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腐女子峰子
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どうしても、彼女とデートがしたい。
誘いをかわされた反動なのか、慧一は峰子に執着心を持った。
(どうすればいいかな)
慧一はこれまで、女性に誘われて気が乗れば食事だのホテルだのに付き合ってきた。
それなりに楽しく充実した時間を過ごしたと思っている。途中で相手を怒らせ、デートを破綻させることも少なくなかったが。
慧一から女性を誘ったのは久しぶりだった。
そして、断られたのは初めてである。
あの子は擦れていない――と、慧一は確信している。
男と付き合った経験は皆無だろう。初対面の印象どおり、間違いのない、まっさらな処女だ。
「あの子が欲しい……」
ストレートな願望が唇から漏れた。
日曜日の午前中、部屋のベッドに横たわり、遠雷の轟きを聞いている。
窓の外は雨。
蒸し暑く、どこへ行く気にもならない。
「あ~、くそっ!」
慧一はどうしようもなくなってきた。
七月最後の土曜日。大の男が部屋に閉じこもって悶々とするのは不健康だ。
起き上がって胡坐をかくと、しばし考える。
雨だれの音が忙しなく、どうでもいいから外に出ろとせっついているようだ。
「あの子の真似でもしてみるか」
車のキーを掴むと、部屋を出た。
◇ ◇ ◇
鉛色の海を右手に、車を走らせた。
雨に煙る道。
助手席には誰もいない。
(今、隣に誰かを乗せるとしたら三原峰子だ)
フロントガラスに集中しながら、気がつけばあの子のことばかり考えている。
ずっと年下の、少女のようなあの子なのにとても気になる。
「恋かな……」
ほとんど何も知らない相手を好きになるなんてこと、ありうるだろうか。
一目惚れってやつか。
慧一は初めての経験に戸惑うが、どうにも幸せな気分だった。鼻歌を歌いながら、市立図書館の駐車場へと車を入れる。
二年前に建てられたという図書館は、デザイナーズマンションのようなモダンな外観と、広い土地を生かした奥行きを持っていた。
そのゆったりとした空間にも窮屈なぐらい、さまざまな分野・形態の本が豊富に配架されている。
映像や音楽などAV資料・CDの貸し出しも行っており、ヘッドホンをつけて鑑賞する人も多く見られる。専用のコーナーは、ほぼ埋まっていた。
図書館など何年ぶりだろう。
静かな、咳をするのもはばかられるような独特の空気の中を、慧一はゆっくりと奥へ進んだ。
ガラス張りの向こうは学習室になっているようで、中高生らしき男女がノートを広げて勉強する姿があった。
(そういえば、今は夏休みの時期か)
慧一はまず工業関係の書籍コーナーで、仕事絡みの本を眺めた。二冊ほど選んだ後、車やスポーツの雑誌を手に取り、適当なソファに腰掛ける。
「えらくクッションがいいな」
足を組み、悠々と座ることのできる椅子に目を見張る。自分が学生の頃とは設備も備品も“もの”が違うのを実感した。
新築の図書館は、彼の概念にある公共施設と違い、快適な設計がなされている。
居心地の良さに感心し、峰子が好んで通うのも分かる気がしてきた。本だけが図書館の魅力ではないのだろう。
しばらく読書に集中していたが、慧一は段々と眠くなってきた。空調がきいた館内は気持ちがよく、落ち着きすぎるらしい。
伸びをすると立ち上がり、返却棚へ本を戻してから辺りを見回す。目を留めた案内板には、二階に喫茶室があると表示されている。
「腹も減ったし、何か食っていくか」
時計を見ると、あと五分ほどで正午だ。本を読むうち、いつの間にか時間が経っていたのだ。
慧一はもう一度辺りを見回し、ふっと息をつく。
ひょっとして峰子が来ているかも知れない……と考えないでもなかったが、誘いを断っておいてそれは無いだろう。
あの子の場合、それはあり得ない。そんな気がした。
だが不思議なことに、犬も歩けば棒に当たる。それが人と人の縁というものなのか――
柱を巻いてらせん状になっている階段を上がる途中、ある言葉が耳に聞こえてきた。
「ケイだ」
その単語に覚えが無ければ聞き逃すような、小さな声だった。
慧一は足を止め、声のした方向へ耳をそばだてる。
「リアルケイだよ」
サッと振り返り、勢いよく階段を駆け下りた。
見ると、階段の上り口のところで、一人の女性が立ち竦んでいる。
