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49 頼らないために その二
しおりを挟むだからどうか今だけは、そう願って、涙で歪んだ瞳をユリアンに向けた。
すると彼は、キョトンとしていて、エミーリエは何をそんなにおどろいているのかとこちらも驚いてしまった。
「……し、仕事上の付き合いだったんですか?」
不意に問いかけられて、エミーリエは切羽詰まっていたので考える間もなく、腕を掴まれたまま静かにうなづいた。
「では、本当の恋人ではないと、あなたはずっとそう思っていたのですか?」
「……それは、はい。一応」
「一応……」
エミーリエとユリアンはどうやら何かすれ違いをしてしまっていたらしい、しかし、そうはいっても今は彼の勢いがそがれて丁度いいと思った。
「お互いに、利害関係が一致したが故の関係だったはずですユリアン。もちろんフリッツ王太子殿下にあれだけ大きな事を言った以上はともに過ごし、将来を誓い合った仲として、振る舞います。
しかし、あなたは私のすべてを受け入れる義務などないのです。
気にしないでください、きちんと私は気持ちを整理したら、いつも通りに戻ります。
ただ、今だけは、気にしないでいただきたいです。
手を差し伸べられたら、私は、困ってしまいます。あなたの体に縋りついて寄りかかってしまいそうです。
……だから、どうか、離してください」
エミーリエは、混乱している様子の彼に説得するようにそう口にする。
ここまで言えばユリアンはわかってくれるはずで、甘えてしまわずに済む。
それが一番いい事だと思った。ユリアンの手に手を添えて、少し力を込めて手を外そうとした。
「っ……」
しかしその手は離されることはなくさらにきつく、ぐっと握られて、ユリアンはエミーリエを少し睨むみたいに、強い視線をむけた。
「……あなたの気持ちはわかりました。それで、そんなふうに私に頼りたくないから、どこへでも私のそば以外の場所に行くと。
誰もいなくて誰も慰めることができない場所に一人でいて、いつかどうにかなる確証などないのに、一人で処理するためにここに残るとそれを本気で私が了承すると思ってるんですね」
「……はい」
「侮らないでください、エミーリエ」
腕を引かれる。想像していなかったことで途端に抵抗できずにエミーリエは難なくユリアンとぴったりと体を重ねた。
背中に手を回されて、きつく抱きしめられると呼吸が苦しいほどだ。
「たしかに私はあなたに比べたら、頼りないかもしれません。自分の兄にすら逆らえないような人間です。
常に騎士に守られてばかりの、王子で何ができるわけでもない。歳だってあなたより年下だし、背だってほんの少し大きいぐらいです」
頼りないから、頼りたくないといったわけではないと思いつつも、多少は彼を頼れない理由の一端として、そう言う部分もなくはないと思っている。
頼るような相手ではないと思ってしまっている。だからこそきちんとしている姿しか見せたくない。
「っ、でも、支えるぐらいはさせてくださいよ。強く抱き上げるほどの力がなくたって、支えることぐらいは私にだってできます。
あなたが一人でどこかに行こうとしていたら、引き留めて、慰めることぐらいはさせてください。
私は、あなたがどんな人物でも、あなたのこと、愛しています。家族を失った悲しみを私で癒せるとは到底思えません、しかしたった一人でいるよりはましではありませんか。
楽になるのがすこしは早いのではありませんか? そばにいさせてください。
伝わっていなかったのならば何度だって言います。エミーリエ、私はあなた以外はありえないと思うほどあなたが好きです。
だから、悲しみに暮れてどうしようもなくなりそうな時ぐらい、頼ってください。頼ってくださったら私は、とてもうれしいです、エミーリエ」
そう言われて、エミーリエは言わせてしまったような気がした。結局こんなふうに悲壮感たっぷりなところを見せて彼を自分はそそのかしただけじゃないだろうか、とまで思う。
……けれど、そうだとしても。それでも駄目ですね。私、やっぱりあなたに与えられてばかりで、それでも嬉しいと思ってしまって、遠慮できなくて。
……ごめんなさい、ユリアン。
「っ……っ、ふっ……すみません」
「何故、謝るんですか。もしかして、それでも私ではだめだということですか?」
エミーリエはいよいよ涙が堪えられなくなって頬を涙が伝うのをかんじて震えて、謝罪を口にした。
すると彼は、その様子を見てもうエミーリエが勝手にどこかに行こうとは考えていないとわかったらしく、少し笑って体を離す。
「っ、はぁ……いいえ、すみません」
エミーリエはその様子の彼に何かを言おうと思って、呼吸を落ち着けて口を開くが、言葉が出てこなくてまた謝罪の言葉を口にした。
そんなエミーリエの手をとって、ユリアンはやっと馬車の中へとエスコートして、隣り合って座り、ぽろぽろと涙をこぼしたエミーリエにずっと寄り添ったのだった。
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