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軽音に興味を示す東雲
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六月中旬、梅雨に入っていた。
昼休み、東雲の姿はなかった。東雲は日によって学食で食べている。毎日弁当というわけではなかった。
篠塚は購買部で買ってきたメンチカツサンドをひとりかじりついていた。
離れたところで西潟が三日月らと談笑しながら弁当を食べていた。
東雲はクラスメイトとどうにか最低限のコミュニケーションをとれるようにはなっていたが、特定の友人をつくらなかった。弁当持参の日は西潟らと食べている。学食の日はひとりだ。
誰と話をしているかと篠塚は見に行ったこともあった。特定の相手はいなかった。ただ、下級生と思われる女子生徒二人と食べているのを見かけたことがある。
その女子生徒二人が東雲を訪ねてきた。ちょうどゴミを教室出入口近くのくずかごに捨てようと篠塚が出入口に来た際に彼女たちが来たのだ。
「あのう」とひとりが篠塚に訊いた。「東雲さん、いらっしゃいますか?」
「今、いないよ。学食だと思うけど」
「私たち、さっきまで東雲さんとお食事していたのですけれど、東雲さんに渡すものを渡し忘れていたので持って来ました」
「あ、そうなんだ。僕が渡しておこうか?」
「え、良いんですか? ではお願いします」彼女らが篠塚にあずけたのは楽譜だった。
「これって、楽譜だよね。彼女、軽音に入ったの?」
「幽霊部員でも良いですからって私たちがお願いしました」
「東雲さんの方から軽音部にコンタクトしたの?」篠塚は興味を持った。
「単なる気紛れかもしれませんが、私たちは期待しています。それから、軽音部ではなくて、今は軽音同好会です。これから部にしていきます」
「そうなんだ。頑張ってね」
「あの、篠塚さんはいかがですか、軽音」
「僕は音楽ダメだよ、ごめんね」
「そうですか、残念」彼女たちは本当に残念そうな顔をした。
制服についている名札から高等部一年の中峰と中等部三年の鮫島とわかった。おそらく自分の名も名札から読み取ったのだろうと篠塚は思った。
毎日部員を勧誘しているのだろう。一時期軽音部が盛んに活動していたこともあったが、主力がみんな卒業して今は人が足りていないようだ。
下級生二人が去って間もなく、東雲は帰ってきた。
篠塚は東雲に預かっていた楽譜を渡した。
「中峰さんと鮫島さんが持ってきたよ」
「ありがとう」東雲はそれだけ言って受け取った。
「軽音に入ったの?」
「仮入部。続くかしら」
「そんなにヘビーでもなさそうだけど」
「ゆるゆるとやっているように見えたんだけど、結構真剣だったのよ」
「真剣じゃダメなの?」
「私、真剣になれない人間なの」そんなことを無表情で言う。バスケットで熱くなった人間とは思えなかった。
「いえ、真剣でも良いのだけれど、上を目指さないでほしい。大会に出るとか勘弁してほしいの。趣味をガチでやるなら大丈夫」
「あの子達、大会出場レベルを目指しているの?」
「コンサートする場所がないからそれもわかるのだけれど……」
確かに軽音同好会ではなかなか活動の場はないかもしれない。音楽室も使わせてもらえないだろうし、と篠塚は思った。
「音楽室は交渉次第だと思うよ。部活連とか生徒会に相談してみては?」
「やっぱりそうよね」
「なんなら、僕が口利こうか?」
副会長の東矢泉月は四年間同じクラスで同じグループだったし、会長の舞子実里もよく知っている。
「それは自分で何とかするから大丈夫。ありがとう」
東雲は何でも自分で解決するタイプのようだ。篠塚の出る幕はなさそうだった。
昼休み、東雲の姿はなかった。東雲は日によって学食で食べている。毎日弁当というわけではなかった。
篠塚は購買部で買ってきたメンチカツサンドをひとりかじりついていた。
離れたところで西潟が三日月らと談笑しながら弁当を食べていた。
東雲はクラスメイトとどうにか最低限のコミュニケーションをとれるようにはなっていたが、特定の友人をつくらなかった。弁当持参の日は西潟らと食べている。学食の日はひとりだ。
誰と話をしているかと篠塚は見に行ったこともあった。特定の相手はいなかった。ただ、下級生と思われる女子生徒二人と食べているのを見かけたことがある。
その女子生徒二人が東雲を訪ねてきた。ちょうどゴミを教室出入口近くのくずかごに捨てようと篠塚が出入口に来た際に彼女たちが来たのだ。
「あのう」とひとりが篠塚に訊いた。「東雲さん、いらっしゃいますか?」
「今、いないよ。学食だと思うけど」
「私たち、さっきまで東雲さんとお食事していたのですけれど、東雲さんに渡すものを渡し忘れていたので持って来ました」
「あ、そうなんだ。僕が渡しておこうか?」
「え、良いんですか? ではお願いします」彼女らが篠塚にあずけたのは楽譜だった。
「これって、楽譜だよね。彼女、軽音に入ったの?」
「幽霊部員でも良いですからって私たちがお願いしました」
「東雲さんの方から軽音部にコンタクトしたの?」篠塚は興味を持った。
「単なる気紛れかもしれませんが、私たちは期待しています。それから、軽音部ではなくて、今は軽音同好会です。これから部にしていきます」
「そうなんだ。頑張ってね」
「あの、篠塚さんはいかがですか、軽音」
「僕は音楽ダメだよ、ごめんね」
「そうですか、残念」彼女たちは本当に残念そうな顔をした。
制服についている名札から高等部一年の中峰と中等部三年の鮫島とわかった。おそらく自分の名も名札から読み取ったのだろうと篠塚は思った。
毎日部員を勧誘しているのだろう。一時期軽音部が盛んに活動していたこともあったが、主力がみんな卒業して今は人が足りていないようだ。
下級生二人が去って間もなく、東雲は帰ってきた。
篠塚は東雲に預かっていた楽譜を渡した。
「中峰さんと鮫島さんが持ってきたよ」
「ありがとう」東雲はそれだけ言って受け取った。
「軽音に入ったの?」
「仮入部。続くかしら」
「そんなにヘビーでもなさそうだけど」
「ゆるゆるとやっているように見えたんだけど、結構真剣だったのよ」
「真剣じゃダメなの?」
「私、真剣になれない人間なの」そんなことを無表情で言う。バスケットで熱くなった人間とは思えなかった。
「いえ、真剣でも良いのだけれど、上を目指さないでほしい。大会に出るとか勘弁してほしいの。趣味をガチでやるなら大丈夫」
「あの子達、大会出場レベルを目指しているの?」
「コンサートする場所がないからそれもわかるのだけれど……」
確かに軽音同好会ではなかなか活動の場はないかもしれない。音楽室も使わせてもらえないだろうし、と篠塚は思った。
「音楽室は交渉次第だと思うよ。部活連とか生徒会に相談してみては?」
「やっぱりそうよね」
「なんなら、僕が口利こうか?」
副会長の東矢泉月は四年間同じクラスで同じグループだったし、会長の舞子実里もよく知っている。
「それは自分で何とかするから大丈夫。ありがとう」
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