4 / 46
4 選択
しおりを挟む目が覚めるとラウラは、変な夢を見た気がした。
確か戦の女神だと名乗る美しい人物と、協力して魔獣から人びとを守るというような内容で、それはディースブルクに存在する神話のような夢だった気がする。
しかし記憶は遠く、はるか昔に体験した出来事のように鮮明には思いだせない。
けれども一つだけわかることがある。そこではアマランスの花冠は実物ではなく、何かの技術として扱われていたという事だ。
そしてそれは、今でいう魔法。それをラウラは知って、たしかにそれを受け取ったような気がする。
けれどもうまく思いだせない、目を開ければ、すでに日が落ちているのか真っ暗で目の前には意識を失った時と変わらず、ニコラが美しい金髪をなびかせてそこにいるのだった。
『おお、良い具合に馴染んでおるなラウラよ!』
『……ニコラ? なにがあったのかよくわからないけれど、あの本はもしかして……』
『そうじゃ、ディースブルク伯爵の魔導書じゃ』
笑みを浮かべながら彼女はそういい、ラウラは瞳を瞬いた。
この屋敷にもそんなものがあったのだということにも驚いた。
それにディースブルク伯爵というと現在は父である、アルノルト・ディースブルクであるがその人ではないことは確かだろう。
……ということは昔のディースブルク伯爵がこの魔導書を書いて、それが長らくこの場所で忘れ去られていたということになるの?
ありえない事もないだろうし、実際問題、不思議な書物であることは事実だろう。これをラウラだけの秘密にしておくことなどできない。
ラウラはすぐに立ち上がって、問題の魔導書を手に取ろうと手を伸ばす。
『っ、ひゃ!』
しかし手を伸ばしたところで、すぐに異変に気が付いて、ラウラは飛び上がった。
自らの手が半透明に透けていて、手をかざすと向こう側のキャビネットが見えるほどに存在が希薄になっている。
それはちょうどニコラの羽の部分と同様に、キラキラとした魔法の光をはらんでいて、ラウラはあまりの驚きに口を開けたまま固まった。
『のう、ラウラ。お主はわしに対して思う所は沢山あるだろう』
固まったラウラの指先にチョンと乗ってニコラは優しい声で言った。
幼女のような丸い頬に柔らかそうな短い手足、着ている白いドレスは風になびいて少し揺れた。
『ただな、わしはお主の為を想ってお主に与えた。お主はどうしたい。この魔導書と力をもってしてディースブルクにさらに尽くし、その価値を証明することを選ぶか?』
その問いかけは真剣そのもので、暗い部屋の中で淡く光る自分と彼女だけがこの世界に存在しているようであった。
『それとも、本物の透明を手に入れた今。その羽を伸ばすために飛び立つか……好きな方を選べばよい。わしは何も言わぬ』
……残るか、進むか。
ニコラの問いかけにラウラは混乱している頭をいったん切り替えた。たしかに聞きたいこと、聞くべきことは沢山ある。
今自分がどんな風になっているのか。
本の名前からして魔法自体の想像は容易い、しかし魔力の関係や使い方など沢山知らなければならない事もある。
けれどもラウラとニコラ、二人の本題はそこではないのだ。
ニコラは常日頃からずっとラウラのことを支えてそばにいて認めてくれていた。
そしてやってきた機会。
確かに透明なラウラは家族にその存在を認めてほしい、けれども、彼らはラウラに価値を見出してはくれない。
与えられた機会を逃せばきっと次はないだろう。婚約もなくなった、存在も認められずにここにいる意味はない。
「……」
そして何もできないラウラに、友人は信じて力を与えてくれた。
友人が望んでくれているのはラウラの幸せだ。価値を認めてもらえるようになってほしいとニコラも想って与えてもらった。
……だったら、私は……。
「自由に生きる。私、私を無価値だと思わない人のところで自由に生きたい」
『! よくぞ言ったぞ、ラウラよ! お主は自由じゃ透明人間からは脱却と行こう』
「うんっ」
そうしてラウラは透明人間をやめることを決意した。
にべもなく裏切られた初恋をばねにしてやっとできた決断は、果たしてラウラを幸福へと導いているのか、その行く先は女神さまもわからない前途多難の道筋であった。
765
あなたにおすすめの小説
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~
黒鴉そら
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」
自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。
全然関係ない第三者がおこなっていく復讐?
そこまでざまぁ要素は強くないです。
最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる