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しおりを挟む……どちら? というと、やっぱり多重人格説が頭をよぎるんだが。
言われてアレクシスはもう止められないと悟ったのかぐっと顔をしかめて視線を逸らす。
「答えないか。まぁ、私は其方たちの見分けなどつかないしどちらが目の前にいても一人の人間として扱うが……妻となるエレノアはそうもいかないだろうな」
勝ち誇ったような顔をしてエイベルは、いたずらの反応を楽しみにする子供みたいな顔をして続ける。
「なんせこの者たちは、世間様に半分しか存在を認めてもらえない出来損ないの王子だからな」
言いつつも確信的なことを口にしない彼に、エレノアはじれったい気持ちになった。
しかし、そのじれったいという気持ちを見透かしたようにエイベルは間をおいて、それからドンっとテーブルにグラスを置いて言うのだった。
「こいつらは畜生腹の正妃から生まれた双子だ。母親の命を奪って生まれた忌み子。黒魔法なんて呪われた力を宿した、本来なら生きるに値しない命」
……双子……双子? え、ん?
「側室であった私の母上が正妃に迎えられたのは、こいつらの母親が畜生孕みの女だったからだ。それでも利用価値はある、だからこうしてその事実は隠蔽されアレクシスの方だけを公にして今でも私の駒として動かしているんだ」
「……」
「どうだ、自分の婚約者が忌み子であった感想は。是非私に聞かせてほしい」
……たしかに、エイベル国王陛下は側室の子だという話は聞いたことがある。しかしそのたびに第一王子であるから王位を継ぐのは当然という話と論争になっている。
たしかにその論争は正しく、それを主張してアレクシスも王座を狙うことが出来た。しかし、そんなことは無くそれは母親が無くなってしまっていて後ろ盾の力が足りないからだと思っていた。
……でも、そういう話なら、違ったって事だ。
双子は忌み子、母親から多くを奪いその体に罪を宿していると言われている。そんな弱みを握られていたらエイベル国王陛下に逆らえないのも無理ない。
エレノアは状況的に、一応は納得することは出来た。この状況についてその答えは一応、そういう事だったのかと思えるだけの答えであり、理解もできる。
「私の問いに答えられないほど驚いているのか? 可愛そうな子だ。アレクシスに気に入られたというだけで哀れだというのに、双子という事実も受け入れたうえで愛してほしいと望まれるなど、どう怒りを表したらいいのかも分からなくなったのだろう」
ぐるぐると考えているエレノアに勝手にエイベルはそんな風に解釈してうんうんとうなずいた。
こんなにアレクシスの事を下げるのは、エイベルが側室の子供だというコンプレックスがあるからなのだろう。
けれどもとにかく今はそれどころではなく、ぱっとアレクシスを見た。俯いたままでいて、小さく肩を震わせている彼は双子らしく、でも今は一人しかいない。
「だが、それでも挙式までにはアレクシスの隣で笑みを浮かべられるようにしておけよ。王族に嫁入りするのだ、作り笑いでもなんでも幸福そうにするが、義務と……いうもの」
アレクシスにどんな風に声をかけようかと考えていると、エイベルの声が変なところで止まって、ひっ、と息を飲むような声がした。
それと同時にゆっくりとダイニングの扉が開いて煌々と輝く笑顔を浮かべるグラディスが現れた。
「……な、ぜ、ここに」
「……」
呆然と呟くエイベルに、カツカツとヒールの音を鳴らしてグラディスは彼のそばへと歩み寄った。
その顔には笑みが張り付いているが、別の感情が渦巻いているのがすぐにわかる。それと同時に入れ違いになるようにアレクシスは早歩きでダイニングを後にする。
それにどうしたものかと思いつつもエレノアはエイベルに言うことがあったので彼らのやり取りをしばらく見ていた。
「何故ですって? 貴方が王宮にいない時点でどこに行ったかぐらいは察しがつきましたわ」
「それは……そうだろうが」
「ただ、だからと言って居てほしかったかどうかは別の問題だとわかるかしら。まさか、こんな場所までわざわざ出向いて、貴方の唯一の弟の恋路を邪魔しているだなんて恥ずかしい事、わたくしが望んでいたと思いますの?」
いつもと変わらない声でグラディスはそういったが、言葉の端々から怒りが感じられてそれはエイベルも同じだった様子で焦りつつも、縋るようにグラディスに視線を送る。
「邪魔だなんて、とんでもない、私はただ、ほんのすこしサポートをだな」
「あら、本当ですの? 悪気はなかったとおっしゃるの?」
「もちろんっ、もちろんそのとおりだ!」
グラディスが聞けば彼は笑みを浮かべてコクコク頷くその姿は、国を引っ張っていく立派な国王エイベルの姿とはかけ離れていた。
心細そうに許してもらおうと華奢なグラディスの体に縋りつかんばかりの彼の頭をおもむろにグラディスは押さえて、自分から離れるように押し戻して答える。
「本当に?」
「……当たり前だ」
「悪意は無かったと、わたくしに……このわたくしに嘘をつくの?」
「……」
それは嘘だと断言するような言葉に、エイベルは黙りこくった。それはもう汗をだくだくかいて黙りこくって、まさしくそれが返答だった。
「貴方たちの間に確執があることは事実、その事実があっても協力していかなければならないでしょう、エイベル」
「……」
「あの子たちを敵に回して、良い事があるかしら。何故冷静な選択ができないの?」
「っ、別に、アレクシスの協力などなくても私は王座に、つけるだろう!」
グラディスに責められると開き直ってエイベルは大きな声でそんな風に言った。
そういう所がまったくもって冷静ではない。
それを指摘するのかと思いきやグラディスは冷たい顔をして、彼の額をぴしっと軽く弾いた。
それに驚いてエイベルはパチパチと瞬きをしつつ、でこぴんではじかれた額を押さえた。
「……エイベル。わたくしそんな孤独で横暴な国王など支えませんわよ」
言われて、エイベルは見捨てられた犬のように寂しい顔をしてそれでもグラディスに手を伸ばす。その手は軽く払われて、彼女はつづけた。
「一人ぼっちの玉座につきたいのならお好きにどうぞ。……そうでないなら、わかるわね」
突き放すような言葉、しかし、グラディスは彼を見放すだけじゃなく、別の選択肢も与えた。
それに縋るようにエイベルは立ち上がって彼女の手を取る。そばに寄って小さな声で謝罪を口にしている様子だった。
それにグラディスは微笑んで返す。
「謝る相手を間違えていますわ」
「わ、わかっている」
「なら、きちんと場を設けて正式に謝罪をしましょうね。……まったく目をは離すとすぐに昔のあなたが出てしまうのですから困った方ですわ」
「……」
そういわれてエイベルは自覚があるのか、また「すまない」と口にしてそのタイミングでエレノアは立ち上がって、彼らに声をかけた。
できるだけ早くアレクシスを追いかけたかったので口をはさむようなタイミングになってしまうが仕方ないだろう。
二人の世界に踏み込むのは気が引けたが、一つだけ言っておかなければならない。
「エイベル国王陛下」
エレノアが進み出て、彼を見上げると存在を今思い出したように驚いた顔をして、それから微妙な顔をして少し逃げ腰でエレノアを見下ろした。
「一つだけ、言わせてほしい。私は、たしかにアレクシスの事を何も知らない。でも、彼にどんな肩書がいくら足されても、私は自分と接したアレクシスを信じる。それ以外を気にすることは無い」
いうだけ言って身を翻した。当の本人を置き去りにしてエイベルに長々とそれをいっても意味はないだろう。
しかし、どうしても言っておいた方がいいと思ったのだ。
エレノアは他人に対して愛だの情だのをひけらかすようなタイプじゃない基本的に顔にも出ない口にも出さない。
だからこそ、きっとエイベルにも……他の人たちにもこの結婚を悲観視しているととらえられたのだと思う。
実際問題、はたから見るとエレノアは不憫だった様子だし、そういう風に思われていたのも不思議じゃない、だからこそ、言っておくべきだと思った。
アレクシスに対する罵りを嬉しく思わない人間であるときちんと主張しておきたかったそれだけだ。
「じゃあ、アレクシスのところへいかなければならないのでお先に失礼します。グラディス様、エイベル国王陛下!」
ダイニングを出るときに一応そう声をかけて、振り返ると、二人はとても複雑そうな顔をしていて、どうなってほしいと望んでいるのかはわからない。
しかし、なんであろうと受け止めるそんな心意気でエレノアは廊下を走った。
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