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場の雰囲気を変える九人目
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扉が開いて顔を覗かせたのは小学校低学年くらいの男の子だった。
どこか別の部屋と間違えたのかと篠塚は思った。
しかし男の子は小原の姿を見つけて「あ、梨花ちゃんだー」と叫んで飛び込んできたかと思うと、腰かけていた小原の胸めがけて飛びついた。
「うへ、痛いぞ、玲音くん」小原は男の子を知っているようだった。
一方、扉から別の人物が姿を現した。
「こっちはもう出来上がってるな」
「明音だ、ヤッホー」高原が声に出し、一部は立ち上がった。
浅倉明音改め小早川明音だった。この春両親の離婚で名字が変わっていた。
「主役は最後に現れるってね」小早川は照れたように言った。
このメンバーの集まりに彼女が姿を見せるのはいつ以来か。名字が変わってからは初めてだろう。
小早川は紺のシャツに水色のスキニーパンツ姿で、いかにも普段着の様相だった。
「ごめんね、こぶつきで。他にもこぶがたくさんついてきたから別の部屋に押し込めてきた」と小早川は申し訳なさそうに言った。
「それは良いけど、明音、この子どうにかして」
見ると小原に飛びついた玲音とかいう男の子がしっかりと小原の胸を揉んでいた。
「玲音、離れなさい、何やってるの!」小早川の叱責がとんだ。
「へへ、柔らかい……」玲音はにへらーっと笑った。
「おっと、これは羨ましい」樋笠は本当に羨ましそうな顔をした。
「バカか、あんたは」小原は怒っていた。
小早川が玲音を小原から引き離した。そして二つのこめかみに拳を当ててグリグリとさせた。
「痛いよ、お姉ちゃん」玲音が悲鳴をあげた。
「明音の弟なのか?」篠塚は訊いた。
「そうよ、双子の一人。もう一人の妹は別の部屋で歌ってる」
篠塚は知らなかったが、渋谷などは知っているようで「大きくなったなあ」と言って頭を撫でていた。
「お姉ちゃんのおっぱい、大きくて柔らかかったろう?」
「うん」
二人顔を見合わせて笑っている。
「何言ってるの、アホー!」小原が怒る。
「確かに、小さいくせに胸はF組だからな」樋笠が笑いながら言った。
小原は二年F組。そしてF組はFカップ組とも呼ばれていた。
「それにしても良い教育してるな。男親がいないように見えない」渋谷が感心している。
「誰かに教わったわね、変なこと。だいたいわかるけど」小早川はかがんで弟に目線を合わせた。
「うん、ほーちゃんだよ」
「やっぱりあいつか。しばく!」
「誰、それ?」樋笠が訊いた。
「同じマンションの住人よ……」言いかけて小早川は口を噤んだ。
「ああ、そういう……」小原は納得したような顔をした。
前薗も目を細めた。一部の者は知っているようだ。
「玲音は莉音たちの部屋に行ってなさい」
「うん、わかった」玲音は素直に頷き、「またねー」と小原や渋谷に手を振って出ていった。
「双子の弟がいたんだね、何年生?」改めて篠塚は小早川に話しかけた。
「二年生よ。弟と妹」小早川は答えてから改めて篠塚を見た。「シュウも久しぶりね」
「ああ、そうだね」
篠塚の呼び名は「シノ」が一般的だったが「シュウ」と呼ばれることもあった。その呼び方をされたのは久しぶりだった。
「クラスでボッチなんだって?」小早川は遠慮なく踏み込んでくる。
「ああ、そうだけど、誰に聞いたんだ? 大地か?」
「まあ、そんなところ」小早川は彼女らしくなく曖昧な答え方をした。
「明音」渋谷が離れたところから声をかける。「シノの相手がすんだらオレのとこ、来いよ」
「あ、わかった、わかった。うるさいな」小早川は渋谷を見ずに手を振った。
渋谷に遠慮なく「うるさいな」と言える女子がどのくらいいるだろう。
中等部時代の浅倉明音は渋谷に対してぐいぐい積極的にアプローチしていたのを篠塚は思い出した。あの時渋谷は東矢泉月に告ったりして、それがきっかけで浅倉明音の渋谷への思いは消えたのだ。
そして今目の前にいる小早川明音は渋谷を邪険に扱うことができる人間になっていた。
「ダメよ、番長は私たちが相手するんだから」小原も来ていた。前薗も寄ってくる。
「だから、その呼び方やめてって」
小早川は小原の両頬をがっちりつかんだ。そして挟み込んで小原の口をタコのようにする。
「きゃあ、可愛い、梨花」小早川は嬉しそうに言った。
「人の顔で遊ばないでよ」小原は憤るが、その顔はぷくうっとしていてなお可愛かった。
滅多に来ない人間が来るといつもとは違う盛り上がり方になる。
「なんだよ、オレはのけ者か?」渋谷が拗ねる姿も珍しい。