いきなり降り立った彼に、驚いたのだろう。小柄な身体に大きなバッグを抱いたその女性は、目を瞬かせた。
誘いをかわされた反動なのか、慧一は峰子に執着心を持った。
(どうすればいいかな)
慧一はこれまで、女性に誘われて気が乗れば食事だのホテルだのに付き合ってきた。
それなりに楽しく充実した時間を過ごしたと思っている。途中で相手を怒らせ、デートを破綻させることも少なくなかったが。
慧一から女性を誘ったのは久しぶりだった。
そして、断られたのは初めてである。
あの子は擦れていない――と、慧一は確信している。
男と付き合った経験は皆無だろう。初対面の印象どおり、間違いのない、まっさらな処女だ。
「あの子が欲しい……」
ストレートな願望が唇から漏れた。
日曜日の午前中、部屋のベッドに横たわり、遠雷の轟きを聞いている。
窓の外は雨。
蒸し暑く、どこへ行く気にもならない。
「あ~、くそっ!」
慧一はどうしようもなくなってきた。
七月最後の土曜日。大の男が部屋に閉じこもって悶々とするのは不健康だ。
起き上がって胡坐をかくと、しばし考える。
雨だれの音が忙しなく、どうでもいいから外に出ろとせっついているようだ。
「あの子の真似でもしてみるか」
車のキーを掴むと、部屋を出た。
◇ ◇ ◇
鉛色の海を右手に、車を走らせた。
雨に煙る道。
助手席には誰もいない。
(今、隣に誰かを乗せるとしたら三原峰子だ)
フロントガラスに集中しながら、気がつけばあの子のことばかり考えている。
ずっと年下の、少女のようなあの子なのにとても気になる。
「恋かな……」
ほとんど何も知らない相手を好きになるなんてこと、ありうるだろうか。
一目惚れってやつか。
慧一は初めての経験に戸惑うが、どうにも幸せな気分だった。鼻歌を歌いながら、市立図書館の駐車場へと車を入れる。
二年前に建てられたという図書館は、デザイナーズマンションのようなモダンな外観と、広い土地を生かした奥行きを持っていた。
そのゆったりとした空間にも窮屈なぐらい、さまざまな分野・形態の本が豊富に配架されている。
映像や音楽などAV資料・CDの貸し出しも行っており、ヘッドホンをつけて鑑賞する人も多く見られる。専用のコーナーは、ほぼ埋まっていた。
図書館など何年ぶりだろう。
静かな、咳をするのもはばかられるような独特の空気の中を、慧一はゆっくりと奥へ進んだ。
ガラス張りの向こうは学習室になっているようで、中高生らしき男女がノートを広げて勉強する姿があった。
(そういえば、今は夏休みの時期か)
慧一はまず工業関係の書籍コーナーで、仕事絡みの本を眺めた。二冊ほど選んだ後、車やスポーツの雑誌を手に取り、適当なソファに腰掛ける。
「えらくクッションがいいな」
足を組み、悠々と座ることのできる椅子に目を見張る。自分が学生の頃とは設備も備品も“もの”が違うのを実感した。
新築の図書館は、彼の概念にある公共施設と違い、快適な設計がなされている。
居心地の良さに感心し、峰子が好んで通うのも分かる気がしてきた。本だけが図書館の魅力ではないのだろう。
しばらく読書に集中していたが、慧一は段々と眠くなってきた。空調がきいた館内は気持ちがよく、落ち着きすぎるらしい。
伸びをすると立ち上がり、返却棚へ本を戻してから辺りを見回す。目を留めた案内板には、二階に喫茶室があると表示されている。
「腹も減ったし、何か食っていくか」
時計を見ると、あと五分ほどで正午だ。本を読むうち、いつの間にか時間が経っていたのだ。
慧一はもう一度辺りを見回し、ふっと息をつく。
ひょっとして峰子が来ているかも知れない……と考えないでもなかったが、誘いを断っておいてそれは無いだろう。
あの子の場合、それはあり得ない。そんな気がした。
だが不思議なことに、犬も歩けば棒に当たる。それが人と人の縁というものなのか――
柱を巻いてらせん状になっている階段を上がる途中、ある言葉が耳に聞こえてきた。
「ケイだ」
その単語に覚えが無ければ聞き逃すような、小さな声だった。
慧一は足を止め、声のした方向へ耳をそばだてる。
「リアルケイだよ」
サッと振り返り、勢いよく階段を駆け下りた。
見ると、階段の上り口のところで、一人の女性が立ち竦んでいる。
いきなり降り立った彼に、驚いたのだろう。小柄な身体に大きなバッグを抱いたその女性は、目を瞬かせた。
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