透明令嬢、自由を謳歌する。

ぽんぽこ狸

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20 予想外の出来事 その四

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「恐れながら、殿下! 私は今、これは国にとってとても意義のある好機だということに気が付きました」

 頭の中で考えついた言葉を修正しながらフェリクスは言葉を続ける。

 アウグストの鋭い視線は変わっていない。

「好機……ですか?」
「はい。初めから言っているように私は、絶対に、誓って王族の秘密を盗み出すようなことはしていない。そして実際問題、盗み出せるような簡単な守り方をしているはずもないと思います」
「……」

 フェリクスの言葉の続きを聞くために口をつぐんだアウグストに、彼も確かにそのように、王族が守っている秘密が簡単に盗まれるわけがないと思っているのだと理解できた。

 共感を得られたということは、彼もこの事態に多少の疑問を持っているという事だ。

「そうであり、なおかつ苦労して知り得た重要な秘密ならば、このように多くの人間に知らしめては、その価値を落とす。そんなことを苦労して秘密を仕入れた人間がするでしょうか?」
「あなたがそういうための、口実にこのような手法をとった可能性があります」
「たしかにそれも一理あります。しかし、情報の価値が落ちていることも事実、苦労して盗み出したのにそんなことをするのは合理的ではない」
「……」
「俺だったら、そんな使い方はしません。そして、今ここにいないはずだ。それは、俺を信用していたといった君も理解しているはず」

 早口にならないようにフェリクスは丁寧に話しながらもアウグストに言わせたい言葉を言わせるために言葉を重ねた。

 すると彼は、しばしの逡巡の後にそばにいるマリーローゼを一瞥してから、フェリクスに「何が言いたいんですか?」とフェリクスの答えに納得できるかもしれないという希望を持って問いかけてきた。

 ……面倒くさいが扱いやすいのが王族のいいところだ。

「つまり、ルーラの書いたこの小説は、その情報の意味を理解していないという事にはなりませんか?」
「……だとしてそれが示す答えを教えてください」
「情報の重要性を理解してない、ならばルーラという女性は、その情報を苦労せず手に入れた、例えば普段から見えている神秘的な存在に教えてもらったとか」

 フェリクスの示した可能性は、自分で言っていても、あり得ることなのかそうではないことなのか正直分からない。

 しかしこうして、王族が持っている情報と同じような情報を娯楽小説なんて言う政治にあまり関係のないものにした人間がいるのだから、あり得るはずだと思う。

 見える人間の発生条件も、稀少性も、そもそも精霊の存在すら現実主義のフェリクスには怪しいものだが、実際に今の魔法科学では証明ができない、魔導書の存在もある。

 だからこそある程度は、見えないけれどそこにあるものの事はフェリクスは多少加味して考えるぐらいには認めている。

「それはっ、新たに精霊と通じるものがいるという事ですか?!」

 そして長年精霊との交友が断絶している王家にとっては喉から手が出るほど欲しい存在。

 ……いや、王太子であるアウグストからすれば、宿敵か。

 精霊と通じることができるから王家なのだ、王家の血筋を引いているからではない。

「さぁ、しかしそうであるなら、小説という娯楽のためだけの物に情報が消化された理由も納得がいくだろう。そして俺はただその作品を素晴らしいと思ったからこそ世に広めた」
「……」
「ルーラが精霊と対話することができるという可能性は大いにあり得る。……ここで俺を捕らえても俺は無罪だ痛くもかゆくもない。ただ、アウグスト王太子殿下、君に快く従おうという気にはならないな」

 フェリクスは形勢を逆転して、ソファーの肘掛けに頬杖をついて、足を組んで彼を見据えた。

 いつの間にか、アウグストも隣のローゼマリーも顔を青くさせている。

 その動揺が、自分たちの立場を揺るがされて恐れている気持ちからくるものなのか、それとも、精霊からの情報を娯楽小説にしてしまう変わった女性がこの国の主権を握る可能性に恐れているからのか、フェリクスはどちらかはわからない。

 しかし、アウグストはルーラを野放しにすることはできないだろう。

「俺はルーラから原稿を任されるほどには彼女から信頼を向けられている。俺を捕らえればもちろん王族に対する警戒心が彼女に芽生えるだろう」

 さらに言葉を重ねて、如何に今の状況でフェリクスを捕らえるのが効率的ではないかを伝える。

「そうなれば、何も知らないルーラはどうする? 精霊が見えることがどれほど稀有か、そのことに気が付くような出来事が彼女にあったら? 君たちと敵対する可能性も十二分にあるのではないか?

 そうならないためにはいち早くルーラを見つけて保護すること、そして何より良い関係を築くことが大切だろう。俺も彼女の正体については知りたいと思っている。

 こちらにはルーラの原稿や他の小説もいくつかあるんだ、そこから読み取れる彼女の情報や他の精霊魔法に関する儀式も得られるかもしれない」

 彼らに考える隙を与えないようにフェリクスは次から次に話を展開させて、すぐに答えを迫った。

「協力しよう。アウグスト王太子殿下、そして新しい精霊と通じる者を探し出し、この国の未来の安定のためにも協力関係を手に入れよう。王族はこれで安泰だ。

 俺もうれしい、長年、あなた方はとても努力して王族としてふさわしい努力をしてきた。そんなあなた方が久しぶりに現れた精霊と通じる者になり国を取りまとめる。

 それはとても素晴らしい未来だ」

 彼らの事を尊重しているような言葉を吐きながら、フェリクスは笑みを浮かべた。

 もちろん、ルーラはフェリクスのものだ。彼らに貸与することはあっても、彼らに捕らえさせるつもりなどない。

 しかし、協力は必要だ。王族ならばより多くの貴族の情報を集められる。

 ルーラの捜索は飛躍的に進むだろう。

「…………」

 アウグストとローゼマリーは二人で視線を交わし目線だけで何やら会話をしている様子だった。

 しかしフェリクスは何も心配していなかった。

 ここまで言われて、断れば彼らは愚者だ。それまでだろう、しかしそうではない事など、今までの付き合いで分かる。

「……何か、フェリクス、あなたのよくない企みに乗せられている気がしますが……本当にルーラは、見える者なんですね?」
「保障します。今のところそれ以外の可能性は思い浮かばない」
「……わかりました。協力、させていただこうと思います」

 渋々といった形でアウグストは立ち上がりフェリクスに手を差し出した。

 フェリクスも同じようにソファーから立ち上がって膝を折って、その手の甲を額に当てた。

 最上位の敬意を表したフェリクスに、ほんの少し殺伐としていた応接室の雰囲気はましになったが、彼らの警戒による緊張感は変わらない。

 それをフェリクスは心地よく思いながら、別れの挨拶をして彼らが去っていくのを見送った。

 これでルーラの捜索はさらに大きく進むだろう。

 そのことが楽しみで仕方なかった。




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