どうせ去るなら爪痕を。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
50 / 59

49 頼らないために その二

しおりを挟む



 だからどうか今だけは、そう願って、涙で歪んだ瞳をユリアンに向けた。

 すると彼は、キョトンとしていて、エミーリエは何をそんなにおどろいているのかとこちらも驚いてしまった。

「……し、仕事上の付き合いだったんですか?」

 不意に問いかけられて、エミーリエは切羽詰まっていたので考える間もなく、腕を掴まれたまま静かにうなづいた。

「では、本当の恋人ではないと、あなたはずっとそう思っていたのですか?」
「……それは、はい。一応」
「一応……」

 エミーリエとユリアンはどうやら何かすれ違いをしてしまっていたらしい、しかし、そうはいっても今は彼の勢いがそがれて丁度いいと思った。

「お互いに、利害関係が一致したが故の関係だったはずですユリアン。もちろんフリッツ王太子殿下にあれだけ大きな事を言った以上はともに過ごし、将来を誓い合った仲として、振る舞います。
 
 しかし、あなたは私のすべてを受け入れる義務などないのです。

 気にしないでください、きちんと私は気持ちを整理したら、いつも通りに戻ります。

 ただ、今だけは、気にしないでいただきたいです。

 手を差し伸べられたら、私は、困ってしまいます。あなたの体に縋りついて寄りかかってしまいそうです。

 ……だから、どうか、離してください」

 エミーリエは、混乱している様子の彼に説得するようにそう口にする。

 ここまで言えばユリアンはわかってくれるはずで、甘えてしまわずに済む。

 それが一番いい事だと思った。ユリアンの手に手を添えて、少し力を込めて手を外そうとした。

「っ……」
 
 しかしその手は離されることはなくさらにきつく、ぐっと握られて、ユリアンはエミーリエを少し睨むみたいに、強い視線をむけた。

「……あなたの気持ちはわかりました。それで、そんなふうに私に頼りたくないから、どこへでも私のそば以外の場所に行くと。

 誰もいなくて誰も慰めることができない場所に一人でいて、いつかどうにかなる確証などないのに、一人で処理するためにここに残るとそれを本気で私が了承すると思ってるんですね」
「……はい」
「侮らないでください、エミーリエ」

 腕を引かれる。想像していなかったことで途端に抵抗できずにエミーリエは難なくユリアンとぴったりと体を重ねた。

 背中に手を回されて、きつく抱きしめられると呼吸が苦しいほどだ。

「たしかに私はあなたに比べたら、頼りないかもしれません。自分の兄にすら逆らえないような人間です。

 常に騎士に守られてばかりの、王子で何ができるわけでもない。歳だってあなたより年下だし、背だってほんの少し大きいぐらいです」

 頼りないから、頼りたくないといったわけではないと思いつつも、多少は彼を頼れない理由の一端として、そう言う部分もなくはないと思っている。
 
 頼るような相手ではないと思ってしまっている。だからこそきちんとしている姿しか見せたくない。

「っ、でも、支えるぐらいはさせてくださいよ。強く抱き上げるほどの力がなくたって、支えることぐらいは私にだってできます。

 あなたが一人でどこかに行こうとしていたら、引き留めて、慰めることぐらいはさせてください。

 私は、あなたがどんな人物でも、あなたのこと、愛しています。家族を失った悲しみを私で癒せるとは到底思えません、しかしたった一人でいるよりはましではありませんか。

 楽になるのがすこしは早いのではありませんか? そばにいさせてください。

 伝わっていなかったのならば何度だって言います。エミーリエ、私はあなた以外はありえないと思うほどあなたが好きです。

 だから、悲しみに暮れてどうしようもなくなりそうな時ぐらい、頼ってください。頼ってくださったら私は、とてもうれしいです、エミーリエ」

 そう言われて、エミーリエは言わせてしまったような気がした。結局こんなふうに悲壮感たっぷりなところを見せて彼を自分はそそのかしただけじゃないだろうか、とまで思う。

 ……けれど、そうだとしても。それでも駄目ですね。私、やっぱりあなたに与えられてばかりで、それでも嬉しいと思ってしまって、遠慮できなくて。
 
 ……ごめんなさい、ユリアン。

「っ……っ、ふっ……すみません」
「何故、謝るんですか。もしかして、それでも私ではだめだということですか?」

 エミーリエはいよいよ涙が堪えられなくなって頬を涙が伝うのをかんじて震えて、謝罪を口にした。

 すると彼は、その様子を見てもうエミーリエが勝手にどこかに行こうとは考えていないとわかったらしく、少し笑って体を離す。

「っ、はぁ……いいえ、すみません」

 エミーリエはその様子の彼に何かを言おうと思って、呼吸を落ち着けて口を開くが、言葉が出てこなくてまた謝罪の言葉を口にした。

 そんなエミーリエの手をとって、ユリアンはやっと馬車の中へとエスコートして、隣り合って座り、ぽろぽろと涙をこぼしたエミーリエにずっと寄り添ったのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

処理中です...