透明令嬢、自由を謳歌する。

ぽんぽこ狸

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14 酒場にて

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 楽しい時間が過ぎるのはあっという間というけれどラウラはその気持ちを初めて実感していた。

 ついこの間成人も迎えて、王都の高級酒場にも出入りできるようになったラウラは、それはもう自由を謳歌していた。

 例えばこの場所でふいに素敵な男性に出会って交際を始めることになったり、ミステリアスな事件に巻き込まれるかもしれない。

 そんな想像をしつつお酒を飲むことは、ラウラの気持ちをとても豊かにさせたのだが、ラウラの生来の性質と地味な見た目で、店員にも存在を忘れられて静かに一人で飲むばかりだった。
  
 透明化魔法などなくともラウラは元から影が薄い。

 特徴のある姉妹二人に挟まれて柔らかく微笑んでいるばかりだった幼少期から根本的な性格は何も変わっていないのかもしれない。

『お主はこうなっても何と言うか、変わらぬのう』

 そんなラウラにニコラは若干呆れたように言いながら店内をツイーと飛んでいき、またラウラの元へと戻ってくる。

 彼女の柔らかい白いドレスが揺れて風がふわりと吹く。

 ムーディーで大人な雰囲気のある店内へと視線を送れば、それなりに席は埋まっているが、ラウラのような一人客は皆カウンターに座って店員との会話を楽しんでいる様子だった。

『そんな風に一人で飲んで、一人で居座っていては酒場の面白さを感じないだろう?』

 彼女の指摘にラウラは、アルコールにとろけた頭でぼんやりとしながらもおっとりと返した。

『そんなことないよ。ニコラ……ここにいるだけでいろんな可能性があるって思えて楽しいから』
『おや、器用なことをするようになったな』

 ニコラはラウラの言葉にではなく、ラウラの魔法に驚いてそばによりラウラの唇に触れた。

『……』
『姿を消さずに、声だけを隠しておるのか。これならばどこでもわしと話ができるな』

 そうなのだ、こうして人と接する生活をしているとやはりニコラと日常的に話をしているのは不気味に思われることもある。

 そこでラウラは、どうにか透明化できる部分を変えられないかと試行錯誤した結果、なんとなくできるようになった。

『うんっ。……それにしても不思議よね、昔の人が編み出した創作魔法って。魔導書だけで受け継がれていて、適合したら今の魔法ではありえないほど不思議な魔法が使えるなんてどうしてなんだろう』
『そりゃあ、単純な事じゃ。……今のお主らよりも昔の人間の方がはるかに力を持っておった、お主たちとは違って魔力によって多くのものを生み出す万能の力を持っていた』

 ふいに疑問に思ってニコラに聞くと、ニコラは得意げに話をする。

 こうしてたまに話してくれる彼女の昔を語る言葉は、今まではずっとただの創作話だと思っていた。

 しかしこんな不思議な魔法がある以上は、そうとは言い切れないのかもしれないと思いつつ、すこし真剣にニコラの話を聞いた。

『万能の魔力を持った奴らはな、魔法を作り、概念を作り、生活を作り、人間を作った。じゃから作られた人間は万能の力を持っていない、与えられたときのみ使う事を許される。所詮は制作物なのじゃ』
『……そう聞くと、なんだか昔の魔導書を作った人って神様みたい……』
『そうじゃな。丁度お主らが神とあがめる存在は、はるか昔に今の人間と同じ地位にいたのじゃよ』
『……その話、すごく面白いけど、絶対に誰にも言えないわ』
『じゃろうな異端審問会にかけられるぞ』

 いたずらっぽく笑ってニコラはそういったがシャレにならない。

 しかしニコラの言ったことが本当だとするならば、昔の魔導書だけが特殊な創作魔法を得る手段だと言われると納得がいく。

 ……あ、というか、あの魔導書、ディースブルク伯爵邸に置きっぱなしになっているけれど、報告と献上をするべきじゃないのかな……。

 酒に酔った頭でラウラはぼんやりと考えた。

 この国には一応あたらしい魔導書が見つかると王族に届け出て献上するべきという決まりがあり、王族はいくつかの魔導書を所有している。

 しかしラウラが生まれてから魔導書が見つかって献上されたことなど一度もなかった。

 それに王族ではない魔導書を所有している家系もいくつか存在しているらしいし、世間一般的には知られていない魔導書というのもあるだろう。

 つまり献上するべきではあるが、ばれなければ問題がないという事だ。

『それで、その話は置いておいて、ここにいるだけで楽しいというのはどういう事じゃ?』

 元の話題に戻るべく、ニコラは適当にテーブルに着地して、ラウラは、手をあげて店員を呼び追加のお酒を注文する。

 そうすると少しだけラウラの方へと視線が向く。

 こんな場所に女の子が一人でいたのかとふと興味を示した男性たちもいたが、自分たちの話していた酒の席での楽しい会話の方が魅力的ですぐに戻っていく。

 なんせラウラは地味なのだ。どこにも欠点がない代わりに何のとりえもない。

 実家以外でも透明度が高い、影の薄い女である。

『そのままの意味だよ。私は、ああして屋根裏部屋にいてずっと誰にも相手にされていなかったけれど、それでも別に退屈はしていなかった。頭のなかだけならどこにいて何をしていても自由だから』
『……そうじゃったな。お主は昔から夢見がちで空想が好きな子供じゃった』

 ニコラは思いだしたようにそういって、ラウラもその通りだと頷いた。

 だからこそ、物静かでぼおっとしている空想ばかり思い描いているラウラはいつも反応も遅い。

 それに決定的なことが起きた日の事を今でも覚えている。

『今でもそれは変わらぬという事か。それにしてもわしはもう少し、自分から何かしてみてもよいと思うがな!』

 ニコラも変わらず、ラウラを後ろからせっつくことは昔から変わっていない。

 これでもラウラは今とても活動的な気がするが、それ以上となると何をするべきかと頭を悩ませながらニコラとゆったり話し、酒場での時間を楽しんだのだった。

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