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47 思い出
しおりを挟む到着したブラント伯爵家は荒れ果てた廃墟そのものだった。
人が住んで手入れされていれば数十年持つはずの館は、見るも無残に崩れ落ちて、長雨の影響か腐敗が進んでいる。
もはや屋敷としての体を成していないただの廃墟を視界に入れて、エミーリエはふらつきながらもゆっくりと歩きながらぐるりと囲む鉄製の柵に手を添えた。
開きっぱなしになっている門にそこから続いているがたがたになった石畳。
石畳の隙間からは雑草が生い茂り、エミーリエの記憶にはこんな場所の記憶など存在しない。
「エミーリエ、少し待っていてくださいね、安全を確保するために兵士の方々に周辺を確認してもらいますから」
「……はい。大丈夫です」
ユリアンは少しふらついて、廃墟に目線を奪われているエミーリエに釘をさすようにそう言って、エミーリエは気持ちの籠っていない返事をした。
それからまた一歩だけ踏み込んで、ノイズのかかった記憶が今の情景に重なるように思い浮かぶ。
重なった情景は、美しかったころのブラント伯爵邸であり、小さいながらも装飾が美しい屋敷だったと思いだす。
管理の行き届いた薔薇園に母は誇りを持っていた。領民が生き生きとしていることを、父は自慢に思っていた。
石畳はきれいにいつでも掃除されて、エミーリエは何度も屋敷から出発するときに馬車の中でその石畳の上から土の道に代わる瞬間を体感したことがある。
固い道から変わるその瞬間には父か母のどちらかが必ずいて必ずまたこの屋敷に帰ってきた。
エミーリエが一人でこの屋敷を旅立ったのは一度切り。
二人ともがいなくなってしまってからたったの一度切り。フォルスト伯爵家に向かうときだけだった。
それから一度も戻っていない。
「お待たせしました。エミーリエ、調査を開始しましょう」
ぼんやりとしていたエミーリエにいつの間にか準備を終えてユリアンが声をかけてくる。兵士は雑草をよけながら前を進んでいく。
侍女たちは、荒れ果てた屋敷に少しばかり困惑したような表情をしていて、長居する場所ではないし急いだほうがいいだろうとエミーリエはどこか冷静に思った。
「はい」
小さく返事をして、ユリアンのそばに付き添うようにしてエミーリエは思い出の廃墟の中へと入っていった。
中は特出するべき点もない、普通の廃墟だ。
普通に、金目のものなど一切ないような、ボロボロの館。のこされている壁紙だけは少し見覚えがあるようなそんな場所で、二階にはとてもじゃないが危険で上がれそうな様子もない。
腐り落ちている場所もあるので一階でもいつ倒壊するかわからない以上、早めに出た方がいいだろう。
しかし廃墟の中を何週もして、一階にある部屋をすべて確認してもユリアンの目的の物は見つからない。
彼は連れてきた事務官の一人に間取りをかかせて、用途の分からない部屋がないかと確認してその作業がおわると二階に上がることを検討している様子だった。
「……ユリアン。長雨の原因になっているもの……もしかしたらわかるかもしれません。私についてきていただけますか?」
このまま何事もなく目的の者が見つけられて調査が終えられれば良かったのだが、そうはいかない様子だったのでエミーリエはユリアンに声をかけて、道案内を提案した。
思い出してみれば一つ、不思議なものがあった。
それは母の自慢の薔薇園の中だ。屋敷の方は本当に何の変哲もない伯爵邸だ。
ユリアンは、無感情にそう言うエミーリエを少し心配しているようだったけれど、心配の言葉を呑み込んで、すぐに「わかりました」と返事をした。
それから一行は屋敷の外へと出て、庭園の方へと足を運ぶ。
玄関口からしばらく歩いた入り組んだ場所に、未だに綺麗に咲いている薔薇と、石でできた小さな祠がある。
石をくりぬいて小さな家のようにした祠の中には、精霊王を祀るための小さな石像が鎮座している。
「魔力をささげたりはしませんが、この土地を守ってくださるように、父も母も真剣に祈っていた記憶があります。壊すようなことをしてはまずいと思いますが、触れることには問題がないと思います」
「……これは、なるほど……そう言う事でしたか」
するとユリアンは心当たりがあるらしく、早速それを丁寧に調べ始める。エミーリエはその様子を見つめながら自分の役目は終わっただろうと考えて一歩引いてその様子を見守ったのだった。
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