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必ず捕まえる
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女性向けのイベントとはつまり、男性同士の恋愛を扱った同人誌などを売買するマーケットであり、趣味の交歓会である。
と、慧一が話しかけたスタッフが教えてくれた。午前中から大盛況だと、彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。
なるほど、参加者は確かに女性ばかり。比較的若い層が目立つが、年季の入った者も散見される。
「えっと、峰子ちゃんはBの11です。西の壁際のスペースにいますよ」
パンフレットに閉じ込みのサークル配置図を見せながら、京子が指をさす。
「ふうん」
慧一は背伸びしたが、ここからは人垣が邪魔して、峰子の姿を見ることはできない。
「よく見ると男もいるな」
「ええ。男性でも好きな人がいますから。ちなみに彼らは腐男子とか腐兄とか呼ばれています」
「ふ……それも当て字で?」
「はい。腐女子と同じです。あと、他にもいろいろあるんですよ。腐女子が年齢を重ねると、貴腐人と呼ばれたりします」
「ほう、ワインみたいだな」
「または腐レディーとか、あるいはこういうのもあります。腐ェニックス」
「あっはは!」
慧一はこの世界における言葉のセンスに感銘すら覚える。
自らそう呼んだか、それとも外野から呼ばれたのか不明だが、実に面白い。ユニークで、洒落が効いている。
「慧一さん、それよりもびっくりしないで下さいね。同人誌の中にはかなり過激なものもありますから。もっとも最近はイベント側もチェックが厳しいから、過激と言ってもぬるいもんですけど」
京子に注意されるまでもなく、そこここに並ぶ本の表紙に、慧一は驚いている。
男同士が半裸で絡み合うもの、片方が緊縛されるもの、さまざまな倒錯的欲望が美麗なタッチで表現されている。
コンセプト的にはレンタル屋のアダルトコーナーを連想させる。が、やはり違う。描き手が女性のためか、独特の美意識があるようだ。
西側の壁まで来ると、慧一はふと思いついて京子に見向く。
「京子ちゃん、ちょっと待っててくれないか。俺一人で、彼女のところに行きたいんだ」
京子は意外そうな顔で慧一を見上げる。
「大丈夫ですか」
「ああ。まあ見ててくれよ」
心配する京子に微笑むと、峰子のスペースへと迷いのない足取りで進んだ。
「……居た!」
慧一は、とうとう峰子を見つけた。
長テーブルに自作の同人誌を並べ、訪れる客達と言葉を交わしながら、楽しそうに笑っている。
会社での彼女とはかなり雰囲気が違う。服装も態度も。
三つ編みをほどいて、背中にウエーブのかかった髪を下ろしている。眼鏡はそのままだが、きちんと化粧をしているようだ。いつものほとんど色のない口紅ではなく、遠目にも分かる薔薇色である。
シンプルなワンピースは襟ぐりが広く、普段はブラウスに隠れた素肌が露わだった。その白い胸元には小さな青い石が飾られ、奥ゆかしい色香を演出している。
「いいね」
慧一は満足そうに頷くと、客がひけたのを見計らって彼女の正面に立つ。
峰子は段ボール箱から同人誌を取り出し、それをテーブルに並べている。慧一はズボンのポケットに両手を突っ込んだ格好で、上から彼女を見つめた。
「どうぞご覧になってくださ……」
峰子は不意に手を止め、ゆっくりと顔を上げる。スペースの前に無言で突っ立っている人物を、不自然に感じたようだ。
そして、その人物を瞳に映すと、雷に打たれたかのようにビクッと震えた。
「こんにちは、三原峰子さん」
慧一の口調も眼差しも、これ以上無いぐらいやさしく温かなものだった。こんな態度を女性に対して取りうるのだと、彼自身が驚いている。
峰子が絶句する間にも、新しい客が一人二人と寄って来る。
客らはテーブルの上の『モース』と、スペースの前で場を取っている背の高い男を、交互に見やった。
そして暫しの後、数人の客がその関係性に気が付く。
「ケイ……!?」
一人が叫び、その連れや周りにいる峰子のファンと思しき女性らも、あらためて慧一を見上げた。慧一は堂々とした態度で、視線を浴びている。
「やだ! 嘘! 本当だ、そっくり」
「ミイさん、この人がモデルなんですか? ケイにモデルがいたの?」
「じゃあ、シンにもモデルが? どこかに来てるの?」
口々に質問され、峰子はひたすら頭を振っていたが、いきなり立ち上がるとテーブルの脇から出てきた。
「こっちに……」
慧一の腕を引っ張り、速足で歩き出した。
途中で京子とばったり出くわすと、峰子は慌てふためき、
「あっ、京子ちゃんゴメン! ちょっと……ハプニングが起こって……あの、店番頼んでいいかな」
