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24 自信をつけるために その一
しおりを挟む何をすればいいのかわからない不安は怖いけれど、それを待つことができる人間関係こそ、アイリスに今必要なものなのかもしれない。
「ありがとう。……あ、心配かけないように言っておくけど犯罪や浮気とかそういう事ではないからそれだけは、可能性としても考えないでね」
気持ちに整理をつけて、アイリスはしんみりと自分も少し安定した大人になったものだと考えているとレナルドは突然、思い立ったようにそんなことを言った。
犯罪はともかく浮気とは、まったく考えていなかったが、慌ててそう言う彼の姿がいつもと違って少し面白くて、アイリスはくすっと笑った。
結局、知りたいことは知ることができなかったけれど、それでもアイリスたちの仲が悪くなったわけじゃない。
むしろもっと深く知りあうために今は待つことが必要だ。
「ええ、流石にレナルド様はそんなことしないと思いますから」
「や、でも、そのやっぱり知っておいてほしいのは、俺は善良で優しい君みたいな人とは違うというか」
アイリスが信頼していると示すと、彼はそれはそれで逆に困った様子で予防線を張るように自分を悪く言った。
……それに、私が善良で優しい……ですか。
そういわれるとそれは明確に間違いだと思う。だって、アイリスは心の狭い人間だ。
細かい事を気にしがちな性格をしているし、融通が利かない。それにアイリスにもっと力があってなんでもできていたら、今頃クランプトン伯爵家は救われていただろう。
そうならなかったのはアイリスが力不足だからだと思うのだ。
「……私だってそんなに良い人間ではないです。もっとうまくやれたはずだと思う事ばかりで、借金だって結局今は妹が背負うことになっていて私は家を出てしまった」
「……ごめん、俺はそう見えたけど、人からそんな風に言われてそのとおりだって受け入れられる人もそういないよね」
「……」
また思考がネガティブになって、彼の言葉を否定するアイリスに、レナルドは無理に自分の考えを押し付けず、手放しに誉めすぎるのもよくないかと困った笑みを浮かべる。
その様子を見てアイリスは、少し考えを巡らせた。
……でも、こういう所も治さなければいけませんね。だってレナルド様は私を認めてくれているし、借金の件だって別の方向からアプローチして自分なりに解決するんだと思っています。
まだ何かを成し遂げたわけではないけれど、対処しようとすることはきっと間違っていないし、やり続けるためには自分も信じる必要がある。
アイリスは借金に追われて追い詰められて、課せられた責任を辛く思いながら己を削って動くより、責任を負いたいと思って自らの望みの為に動く人間でありたい。
そう心に決めておこうと、考えたが、ふと先日の要望をまだレナルドにお願いしていないことを思い出した。
考えてはいたのだが思い浮かばないし、このままいっそ彼が忘れるまで放置してしまえばいいのではないかとまで思っていた。
しかし、それではいけない。というかそういう風だからいつまでたってもアイリスは自分を認められないのかもしれない。
と珍しくアイリスは自分で思考を切り替えて、自分自身を認めてやるという意味で報酬を今ここでもらおうと決意した。
「いえ、すみません。急にネガティブになってしまって。私の悪い癖です。レナルド様は私の事を認めてくれている。それをつい忘れてしまいそうになるんです」
「うん。……いいよ、アイリスは色々と大変な状況にいたんだし、不安がぬぐえなかったり無力感を覚えることもあるでしょ」
「そう言って理解を示してもらうのはうれしいですが、今日はすこしだけ、それを解消するために前回の報酬を貰うことにしようかなと思うのですが……どうでしょか」
「! ……いいね、何か決まったの?」
アイリスが報酬の話を出すと、彼は忘れているなんてこともなく、すぐに前回の件に対する話だと理解して、アイリスの返答に期待している様子だった。
それに、アイリスは報酬をもらおうと方向性は決まったけれど、具体的には何をと決めていたわけではないので、すぐには返答できなかった。
しかし、自分に自信が持てることがいい、それにお金で変えられる物ではなく特別な報酬だから要求できること……何かあるだろうか。
考えると答えは数秒で思い浮かんだ。
目の前にはレナルドがおり、今日は結局、話したかった内容を聞くことはできなかった。それは悪い意味を持っているわけではないが、事実は事実として変わらない。
少しだけ距離があることを認識してしまった。だからこそあえてここで物理的距離を詰めるのはどうだろうか。
夫婦とは言えレナルドから積極的に物理的な距離を詰めてくるということはない。
だからこそ、アイリスから手を伸ばしたら、とっても効果的にアイリスたちの距離は縮まるし、アイリスも触れ合ったら家族として信用できる気持ちが強くなると思う。
……では、ご褒美にキスを?
恋人同士のように甘いキスでも強請ってみるのが定石か、と少ない恋愛知識でアイリスは考えた。
そしてキスかぁと思いながらレナルドへと視線をやる。
「?」
彼はアイリスの視線を受けて小さく小首をかしげた。可愛らしいしぐさではあるが、レナルドはアイリスより年上の列記とした大人であり、男性である。
そんな彼に唐突にキスをせがむというのは一足飛びに関係を進展させすぎだ。
それに断られたらアイリスはとても凹むというか、それこそ酷く距離が開いてしまうだろう。
……しまった。これでは、リターンは大きいですがリスクも高すぎます。私ったらどうしてこんなことを思いついてしまったんでしょうか。
何事も堅実さが大切なのだ。
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