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17 当日
しおりを挟むレナルドの両親がやってくる日、アイリスは公爵夫人となる身として見苦しくないように、普段からきているドレスではなく一張羅の大人っぽいドレスへと変えた。
髪もそれに合うようにティナに綺麗に結い上げてもらう。
「アイリス様、痛いところなどありませんか? もう少しきつくしても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫」
ティナは、すこしそそっかしい所があったり、口が滑ったりすることもあるけれど、今日は手慣れた様子で髪飾りを調節しながら丁寧に髪結いをしてくれる。
やっぱりこういう所を見ると仕事ができるいい子だと思うし、覚えるためにきっと沢山練習したのだと思うと、そう言った技能を持っているところを素直に尊敬できる。
「ロザリンド様や、マイルズ様はそれほど礼節に厳しい方々ではありませんが、やはり王族に仕える血筋ですから由緒正しい髪結いや衣装に詳しい方々です。
あの方々に初めて会う日ですからもう少し時間をかけて整えさせていただきますね。
朝から大変ですけど、アイリス様っ、頑張ってください!」
そういってテキパキと手を動かし、そばに置いた作業用のワゴンから櫛と髪飾りを取り出して、ああでもないこうでもないとアイリスの髪を仕上げていく。
ちなみにロザリンドがお義母さま、マイルズがお義父さまだ。
本来ならレナルドの歳では爵位を継承していることは無くはないが、結婚当時から爵位を持っていることはまれだ。
だからこそ、本来ならば爵位を持っている状態の目上の人物として初対面の挨拶を交わす。
しかし、レナルドは爵位を賜っているので、その時に男爵の地位は消失しレナルドがこのダンヴァーズ家の一番の権力者になった。
そういう場合の挨拶がどのようになるのか、どの程度かしこまればいいのかというのはとても難しい。
しかし敬って悪いということはないはずだ。
レナルドという、とても尊敬できる人を育てた人たち、その人たちにアイリスは敬意を払いたい。なので朝の支度から大変になっても文句の一つもない。
「ええ、ティナも頑張ってくれてありがとう。もしよければ今度美味しいものでもごちそうさせてください。
いつもよく仕えてくれていますから」
「えっ、本当ですか! やったぁ、嬉しい」
ティナをねぎらってそう提案すると、ティナは大袈裟に喜んでぴょんとはねた。
すると髪がひと房解けて持っていたピンが転がって飛んでいく。
「あわっ、すみません。ちゃんと集中します」
「ふふっ、良いですよ。ゆっくりで、まだまだ時間はありますから」
こういう所は、仕事人として切り替えていても変わらないなと可愛く思いながらも朝の忙しい仕度の時間は過ぎていった。
ロザリンドとマイルズを出迎えるためにエントランスホールへと向かうとすでにそこにはきっちりと王都に向かうとき同様に、正式な装いをしたレナルドの姿があった。
そして到着したアイリスを見た彼は、途端に相好を崩した。
「おはよう、アイリス。すごくきれいだね」
開口一番、親しみの籠った笑みを浮かべてそう褒めてくれる彼に、アイリスは恥ずかしくなりながらも、今日はティナが気合いを入れて着飾ってくれたので胸を張らなければ失礼だと思い、小さく笑みを浮かべて頭を下げた。
「ありがとうございます。レナルド様、レナルド様もとてもかっこいいです。普段はとても親しみやすい印象ですが、やはりきちんとした装いをしていると騎士らしい印象です」
お礼を言ってアイリスも前回は時間がなくて言えなかった言葉を言った。
しかし言ってから本職の騎士であり称号を持っている人に、騎士らしいなど無礼だったかと思ったが、レナルドは照れたように笑って「アイリスに言われると照れるね」とすこし頬を染めた。
……そう言われると、私を意識してくださっているのかと思ってしまいます。
彼はいつもアイリスにやさしい言葉と思いやりをくれる。
それが当たり前に出てくるほどレナルドが優しくて良い人なのだと知っているのに、アイリスは勘違いしてしまいそうになるのだ。
けれどそれが悪いとは思わない。むしろその勘違いが本当になったら嬉しいと思う。
「そろそろつくと思う。時間には正確な人たちだから」
なのでアイリスはもう少し彼の正装について、どんなところがいいこんなところがいいと褒めて、ゆったりとした時間を楽しみたかった。
しかし開け放った玄関扉の向こうを見てレナルドはどこか緊張したような顔をした。
……久しぶりに会うんでしょうか。だから、緊張してる?
「そうなんですね。会うのが楽しみです」
考えつつもレナルドの言葉に返し、いつもと少し違うレナルドの様子にアイリスも少し緊張して言葉少なにロザリンドとマイルズの事を待ったのだった。
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