私は本当の意味で愛していないらしい。

ぽんぽこ狸

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 離宮に帰ってきたはいいが、今日はアレクシスはお仕事で外出だ。彼がいないとこの離宮でエレノアが親しくしゃべる相手もいない。

 使用人達はどこか都会らしく洗練されていて、雇い主と無駄話をするという雰囲気でもないし、普通に意思疎通は出来るが実家に雇われていた人たちほど仲良くもない。

 そんなわけで一人で結婚式の計画を立てながら夜を過ごし、すぐに眠たくなって早くベッドに入った。

 寝不足ではなかったけれど、目上の人と沢山話をして無自覚に疲れていたのだと思う。すぐに眠りに落ちていった。


 ふと意識が浮上する。誰かに触られているような気がして、きっとアレクシスだろうと考える。彼はたまにこうして夜中に帰ってきて、無断でエレノアの部屋にはいり頭をなでたり急に抱きしめてきたりする。

 初めてやられた時には驚いたが、きっとエレノアには言えない仕事をしてきて疲れて癒しを求めているのだろうと勝手に解釈していた。

 それがどんな仕事かは、彼は成人しているから、付き合いで女性と遊んだりとにかく夜の街に繰り出しているのだと思っていた。

 しかし、今日の話を聞いたばかりだったのですぐに意識は明確になった。

 ゆすり起こされたわけでもないし、いつもと同じく控えめにおこさないように配慮されて触れられていただけだったが、眠気はビュンと吹っ飛んでいく。

「今日も疲れたな」

 呟くような声が聞こえる。それはやっぱりアレクシスの声で、小さく丸まって眠っているエレノアの頭をよしよしと撫でていた。

「本当、兄上は人使いが荒い」

 そんな風に言う声は平坦でいつものと同じに聞こえる。独り言も普段と同じ感じだ。
 
 けれどもこんなことをするのだから弱っているのかもしれない。それなら普通に抱きしめてやった方が幾分安心するだろう。そう思ってぐーっと伸びをして起き上がる。

 目元をこすってシパシパする目を慣れさせて、彼の方へと目線を向けるとバタンッと扉の閉まる音がして、驚いた。

「うわっ、なに、開けっ放しだった?」

 そういって目の前にいる人影に話しかける。カーテンもしまっているので真っ暗闇の中、影のようになったアレクシスはエレノアが起きたことに驚いた様子で息をのんだ。

 いつもの綺麗な青い瞳が見えないので何を考えているのかわからなかったが、先ほどまでエレノアに触れていた手を探して触れる。

「……仕事はどうだった?」

 そして彼がそのことを知られたくないと思っているかもしれないので、あえて聞く形でアレクシスに問いかける。

 すると頭の奥がなんだかじいんとして意識が遠のくような感覚がする。少しぼんやりしたがこの感覚には覚えがあった。

「今、黒魔法使っただろ」
「……」

 仕事に使って来たであろうその魔法、きっと誰かを襲ったりあまりよくない事をさせるために使った魔法、それがなぜかエレノアに向いていた。

 しかし、別にどうとも思わない、だってエレノアにはそれは効かないからだ。

 魔力が多くていい事は、魔法道具を沢山使える以外にも一つだけある。それは魔法に対する抵抗力があるという事だ。

 特に黒魔法は魔力量が見合っている相手もしくは、自分以下でなければ使うことが出来ない、だから、もしかするとアレクシスにとっての天敵はエレノアのような存在ではないかなんて思うが敵対するつもりもない。

 それに、黒魔法を掛けたということは、何かしてほしい事があるのだろう。なら、やってやらない事もない。

「何をしてほしいんだ?」

 仕方ないから聞いてやると、ごくっと喉を鳴らす音がしてアレクシスの冷たい指先が頬に触れる。

 その手は変に力が入っていて、今まですっかり眠っていて暖かな布団に包まれていたエレノアとは全く違った。

「……違う。ただ消せないだけ」

 そっけない返事が返ってきて、難儀だと思う。

「そっか。随分長く魔法を使ってたんだろ」

 誰かを操ってだましたのか、何かをさせたのか。そんなことはわからない、しかし、魔法が解けないなんてよっぽどの緊張状態だ。体が危険を感じたまま戻ってこられていない。

「……」
「操れていたら何がしたい?」

 頬に触れる手に触れて頬に押さえつけて頬擦りをする。いつかエレノアも王家がやっている事を有利に動かす工作を手伝う日が来るかもしれない。

 その日が来たら彼と同じような立場に立って、分かり合えるかもしれない。しかし今はまだその時ではないだろう。だったら安全な場所へと安心できる場所へと引き戻す役割をかって出ようと思う。

「頭でも撫でてやろうか」

 言いながらその手を絡めて引いた。しかし、あの日と同じようにびくっと驚いたように反応して、反射的に彼は身を引いた。

 それから、戸惑ったような吐息をこぼして、ぐっとエレノアを引き離す。

「やめろ。これじゃずるい」

 咄嗟に言われた言葉にエレノアは首をかしげる。

 ……ずるいって私が? もしかして本当の意味での愛情の件についてごまかそうとしていると思ってるのか?

 確かに触れ合ってごまかせるなら、ごまかすのもやぶさかではないが、それはアレクシスが望んだ答えではないだろう。それは流石にエレノアだってやらない。

 しかし、そんなこととは露知らずにアレクシスはエレノアをそのまま離して去っていこうとする。それにエレノアは、グラディスから言われたヒントを思い出して、彼の背中に向けて問いかけた。

「なぁ、一つだけ、いい?」
「……」
「私のどこが好き?」
「珍しいこと聞くじゃん」
「いいから」
「……黒魔法にかからないでいてくれるところ」

 そういって彼はゆっくりと歩いて部屋を出ていく。

 きっとニュアンス的にはアレクシスに害される事がない所が安心できるだとかそういう風に言っているのだと思う。

 しかし、好きなところと聞かれてそういわれるとは思っていなかったので意外に思いつつも部屋も暗いので眠り直すことにしたのだった。




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