6 / 30
図書室にいる新任教師
しおりを挟む
教室にいても退屈なのでやはり図書室に行くことにした。閲覧室は生徒で溢れていたから、書庫に入る。書庫も生徒が多かったが、静かで落ち着いた。
図書委員が貸し出し当番をしている。今日は高等部一年生がいた。ほとんど話をしない仲だが顔見知りなので手を挙げて挨拶とした。
書庫の空いている場所を探す。そこで目についた、閃いた本を手にとって借りるのが最近の習慣となっていた。
今日はヘミングウェイかフィッツジェラルドあたりの読んだことのないものを見てみようかと奥へと進んだら、白砂がいた。
相変わらず銀髪にも見える繊細な黒髪を纏めもせず下ろし、白シャツに膝上十センチほどの薄いグレイのミニスカートをはいていて、さながら異世界人のようだ。
白砂は女子生徒と二人でいた。どうも彼女は書庫にいる生徒に話しかける習性があるようだ。
白砂は遼の存在に気づき、遼の方をちらりと見やった。
その様子を察知した女子生徒は白砂に丁重に頭を下げ、その場を離れた。彼女は遼のすぐ脇を通り書庫の出入口へと向かったが、その際に遼を横目で見ていくことを忘れなかった。
セミロングに近い長めのボブに猫目で少し丸顔の美少女だった。どこかで見たことがあると思ったがすぐには思い出せなかった。
「香月君」と白砂が遼に近寄ってきた。「また会ったわね」
「先生も本が好きなのですね」
「ここにいる方が落ち着くからかな」
授業中の硬い表情は今はなかった。落ち着くのは嘘ではないようだ。
「お話の邪魔をしたようですね」
「さっきの彼女か……、舞子、今の生徒会長」
高等部三年生の舞子実里、現生徒会長だった。
「それでか……、見たことがある顔だと思ったのです」
「生徒会長くらい覚えておいた方が良いわよ」
「いつも遠くから見ているので気づきませんでした。それに少し雰囲気が違ったようにも見えます」
「それは生徒会長ではなく、一生徒の時の彼女だからかな」
「よくご存じなのですね、生徒会長のことを」
「私が高等部三年生の時の中等部一年生で、同じ文芸部だった」
「先生、文芸部だったのですか? それに舞子生徒会長も?」
「舞子は今は文芸部を抜けているようだけれど……」生徒会役員に専念するためだろうか。「もう私が在籍していた頃の顔見知りは高等部三年生の一部だけだわ」
そうなるのか、と遼は納得した。
「本が好きなら文芸部に入ったりしないの?」
「文芸部って、何をするところですか? 本を読むだけならひとりで読めると思いますが」
「本の紹介文を書いたり、一部の部員は執筆している。小説とかエッセイとか評論とか」
「書くのは苦手です。たとえそれが紹介文であっても。だからオレには向いてないですね」
「それは残念だわ」
「先生はもう文芸部ではないでしょう? 勧誘しなくても」
「勧誘ではなくて、君が何か打ち込めるものがあれば良いと思ったのよ」
「なくても生きていけますので」
「さびしいわね」
「それは他人が感じる感情です。本人は何とも思ってないですよ」
「そうなんだ……、君は強い人間みたいね」白砂は少しうつむき、目を伏せた。
「先生、もしかして、いきなり壁にぶち当たりました? まだ四月ですが」
「はっきりと言うわね」白砂は顔を上げ、恨めしそうに遼を見た。「意外と意地が悪いの?」
「とても意地悪です」
「私がいた頃と違って、優秀な生徒が増えたわ。中には教える私よりもよくできる子もいる。そういう子にいじられるとへこむわね」
「いちいち気にしていたら教師なんてやってられないのではありませんか? 手のかかる生徒なんて必ずいるでしょう」
「君みたいな生徒ばかりなら良いかな」
「そういう皮肉が言えるなら大丈夫ですね」
「皮肉でもないのだけれど……」
「ちなみにA組はどうですか?」
「優等生が多くて緊張するわ」
「苦手な生徒はいますか?」
「苦手というほどの子はいないかしら」
「じゃあオレたちもまだまだですね」
「君は今まで通りおとなしく聴いていてくれれば良いわ」
「では先生の美貌をひたすら鑑賞しておきます」
あきれたように口を開け、言葉が出ない白砂に「先生を応援しています。ではまた」と挨拶して遼はその場を離れた。
