14 / 46
14 酒場にて
しおりを挟む楽しい時間が過ぎるのはあっという間というけれどラウラはその気持ちを初めて実感していた。
ついこの間成人も迎えて、王都の高級酒場にも出入りできるようになったラウラは、それはもう自由を謳歌していた。
例えばこの場所でふいに素敵な男性に出会って交際を始めることになったり、ミステリアスな事件に巻き込まれるかもしれない。
そんな想像をしつつお酒を飲むことは、ラウラの気持ちをとても豊かにさせたのだが、ラウラの生来の性質と地味な見た目で、店員にも存在を忘れられて静かに一人で飲むばかりだった。
透明化魔法などなくともラウラは元から影が薄い。
特徴のある姉妹二人に挟まれて柔らかく微笑んでいるばかりだった幼少期から根本的な性格は何も変わっていないのかもしれない。
『お主はこうなっても何と言うか、変わらぬのう』
そんなラウラにニコラは若干呆れたように言いながら店内をツイーと飛んでいき、またラウラの元へと戻ってくる。
彼女の柔らかい白いドレスが揺れて風がふわりと吹く。
ムーディーで大人な雰囲気のある店内へと視線を送れば、それなりに席は埋まっているが、ラウラのような一人客は皆カウンターに座って店員との会話を楽しんでいる様子だった。
『そんな風に一人で飲んで、一人で居座っていては酒場の面白さを感じないだろう?』
彼女の指摘にラウラは、アルコールにとろけた頭でぼんやりとしながらもおっとりと返した。
『そんなことないよ。ニコラ……ここにいるだけでいろんな可能性があるって思えて楽しいから』
『おや、器用なことをするようになったな』
ニコラはラウラの言葉にではなく、ラウラの魔法に驚いてそばによりラウラの唇に触れた。
『……』
『姿を消さずに、声だけを隠しておるのか。これならばどこでもわしと話ができるな』
そうなのだ、こうして人と接する生活をしているとやはりニコラと日常的に話をしているのは不気味に思われることもある。
そこでラウラは、どうにか透明化できる部分を変えられないかと試行錯誤した結果、なんとなくできるようになった。
『うんっ。……それにしても不思議よね、昔の人が編み出した創作魔法って。魔導書だけで受け継がれていて、適合したら今の魔法ではありえないほど不思議な魔法が使えるなんてどうしてなんだろう』
『そりゃあ、単純な事じゃ。……今のお主らよりも昔の人間の方がはるかに力を持っておった、お主たちとは違って魔力によって多くのものを生み出す万能の力を持っていた』
ふいに疑問に思ってニコラに聞くと、ニコラは得意げに話をする。
こうしてたまに話してくれる彼女の昔を語る言葉は、今まではずっとただの創作話だと思っていた。
しかしこんな不思議な魔法がある以上は、そうとは言い切れないのかもしれないと思いつつ、すこし真剣にニコラの話を聞いた。
『万能の魔力を持った奴らはな、魔法を作り、概念を作り、生活を作り、人間を作った。じゃから作られた人間は万能の力を持っていない、与えられたときのみ使う事を許される。所詮は制作物なのじゃ』
『……そう聞くと、なんだか昔の魔導書を作った人って神様みたい……』
『そうじゃな。丁度お主らが神とあがめる存在は、はるか昔に今の人間と同じ地位にいたのじゃよ』
『……その話、すごく面白いけど、絶対に誰にも言えないわ』
『じゃろうな異端審問会にかけられるぞ』
いたずらっぽく笑ってニコラはそういったがシャレにならない。
しかしニコラの言ったことが本当だとするならば、昔の魔導書だけが特殊な創作魔法を得る手段だと言われると納得がいく。
……あ、というか、あの魔導書、ディースブルク伯爵邸に置きっぱなしになっているけれど、報告と献上をするべきじゃないのかな……。
酒に酔った頭でラウラはぼんやりと考えた。
この国には一応あたらしい魔導書が見つかると王族に届け出て献上するべきという決まりがあり、王族はいくつかの魔導書を所有している。
しかしラウラが生まれてから魔導書が見つかって献上されたことなど一度もなかった。
それに王族ではない魔導書を所有している家系もいくつか存在しているらしいし、世間一般的には知られていない魔導書というのもあるだろう。
つまり献上するべきではあるが、ばれなければ問題がないという事だ。
『それで、その話は置いておいて、ここにいるだけで楽しいというのはどういう事じゃ?』
元の話題に戻るべく、ニコラは適当にテーブルに着地して、ラウラは、手をあげて店員を呼び追加のお酒を注文する。
そうすると少しだけラウラの方へと視線が向く。
こんな場所に女の子が一人でいたのかとふと興味を示した男性たちもいたが、自分たちの話していた酒の席での楽しい会話の方が魅力的ですぐに戻っていく。
なんせラウラは地味なのだ。どこにも欠点がない代わりに何のとりえもない。
実家以外でも透明度が高い、影の薄い女である。
『そのままの意味だよ。私は、ああして屋根裏部屋にいてずっと誰にも相手にされていなかったけれど、それでも別に退屈はしていなかった。頭のなかだけならどこにいて何をしていても自由だから』
『……そうじゃったな。お主は昔から夢見がちで空想が好きな子供じゃった』
ニコラは思いだしたようにそういって、ラウラもその通りだと頷いた。
だからこそ、物静かでぼおっとしている空想ばかり思い描いているラウラはいつも反応も遅い。
それに決定的なことが起きた日の事を今でも覚えている。
『今でもそれは変わらぬという事か。それにしてもわしはもう少し、自分から何かしてみてもよいと思うがな!』
ニコラも変わらず、ラウラを後ろからせっつくことは昔から変わっていない。
これでもラウラは今とても活動的な気がするが、それ以上となると何をするべきかと頭を悩ませながらニコラとゆったり話し、酒場での時間を楽しんだのだった。
719
あなたにおすすめの小説
『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』
ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、
偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢
シャウ・エッセン。
「君はもう必要ない」
そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。
――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。
王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。
だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。
奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、
一人に負担を押し付けない仕組みへ――
それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。
元婚約者はようやく理解し、
偽ヒロインは役割を降り、
世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。
復讐も断罪もない。
あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。
これは、
選ばれなかった令嬢が、
誰の期待にも縛られず、
名もなき日々を生きることを選ぶ物語。
(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?
青空一夏
恋愛
私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。
私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・
これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。
※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。
※途中タグの追加や削除もありえます。
※表紙は青空作成AIイラストです。
[完結]悪役令嬢に転生しました。冤罪からの断罪エンド?喜んで
紅月
恋愛
長い銀髪にブルーの瞳。
見事に乙女ゲーム『キラキラ・プリンセス〜学園は花盛り〜』の悪役令嬢に転生してしまった。でも、もやしっ子(個人談)に一目惚れなんてしません。
私はガチの自衛隊好き。
たった一つある断罪エンド目指して頑張りたいけど、どうすれば良いの?
私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします
ほーみ
恋愛
その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。
そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。
冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。
誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。
それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
だが、彼の言葉は、決定的だった。
「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる