どうせ去るなら爪痕を。

ぽんぽこ狸

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37 これからの事

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「アンネリーゼ、あなたはこれからのことどう考えていますか?」

 エミーリエは二日ほど置いてから、アンネリーゼと話をする機会を作った。ロッテは高熱を出していた影響からか、まだ少しぼうっとしている様子だったので回復までにはもう少し時間がかかる。

 そんな彼女に聞かれて負担をかけるわけにはいかない。エミーリエの部屋に呼び出して、今やロッテの保護者となっている彼女に問いかけた。

 時間を置いたおかげで、落ち着きを取り戻した様子の彼女は、しばらく考えるように沈黙して、それから視線をあげてエミーリエを見た。

「……もちろんこのままお世話になるわけにはまいりません。ですので私が勤め先を見つけ、自らの子供として育てていきます。

 実家が破産した場合、その家の跡継ぎ以外の子供は他の家に魔力の供給源として勤めに出ることが多いです。

 しかしその場合には、魔力失調になるまで働かされつらい生活を送ることになる場合が多いと聞きます。

 もちろんその義務はロッテお嬢様にはあると思いますが、私はロッテお嬢様を守りたいです。

 ですから質素でも、平民の生活に落ちてでも私のそばで立派な大人になるまで共に暮らしてもらいます。

 その後であれば、爵位継承権者以外の男性の元に嫁に行き、魔力を使って領地に貢献する仕事に就けるはずです」

 アンネリーゼが考えていたプランは、エミーリエも想定していた内容で、それが今の彼女たちでできる最善の手段だろう。

 アンネリーゼたちが伝手を回って断られたのは、貴族としての生活を保障したうえで面倒を見て欲しいという願い出だったからだ。

 そういう後ろ盾になってくれる貴族がいればいい縁談だが決まって、今までのロッテと同じような生活水準を手に入れることもできたかもしれない。

 しかし、その希望はもうあきらめるべきだ。

「そうですね、フォルスト伯爵たちはあまりにも常識をかいた行動をとり続けました。ほかの貴族がロッテの後ろ盾になってくれる確率は非常に低いです。

 なので平民の地位に落ちたとしても、将来の事を考えると、あなたが働いてロッテを育てるのが一番……かもしれません」

 ……そうですよね。それが正解です。こうして頼ってこられても私にとってロッテは、血のつながりもない上に、思う所のある子です。

「はい。……それに、エミーリエ様、同情心を誘い、善意に訴えかけるようなことをしてしまい。大変申し訳ありませんでした。

 ロッテお嬢様はエミーリエ様にとって、そもそも少しも情を向けるような間柄ではなかったとわかっていた、それでも縋ってしまったこと、それは私の弱さです。

 最後に、自分が悪者になってロッテお嬢様に本当の事を教えてくださった、それだけでもあなたは十分すぎるほどロッテお嬢様の事を思いやってくださった。

 それなのに、さらにお門違いのお願いをしてしまい、弁明の言葉もありません」

 彼女は改めて誠心誠意頭を下げた。

 たしかに、ロッテのお付きの侍女である彼女を説得して、真実を知らせることを了承してもらったが、しかしそれは優しさだけではない。エミーリエは褒められるようなことは何もしていないのだ。

 それに、結局あの時にロッテが事実を知ったとしても知らなかったとしても、フォルスト伯爵とエトヴィンが変わらない以上は何も選択肢などなかった。

 それはエミーリエはただ、ロッテに苦しい思いをさせただけになってしまっただろう。傷つけただけだ。無為にロッテの幸せな世界を壊してしまった。

「私のやったことは優しさなんかではありません。現にこうして、ロッテの人生は行き詰まってしまいました。

 それならあのままだった方が、ロッテの為にも……」
「それは違います。ロッテお嬢様に何もできなかったとしても、考える余地を与えてくださったことはよかったはずです。それはあの家に雇われている私では絶対にできなかった。

 ロッテお嬢様自身もそう言うと思います」
「……ですが」
「私は感謝しています。感謝しているからこそこれ以上、わがままは申しません、私もロッテお嬢様もこれからは変わってゆかなければならないのですから」
 
 この屋敷に来てからたった二日しかたっていないのに、彼女はとても強く、意思を持ち、今までのエミーリエの気持ちをきちんと鑑みて変わっていくことを決意している様子だった。

 その決意がエミーリエにはなんだか少し眩しくて、ロッテへの気持ちを整理できずにいる自分に情けない気持ちになる。

 やはり何も支援をしないままでいいと断言することは出来ない。しかし今の自分に何ができるのだろうか。

 そればかりどうしても考えてしまうのだった。 
 

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