図書委員が貸し出し当番をしている。今日は高等部一年生がいた。ほとんど話をしない仲だが顔見知りなので手を挙げて挨拶とした。
書庫の空いている場所を探す。そこで目についた、閃いた本を手にとって借りるのが最近の習慣となっていた。
今日はヘミングウェイかフィッツジェラルドあたりの読んだことのないものを見てみようかと奥へと進んだら、白砂がいた。
相変わらず銀髪にも見える繊細な黒髪を纏めもせず下ろし、白シャツに膝上十センチほどの薄いグレイのミニスカートをはいていて、さながら異世界人のようだ。
白砂は女子生徒と二人でいた。どうも彼女は書庫にいる生徒に話しかける習性があるようだ。
白砂は遼の存在に気づき、遼の方をちらりと見やった。
その様子を察知した女子生徒は白砂に丁重に頭を下げ、その場を離れた。彼女は遼のすぐ脇を通り書庫の出入口へと向かったが、その際に遼を横目で見ていくことを忘れなかった。
セミロングに近い長めのボブに猫目で少し丸顔の美少女だった。どこかで見たことがあると思ったがすぐには思い出せなかった。
「香月君」と白砂が遼に近寄ってきた。「また会ったわね」
「先生も本が好きなのですね」
「ここにいる方が落ち着くからかな」
授業中の硬い表情は今はなかった。落ち着くのは嘘ではないようだ。
「お話の邪魔をしたようですね」
「さっきの彼女か……、舞子、今の生徒会長」
高等部三年生の舞子実里、現生徒会長だった。
「それでか……、見たことがある顔だと思ったのです」
「生徒会長くらい覚えておいた方が良いわよ」
「いつも遠くから見ているので気づきませんでした。それに少し雰囲気が違ったようにも見えます」
「それは生徒会長ではなく、一生徒の時の彼女だからかな」
「よくご存じなのですね、生徒会長のことを」
「私が高等部三年生の時の中等部一年生で、同じ文芸部だった」
「先生、文芸部だったのですか? それに舞子生徒会長も?」
「舞子は今は文芸部を抜けているようだけれど……」生徒会役員に専念するためだろうか。「もう私が在籍していた頃の顔見知りは高等部三年生の一部だけだわ」
そうなるのか、と遼は納得した。
「本が好きなら文芸部に入ったりしないの?」
「文芸部って、何をするところですか? 本を読むだけならひとりで読めると思いますが」
「本の紹介文を書いたり、一部の部員は執筆している。小説とかエッセイとか評論とか」
「書くのは苦手です。たとえそれが紹介文であっても。だからオレには向いてないですね」
「それは残念だわ」
「先生はもう文芸部ではないでしょう? 勧誘しなくても」
「勧誘ではなくて、君が何か打ち込めるものがあれば良いと思ったのよ」
「なくても生きていけますので」
「さびしいわね」
「それは他人が感じる感情です。本人は何とも思ってないですよ」
「そうなんだ……、君は強い人間みたいね」白砂は少しうつむき、目を伏せた。
「先生、もしかして、いきなり壁にぶち当たりました? まだ四月ですが」
「はっきりと言うわね」白砂は顔を上げ、恨めしそうに遼を見た。「意外と意地が悪いの?」
「とても意地悪です」
「私がいた頃と違って、優秀な生徒が増えたわ。中には教える私よりもよくできる子もいる。そういう子にいじられるとへこむわね」
「いちいち気にしていたら教師なんてやってられないのではありませんか? 手のかかる生徒なんて必ずいるでしょう」
「君みたいな生徒ばかりなら良いかな」
「そういう皮肉が言えるなら大丈夫ですね」
「皮肉でもないのだけれど……」
「ちなみにA組はどうですか?」
「優等生が多くて緊張するわ」
「苦手な生徒はいますか?」
「苦手というほどの子はいないかしら」
「じゃあオレたちもまだまだですね」
「君は今まで通りおとなしく聴いていてくれれば良いわ」
「では先生の美貌をひたすら鑑賞しておきます」
あきれたように口を開け、言葉が出ない白砂に「先生を応援しています。ではまた」と挨拶して遼はその場を離れた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛
MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる