16 / 48
16 義両親
しおりを挟む「建国祭が近いから、そろそろ王都のタウンハウスの方へとうつろうと思ってるんだけど、アイリスは王都で何かやりたいこととかある?」
食事をしているとレナルドはそうアイリスに問いかけてきた。
王都でやりたいことと聞かれても、王都に何があってどんな楽しい事があるのかをアイリスは知らない。
それに王都なんて幼い頃に一度訪れたことがあったかなかったかというくらいだ。
成人の儀式にも葬儀がかぶって、ごたごたしていて出られなかったし、王族がもしアイリスたちの事を認知しているならば、無礼な一族だと思われているに違いないと思う。
「特にありません。……あ、でも、建国祭の舞踏会には国中の貴族が一番多く集まるのでしたよね……それならもしかして……」
アイリスの頭の中には、置いてきてしまった妹のこと、それからディラック侯爵家の人間とアルフィーの事が思い浮かぶ。
「ああ、妹さん? あまり長い間会っていないと心配になるよね。彼女も爵位を継いだのなら配偶者と一緒に来ると思うよ」
「はい。……すこし、そのやっぱり心配で、あまり深く物事を考えて決める子ではないし、父も母もいないのでどうなっているか」
「そうなんだ。詳しい事は俺は知らないけど、あまり心配しすぎるのもよくないよ。まだ建国祭の日まで日にちがあるから、気になるなら手紙でも出してみたらいい」
アイリスは前菜のサラダをもぐもぐと食べながら、彼の言っていることはとても正しいと思った。
心配で気をもむくらいなら、連絡を取ればいい。
常識的に考えればその通りであるのだが、しかし今のナタリアにアイリスの手紙が届くかは正直疑問だ。
すでにアルフィーと結婚してしまって、ナタリアはアルフィーの本性を知ったのだろう。
彼はアイリスに何か危害を加えるようなことはしてこなかったが、アイリスはアルフィーの性根は最低な人間だという事を知っている。
父と母には自分は味方だと言わんばかりに、甘い言葉ばかりをささやいて彼らを惑わすし、ナタリアには贅沢をしていいのだとたきつけるし、アイリスにも手を出してこようとした数は数えきれないほどだ。
アイリスが彼の被害に遭わなかった理由は、単純に自衛していたからだ。
父や母、侍女たちのそばを離れずに、貴族としての距離感をきちんと守っていた。
それに彼の思い通りにさせないために、彼も交えて借金について父と母と正しい知識を共有したりと手を打っていた。
しかし、そうして邪魔だと思ってもらえていたからアイリスは彼の魔の手から逃れることができたが、ナタリアの事をアイリスは守り切れなかった。
確かにナタリアは彼を選んで、アイリスの婚約者であったアルフィーを奪ったという事実はある。
それでも、元をたどればディラック侯爵家がクランプトン伯爵家をだましたのが大元なのだ。
それを履き違えてはいけない。まだアイリスは父と母が死んだことはとても怖いし、真っ向から立ち向かって今度こそ何かあったらという気持ちはある。
しかし、今のアイリスがいる場所は……。
考えつつも食事を口に運ぶレナルドへと視線を向けた。
彼はアイリスからの視線に気がつかずに、丁寧な仕草で食事をとっている。
きっと安全だ。だからこそここからでも出来ることがあるのではないか。
クランプトン伯爵家を食い物にしている彼らに牽制をしたり、遠隔からでもナタリアを守ったりできると思う。
もし建国祭で直接会うことができたのなら、アイリスがうまく立ち回ることによってアルフィーにだけでも釘を刺せるかもしれない。
もちろんアイリスに居場所を与えてくれているレナルドに迷惑をかけるつもりはないが、自分の力で公爵夫人という地位を使ってできることをするなら自由のはずだ。
ここでレナルドの役に立って、二人で支え合っていけるようにすることは第一前提として、出来る限り公爵夫人らしく力を蓄えてディラック侯爵家の人々から実家を守る、それを目標にしたい。
どんな風に解決するかはまだ、具体的には思い浮かばないけれどもそれでも目標を掲げるのは大切なことだ。
「あ、もし里帰りしたくなったらいってね。俺もついていくから」
アイリスが壮大な目標を掲げていると、レナルドはふいにアイリスに言った。
如何にも当たり前の事のように言ったレナルドに、アイリスは、里帰りってそんなに簡単に嫁に行った人間がしていいものだっけ? と疑問に思ったが、基本的に実家に帰るのは喜ばれることではないはずだ。
それに、わざわざ、爵位を持つ旦那もついてくるというのも滅多にない話だろう。
当たり前の事ではない。
「……何かクランプトン伯爵領の辺りに用事でもあるのですか?」
なので何かのついでという可能性が高いだろうと思いアイリスはそう聞いてみた。
しかしレナルドは少し考えた後、カトラリーを置いてから真剣な顔をした。
「そういう事ではなくて、単純に君が心配だから。ディラック侯爵家とクランプトン伯爵家の関係性はあまり深く知らないけど君が実家に行くとききっと絡んでくる。
そうなれば君は変な契約とか、妙なことばで騙されたりはしないと思うけど、武力で敵わないからね。ついていくよ」
アイリスは彼に何も話はしていないがそれでも、金銭関係で深く絡まり合っている二つの家の関係性については察するところがあるらしく、アイリスに配慮してくれたらしい。
そしてその心配はまったく見当違いではない。
「……はい。ご心配ありがとうございます」
「お礼なんていいって、そもそも里帰りするならって言うもしもの話だから、あ、そうだ。それに君にもう一つ話をしておかなきゃならない事があったんだった」
「はい? なんでしょうか」
アイリスがお礼するとレナルドはまた食事を再開して、明るい声で別の話題に切り替えた。
実家の事については色々思う所はあっても、食事時にそぐわない重たい話をするのはナンセンスだ。
彼の話についていこうとアイリスはすこしトーンをあげて聞いてみた。
すると、彼はなんとも言えない顔でアイリスに言った。
「それが、王都のタウンハウスに移る前に、両親が君の顔を見に来る……予定になりそうなんだけど、いいかな」
レナルドはとても気まずそうに言ったが、むしろアイリスはすこし嬉しいぐらいだった。
ほかのお嫁さんはどうか知らないが、アイリスはレナルド知り合ってまだまだ日も浅いし、良い人だと思っているのに彼の事を深く知らない。
だからこそレナルドの家族に会えるというのはとてもうれしい事だった。
「はいっ、良いというか、是非、会わせてください。結婚する前のご挨拶にもうかがえなかったので嬉しいです」
「……そうだね。そう言ってくれてうれしいんだけど…………」
アイリスの頭の中ではどんなふうに話をしてどんな風に仲良くなろうと色々な考えがめぐっていた。
しかしレナルドはやっぱり微妙な顔をしていて、むしろアイリスが嬉しく思っているからか少し困っているように見えた。
「……レナルド様、何か会わない方がいい理由でもあるんでしょうか」
「あ、違うよ。そういう事ではなくて……ただ、普通の人たちだから大丈夫だと思うけど、すこしアイリスを驚かせてしまうかもしれないと思ってね」
「……どういう、意味でしょうか」
「とりあえず、会ってみたらわかると思う。何にせよ会わせないっていうわけにはいかないからね」
レナルドはあまりピンとこない事を言って、困った表情のままアイリスに笑みを向ける。
普通の人だからアイリスが驚くという意味を考えてみても、どういう意味かはわからない。
しかし、今わからなくてもその時になったらわかると言われたら、これ以上深く聞くことはできないだろう。
アイリスは腑に落ちないながらも、頷いて「わかりました」と返事をしたのだった。
497
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる