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17 予想外の出来事 その一
しおりを挟むルーラの書籍を出版してから二ヶ月経った。
フェリクスの目論み通りに曙の女神と闇の神の恋愛小説は流行にのり、平民たちにもその小説と作者の名前は知れ渡るようになった。
そして小説と同時に、家名もない名前だけの作者名に様々な憶測が飛び交うようになった。
それは、ルーラの人物像に対するものだ。
なんせこれだけ流行っている小説でありながら、誰もその作者を知らないとなるとそのミステリアスさが話題になる。
そのうち名乗り出てくるはずだろうと期待する声や、何か大衆に前に出られない病気を患っているのではという声、もしくはルーラというのは女性ではなく男性で恋愛小説を書いたと公表するのは恥ずかしいので架空の人物が作り出された、などと様々な噂と憶測が飛び交っていた。
しかしその憶測もフェリクスの想定内だ。
こうして話題になったことにより、ルーラを探しているとアイヒベルガー公爵家の名前で公表する。
すると、もちろん彼女以外の自称作者だと名乗る女性も現れるだろうが、名前以外にまったく手がかりのない相手だ。
その中に本物とつながりのある人物がいる可能性も、本物がいる可能性もある。
とにかく手掛かりになることが何かつかめれば、後はルーラという名前の女性の情報を大体インプットしているので、特定することはさほど困難ではないだろう。
何を置いてもまず情報だ。この人探しはとても困難なものになるだろうことは初めから承知していた。
それでもあきらめるという選択肢がないのは、フェリクスがその他ほかの事すべてに対して執着も興味もないからだ。
興味も持てないものばかりだった人生に与えられた唯一の彩りを逃すまいと目をギラギラとさせて作戦を練っていた。
だからこそこの難易度を楽しむ気持ちすらあった。
しかし、ルーラの小説が流行ると同時に起こったことは、フェリクスの想像を超える事態だった。
あまりの流行りっぷりに王族の耳にまで入ったらしく、ルーラの小説について話を聞くためにという名目で王太子であるアウグストから、呼び出しがあったのだ。
もちろん普段から、そんなことで呼び出すような関係性でも人柄でもない。普通に考えて悪い内容の呼び出しだと考えられた。
何か、この小説の内容か将又、ルーラの事かで王族の興味を引いたことがあったに違いない。
例えばこの小説が何かの暗号を含んでいるとか、ルーラは王族に関係する何か特別な存在だとか。
そういうことが想像された。しかし驚く気持ちはあったが、それでもフェリクスが思ったのは、これで何かしらルーラの情報が出てくるはずだという確信だった。
それにこんなに想定外の事は初めてだ、もう楽しくて仕方がない。
例え王族にどんないちゃもんをつけられ、ルーラの小説がいかに大々的に出版してはいけない代物だったとしても、フェリクスに後悔はない。
さっさと予定を決めてハーゲンを従えて、王宮へと出向いたのだった。
呼び出しておいて、王族である彼らは後から応接室に入室し、フェリクスは彼らに向かって頭を下げた。
王太子、アウグストの傍らには王太子妃であるローゼマリーが、微笑を浮かべて寄り添っており、あい変わらず効率の悪そうな大所帯で広すぎる応接室へと入ってきた。
騎士が部屋の中にも外にも待機し、十人はいるであろう使用人は余計な手間と時間をかけながら丁寧にお茶の支度をする。
手土産をハーゲンが渡すと淑やかな王宮の侍女は受け取り、その彼らの動きが落ち着くころには、ゆっくりと移動していたアウグストたちがこれまた異様に優雅な仕草でソファーに着席した。
「どうぞ、座ってください。フェリクス」
「今日は私たちの呼び出しにすぐに応じてくれてありがとうございます」
アウグストの言葉にフェリクスはソファーに腰を下ろして、静かに彼らを見据えた。
相変わらず無駄に華があり優雅な未来の王夫妻だが、今日はなんとなく彼らからの圧を感じる気がした。
……ルーラの小説の事だという以外の事は知らないが、やはりいい話ではなさそうだな。
そんな風にあたりをつけて、フェリクスも適当な答えを返す。
「いいえ。アウグスト王太子殿下のお名前でお話をいただいた以上は当然の行動です」
「そうですか、私も君がそう言ってくれてとてもうれしいです」
ニコリと笑みを浮かべるアウグストは、当たり前のことと考えている様子だった。
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