮な言葉を聞いたと思った。
「あ、すみません。僕が言ったんじゃないんです」
進藤は慌てたように、顔の前で手を振る。
「いや、いいんだ。そのオタクがもしかして三原峰子?」
「はあ、そうです。何でも、アニメとか漫画が大好きで、少し変わってるらしいです」
「ほうほう、どんな風に?」
慧一は運ばれてきたアイスコーヒーを脇によけて、身を乗り出した。
「三原さんは、自分で本……同人誌っていうのを作ってて、どこかに売りに行くのが趣味とかで。聞いたことありませんか? コミック即売会とかいうオタク系のイベント。あれには毎年参加してるらしいですよ。文章も絵も上手くて、けっこう売れてるって話でした」
「ふうん。要するに、彼女はオタクってわけだ。それで、その同人誌のイベントには今も参加してるのかな」
慧一の問いに、進藤は「うーん」と首を傾げる。
「多分、参加してると思いますよ。ああいう趣味は、一度ハマったら楽しくて仕方ないらしいですから」
「そうか。コミック……即売会?」
「はい。毎年夏に開催されてますよ。盆休み中だと思います」
「君、詳しいね」
慧一は感心し、この前まで現役の高校生だった進藤の顔を、まじまじと眺めた。
「だって、テレビでも紹介されたり、有名ですから。社会現象ですよ、あのイベントは」
◇ ◇ ◇
進藤にコーヒー代を奢るとカフェを出た。
海岸通りを家に向かって歩きながら、慧一は話をまとめてみる。
三原峰子は「モース」4の制作者に確定だ。
証拠固めは出来た。
進藤が、峰子が所属した地学部の後輩の友達だったのは幸運である。この偶然は、天の導きにすら思えた。
峰子のいかにも地味で大人しそうな雰囲気と、同人誌の現実に即さない性描写。そのギャップの面白みに、慧一はあらためてほくそ笑む。
ニヤニヤと笑いつつ、自宅への近道である石段を上り、さらに近道であるスイカ畑を横切ろうとすると怒鳴り声が飛んできた。
「こおらあーっ!! 貴様、どこを歩いておる、このばか者が!」
振り向くと、手ぬぐいを頭に被った年寄りが、すごい勢いで走って来る。この畑の持ち主、石田の爺だ。
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