どうせ去るなら爪痕を。

ぽんぽこ狸

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53 調査結果

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「こっ、こんな事実はデタラメですっ!!」

 ユリアンが提示した書類を叩きつけて、ハインリヒ王太子はヒステリックに叫んだ。

 話を進めていくにつれて、だんだんと顔が青くなっていってるなとは思っていたがまさかこれほど取り乱すとは思ってもみなかった。

「では、デタラメであるという証拠を出してください。私はカルシア王国から資料も取り寄せ、建国の際に作られた祠の形をした魔法道具について、過去の起った事件とともにこの国の事例を語っただけにすぎません。

 その説明を覆すだけの説得力のある材料があるのでしたら、どうぞ提示してください」
「それはっ……! そんなものすぐに出てくるわけがないじゃないですか! いや、そもそも調査の方向性としては、どこかの貴族や他国からの魔法的な攻撃の可能性を考えて、国宝の魔法道具を解析したはずです。

 それなのに、なんですかこの結論はっ」

 そう言ってハインリヒ王太子はバシバシと机に置かれた書類を叩き、ユリアンに食って掛かった。

 あらかじめきちんと書類を確認しておけばこんなことにはならなかったというのに今更、貴族たちの前で説明されて、こんなふうに感情を乱すなど滑稽そのものだった。

「結論ですか? ……そんなもの私は出していません、ただ単に、事実を説明しているだけです。

 天候を操る魔法道具を解析した結果、十数年前国家事業として開発をしようとしていたブラント伯爵家そのほか水の魔法を持つ中小領地から同じ反応が検出された。

 そして、現地調査によって、領地の中にそれぞれ存在している祠型の魔法道具。

 それらはカルシア王国にもある、建国当時に作られた国をより住みやすいものにするためのものです。

 精霊王を祀っているという説明が多くの場合なされますが、実際はそれに魔法を持っている貴族が祈りをささげることによって微細な魔力がその魔法道具を動かし、長期的に天候に作用する。

 アーグローデにあるのは、災害の影響となる雨を減らすための魔法道具でしょう。

 そして何よりその証拠に、ブラント伯爵家以外の周りの貴族が、立ち退いた直後、ブラント伯爵家を水害が襲っていますね。

 そこからブラント伯爵家は一人娘のエミーリエに急遽婚約者を見つけ屋敷から出しました。しばらくののちにブラント伯爵夫人もなくなり、貴族としての体を保てなくなり没落しました。

 以降、徐々に気候が建国当時に戻り、事業は失敗。この状況を見れば、その貴族たちを戻せば、今の国の状況から脱することができるというのは明らかでしょう」

 ユリアンは、長々とわかりやすくしていた説明を簡単にまとめてハインリヒ王太子にわかるように短く説明し直した。

 するとさらに彼は顔を真っ赤にして怒って、テーブルを叩いた。

「だから、それではまるで、自業自得みたいじゃないですか!!」
「……」
「そんなことはないはずなんです、というか失礼過ぎませんか!?」

 ……私はそこまで言っていませんし、事実、自業自得だと思います。

 それに自分でそれを言ってしまうのは、王族として如何なものですか、責める気などないのですから、せめて、少しでも貴族たちから印象が悪くならないように話を運べばいいものを……。

 ユリアンは、物わかりの悪いハインリヒ王太子に少しうんざりしたような気持ちになった。

「いえ、あ、そのもちろんカルシア王国の協力はありがたいですが、そう言うのは流石に━━━━」
「もう良い、ハインリヒ」

 さらに言葉を続けようとしたハインリヒ王太子の言葉をさえぎって、バルタザール国王陛下が、初めてまともに言葉を紡いだ。

 ユリアンは彼が何を言うのかと鋭く視線を向けた。

「認めよう。たしかに立地の良い場所で産業を始めるということにこだわり立ち退きを迫ったことは事実だ。

 しかし、強国カルシアに常に睨まれている我々が事を急ぎ、自らも力をつけようとすることは当然の選択ではないだろうかのう」

 カルシアにも非があったという彼に、ユリアンは何も返さずに、言葉の続きを聞いた。

「……しかし結局は、何をするべきかであろう。第二王子よ。

 で、祠というからには何か、その生き残りの女を生贄にでもささげればいいのか?

 ではそのように手配すればいい、犠牲になった者たちを悼む意味で石碑を建てろ話はそれで終わりじゃ」

 たっぷりと蓄えたひげを摩りながら名案だろうとばかりにそう言うバルタザール国王に、ユリアンはとても冷たい目線を向けた。

 ……だからこの国はいつまでたっても駄目なんでしょうね。

 まったく今までの話を聞いていなかったのだろう。祠ではなく祠型の魔法道具だと言っているし、駆動している魔石も発見したと記載もしてある。

 しかし、話が通じない上に、エミーリエを生贄にときた。

 生贄を出しておけば収まると本気で思っているらしいこの男は、もう引退した方がいいだろう。

 それに寄りにもよって彼女をそんなふうに言うなんて到底許せない。

「……私は立ち退きを迫られた貴族たちに話を聞きに行きましたが、誰一人として、祠の事を教えてくださる人はいませんでした。

 私がそのことを知ることができたのは、父や母をうしなったエミーリエからです。ブラント伯爵家は、一番大きな被害を受けたにも関わらず、彼女はまだ王家に対して尽くす姿勢を持っています。

 その彼女の献身すら無視して、自分たちのやった事のつけを払わせるという事ですね。

 理解しました。

 彼女は私の最愛の人で、ブラント伯爵家の最後の血筋であり、あの場所に戻り祈りをささげてくれと頼めば、喜んでこの国を本来あるべき姿に戻すために協力をしてくれるような人です。

 そんな彼女を犠牲にして、私の愛おしい人を亡くしてまで、安直で自分勝手な決定をなさるというのなら、どうぞお構いなく。

 私は父にはあまり好かれていませんが、兄にはとても信頼されているんです。

 カルシアに戻り、一生仕えることを約束すれば、私の悲しみを癒すために最大限の事をしてくれるでしょう。

 もちろん私自身も、容赦はしません。ここで、声をあげない貴族の方々にも一般市民にも」

 ユリアンは兄の事を引き合いに出すのは、あまりやりたくない事だった。しかし、そのぐらいうまく使ってこそだ。

 いつまでもエミーリエに支えてもらってばかりの情けない男ではいられない。

 彼女の為なら大きなはったりだっていう。

 それに別に嘘というわけではない。

 もちろんエミーリエがそんな目に遭うぐらいだったらユリアンはエミーリエを連れて逃げる覚悟があるが、もし生贄に捧げられるようなことがあれば、このバルタザール国王にぐらいは同じ目に遭わせてやるつもりだ。

「……」
「……」

 場は騒然とし、貴族たち全員が国王の出方について伺っていた。

 そしてしばらくバルタザール国王はとても厳しい顔をしていたが、たっぷりと蓄えたひげを摩る速度が速くなり、ハインリヒ王太子に視線を向けた。

 それから小声でもそもそとはなし、ハインリヒ王太子はぎこちない笑顔をユリアンに向けた。

「……ま、まさかそれほど、国家に尽くしている少女とは、ぼ、僕たちも知りませんでした! いえ、もう是非、ユリアン第二王子の提案を全面的に受け入れたいです! ね、父上」
「……うむ」

 ハインリヒ王太子の言葉に、バルタザール国王は頷く、そう言ったわけでユリアンの目論見は大成功を収めたのだった。


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