何も知らずにそう言って、ただただ頷く京子の横を通り抜ける。
慧一は腕を引っ張られながらも、不安げな京子にニヤリと笑い、サムアップで合図を送った。
と、慧一が話しかけたスタッフが教えてくれた。午前中から大盛況だと、彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。
なるほど、参加者は確かに女性ばかり。比較的若い層が目立つが、年季の入った者も散見される。
「えっと、峰子ちゃんはBの11です。西の壁際のスペースにいますよ」
パンフレットに閉じ込みのサークル配置図を見せながら、京子が指をさす。
「ふうん」
慧一は背伸びしたが、ここからは人垣が邪魔して、峰子の姿を見ることはできない。
「よく見ると男もいるな」
「ええ。男性でも好きな人がいますから。ちなみに彼らは腐男子とか腐兄とか呼ばれています」
「ふ……それも当て字で?」
「はい。腐女子と同じです。あと、他にもいろいろあるんですよ。腐女子が年齢を重ねると、貴腐人と呼ばれたりします」
「ほう、ワインみたいだな」
「または腐レディーとか、あるいはこういうのもあります。腐ェニックス」
「あっはは!」
慧一はこの世界における言葉のセンスに感銘すら覚える。
自らそう呼んだか、それとも外野から呼ばれたのか不明だが、実に面白い。ユニークで、洒落が効いている。
「慧一さん、それよりもびっくりしないで下さいね。同人誌の中にはかなり過激なものもありますから。もっとも最近はイベント側もチェックが厳しいから、過激と言ってもぬるいもんですけど」
京子に注意されるまでもなく、そこここに並ぶ本の表紙に、慧一は驚いている。
男同士が半裸で絡み合うもの、片方が緊縛されるもの、さまざまな倒錯的欲望が美麗なタッチで表現されている。
コンセプト的にはレンタル屋のアダルトコーナーを連想させる。が、やはり違う。描き手が女性のためか、独特の美意識があるようだ。
西側の壁まで来ると、慧一はふと思いついて京子に見向く。
「京子ちゃん、ちょっと待っててくれないか。俺一人で、彼女のところに行きたいんだ」
京子は意外そうな顔で慧一を見上げる。
「大丈夫ですか」
「ああ。まあ見ててくれよ」
心配する京子に微笑むと、峰子のスペースへと迷いのない足取りで進んだ。
「……居た!」
慧一は、とうとう峰子を見つけた。
長テーブルに自作の同人誌を並べ、訪れる客達と言葉を交わしながら、楽しそうに笑っている。
会社での彼女とはかなり雰囲気が違う。服装も態度も。
三つ編みをほどいて、背中にウエーブのかかった髪を下ろしている。眼鏡はそのままだが、きちんと化粧をしているようだ。いつものほとんど色のない口紅ではなく、遠目にも分かる薔薇色である。
シンプルなワンピースは襟ぐりが広く、普段はブラウスに隠れた素肌が露わだった。その白い胸元には小さな青い石が飾られ、奥ゆかしい色香を演出している。
「いいね」
慧一は満足そうに頷くと、客がひけたのを見計らって彼女の正面に立つ。
峰子は段ボール箱から同人誌を取り出し、それをテーブルに並べている。慧一はズボンのポケットに両手を突っ込んだ格好で、上から彼女を見つめた。
「どうぞご覧になってくださ……」
峰子は不意に手を止め、ゆっくりと顔を上げる。スペースの前に無言で突っ立っている人物を、不自然に感じたようだ。
そして、その人物を瞳に映すと、雷に打たれたかのようにビクッと震えた。
「こんにちは、三原峰子さん」
慧一の口調も眼差しも、これ以上無いぐらいやさしく温かなものだった。こんな態度を女性に対して取りうるのだと、彼自身が驚いている。
峰子が絶句する間にも、新しい客が一人二人と寄って来る。
客らはテーブルの上の『モース』と、スペースの前で場を取っている背の高い男を、交互に見やった。
そして暫しの後、数人の客がその関係性に気が付く。
「ケイ……!?」
一人が叫び、その連れや周りにいる峰子のファンと思しき女性らも、あらためて慧一を見上げた。慧一は堂々とした態度で、視線を浴びている。
「やだ! 嘘! 本当だ、そっくり」
「ミイさん、この人がモデルなんですか? ケイにモデルがいたの?」
「じゃあ、シンにもモデルが? どこかに来てるの?」
口々に質問され、峰子はひたすら頭を振っていたが、いきなり立ち上がるとテーブルの脇から出てきた。
「こっちに……」
慧一の腕を引っ張り、速足で歩き出した。
途中で京子とばったり出くわすと、峰子は慌てふためき、
「あっ、京子ちゃんゴメン! ちょっと……ハプニングが起こって……あの、店番頼んでいいかな」
何も知らずにそう言って、ただただ頷く京子の横を通り抜ける。
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