それを見て高原と神々廻が声を出して笑った。「恭平、あわれー」「ざまあないな、恭平」
そしてしばらく宴が続いた。
どこか別の部屋と間違えたのかと篠塚は思った。
しかし男の子は小原の姿を見つけて「あ、梨花ちゃんだー」と叫んで飛び込んできたかと思うと、腰かけていた小原の胸めがけて飛びついた。
「うへ、痛いぞ、玲音くん」小原は男の子を知っているようだった。
一方、扉から別の人物が姿を現した。
「こっちはもう出来上がってるな」
「明音だ、ヤッホー」高原が声に出し、一部は立ち上がった。
浅倉明音改め小早川明音だった。この春両親の離婚で名字が変わっていた。
「主役は最後に現れるってね」小早川は照れたように言った。
このメンバーの集まりに彼女が姿を見せるのはいつ以来か。名字が変わってからは初めてだろう。
小早川は紺のシャツに水色のスキニーパンツ姿で、いかにも普段着の様相だった。
「ごめんね、こぶつきで。他にもこぶがたくさんついてきたから別の部屋に押し込めてきた」と小早川は申し訳なさそうに言った。
「それは良いけど、明音、この子どうにかして」
見ると小原に飛びついた玲音とかいう男の子がしっかりと小原の胸を揉んでいた。
「玲音、離れなさい、何やってるの!」小早川の叱責がとんだ。
「へへ、柔らかい……」玲音はにへらーっと笑った。
「おっと、これは羨ましい」樋笠は本当に羨ましそうな顔をした。
「バカか、あんたは」小原は怒っていた。
小早川が玲音を小原から引き離した。そして二つのこめかみに拳を当ててグリグリとさせた。
「痛いよ、お姉ちゃん」玲音が悲鳴をあげた。
「明音の弟なのか?」篠塚は訊いた。
「そうよ、双子の一人。もう一人の妹は別の部屋で歌ってる」
篠塚は知らなかったが、渋谷などは知っているようで「大きくなったなあ」と言って頭を撫でていた。
「お姉ちゃんのおっぱい、大きくて柔らかかったろう?」
「うん」
二人顔を見合わせて笑っている。
「何言ってるの、アホー!」小原が怒る。
「確かに、小さいくせに胸はF組だからな」樋笠が笑いながら言った。
小原は二年F組。そしてF組はFカップ組とも呼ばれていた。
「それにしても良い教育してるな。男親がいないように見えない」渋谷が感心している。
「誰かに教わったわね、変なこと。だいたいわかるけど」小早川はかがんで弟に目線を合わせた。
「うん、ほーちゃんだよ」
「やっぱりあいつか。しばく!」
「誰、それ?」樋笠が訊いた。
「同じマンションの住人よ……」言いかけて小早川は口を噤んだ。
「ああ、そういう……」小原は納得したような顔をした。
前薗も目を細めた。一部の者は知っているようだ。
「玲音は莉音たちの部屋に行ってなさい」
「うん、わかった」玲音は素直に頷き、「またねー」と小原や渋谷に手を振って出ていった。
「双子の弟がいたんだね、何年生?」改めて篠塚は小早川に話しかけた。
「二年生よ。弟と妹」小早川は答えてから改めて篠塚を見た。「シュウも久しぶりね」
「ああ、そうだね」
篠塚の呼び名は「シノ」が一般的だったが「シュウ」と呼ばれることもあった。その呼び方をされたのは久しぶりだった。
「クラスでボッチなんだって?」小早川は遠慮なく踏み込んでくる。
「ああ、そうだけど、誰に聞いたんだ? 大地か?」
「まあ、そんなところ」小早川は彼女らしくなく曖昧な答え方をした。
「明音」渋谷が離れたところから声をかける。「シノの相手がすんだらオレのとこ、来いよ」
「あ、わかった、わかった。うるさいな」小早川は渋谷を見ずに手を振った。
渋谷に遠慮なく「うるさいな」と言える女子がどのくらいいるだろう。
中等部時代の浅倉明音は渋谷に対してぐいぐい積極的にアプローチしていたのを篠塚は思い出した。あの時渋谷は東矢泉月に告ったりして、それがきっかけで浅倉明音の渋谷への思いは消えたのだ。
そして今目の前にいる小早川明音は渋谷を邪険に扱うことができる人間になっていた。
「ダメよ、番長は私たちが相手するんだから」小原も来ていた。前薗も寄ってくる。
「だから、その呼び方やめてって」
小早川は小原の両頬をがっちりつかんだ。そして挟み込んで小原の口をタコのようにする。
「きゃあ、可愛い、梨花」小早川は嬉しそうに言った。
「人の顔で遊ばないでよ」小原は憤るが、その顔はぷくうっとしていてなお可愛かった。
滅多に来ない人間が来るといつもとは違う盛り上がり方になる。
「なんだよ、オレはのけ者か?」渋谷が拗ねる姿も珍しい。
それを見て高原と神々廻が声を出して笑った。「恭平、あわれー」「ざまあないな、恭平」
そしてしばらく宴が続いた。
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