どうせ去るなら爪痕を。

ぽんぽこ狸

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1 日の当たらない角部屋

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 自分のいる世界が美しいおとぎ話の世界であると信じてやまない少女というのは、総じて美しく才能にあふれ天真爛漫に笑みを浮かべられるものだ。

 今、エミーリエが見ている彼女がそうだ。

 彼女の名前はロッテ・フォルスト。婚約者であるエトヴィン・フォルストの年の離れた妹であり、このフォルスト伯爵家で一番大切にされている存在。

 ロッテは友人たちを呼んで庭園のガゼボでお茶会を開いていた。

 こんなに美しい庭園を一人で利用できて、友人たちに身に着けている美しいドレスやアクセサリーを褒められて無邪気な笑みを浮かべている。

 本当に輝かしいほどに美しい、エミーリエの義理の妹。

 けれどもその輝かしさは、元来のものだろうか。そう考えてしまう醜いエミーリエは自分があまり好きではなかったが、思考は止まらない。

 毎日友人たちと遊んで暮らし、ダンスも歌も絵画も得意で、彼女は才能にあふれている。

 一方エミーリエは実家が没落し、貴族らしい生活を送ることが出来なくなりやむなく婚約者のお屋敷でもう五年以上前からお世話になっている。

 ここにきて生活の面倒を見てもらうようになって以来、エミーリエの得意なものはすべて奪われた。

 ロッテより優れたものを持つことは許されなかったのだ。だからこそ、エミーリエは奪われなかった自分の唯一の価値である仕事をこなす日々が続いている。

 日の当たる美しいガゼボでのお茶会も、エミーリエは一度も経験したことがなかった。

 日の当たらない角部屋からひっそりとロッテを見つめながら、結婚して子供を産む日を夢に見ていた。

 実家が駄目になった厄介者の居候から、フォルスト伯爵家跡継ぎの妻となり、エミーリエにも価値が認められる。

 だからそれまでの何もかも奪われた生活も、こうしてお世話にならせてもらっている以上は受け入れることができる。

 こなしている仕事も大変だとは思う事はあるけれど、それでも立場さえ手に入ればエトヴィンもエミーリエの進言を聞いてくれるはずだ。

 そうすればすこしは立て直すことができるだろう。
 
 だからこそ、成人する日を心待ちにして、ただ静かに過ごしていた。


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