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41 受け入れた気持ち その二
しおりを挟むお礼を言った彼を見てもちろん彼がこんなにラウラの事を想ってくれるのは嬉しいが何にせよ、こんなにことを急ぐのは呪いのせいだろうとすこし心を落ち着けるために視線を逸らした。
……具体的にはどういうものだかわからないけれど、きっと彼の事を突き動かすような強いものなのね。
考えつつもそう納得して、庭園の散歩を続けようと視線を先に向けるとフェリクスは手をつないだまま散歩を続けるつもりらしく、包み込まれるように握られた手のひらに、ラウラはぎこちなくなった。
もちろんラウラは透明人間だったので、こんな風に人と触れ合ったことはない。
手をつなぐだけでも一大事だったのに、こんな手をつないで公衆の面前で散歩をするだなんてとんでもないことに思えた。
「ああ嬉しいな。こうして、君とゆったりと話をしていいこと事態がまずはとてもうれしい事だが、それ以上にこうしてしっかりと君と手をつないでいるととても安心感がある」
「……」
「このまま屋敷に連れて帰りたいぐらいだ、ラウラ。そうしたら夜通し君の小説について感想を言えるのに」
「……」
「もちろん夜更かしを強要するつもりもない。それにまだあって日の浅い女性に夜の話をするなんてナンセンスだったか。失礼、ただそれほど君とこれから長い時を共にしたいという話なんだが、君はどう思う」
フェリクスは数歩歩く間に楽しそうにラウラに問いかけてきた。
それにラウラは、どうしてもすぐに返答できなかったし、呪いの力というのはすさまじいものだと思う。
けれど結局沈黙に耐えられずに、よく考えずに男性の手の感触に頭をやられてコクコクとうなずいた。
すると、ペラペラと喋っているのに無駄に聞き取りやすい声でフェリクスはラウラに言った。
「そうか、同意してくれるか。嬉しいな。それなら早速、俺の屋敷に来るか? 最初に言った通りうちには面倒くさい舅も姑も滅多に帰ってこないから安心してほしい」
「え?」
「君の部屋はまだ作っていないが客間がいくらでもあるから、そこをまずは使う事にしよう。式はいつあげる? 今日はこの足でそのまま王族や教会に婚姻届けを出しに行こう」
「う」
「この後の予定は何かあったか? 必要ならばいくらでも待っているが、いつでも戻って来れられるのだから気軽に外泊するつもりで適当に荷物を纏めればいい」
また数歩歩くうちにフェリクスはラウラに反論の余地を与えないままペラペラと話をする。
そしていつの間にか彼のところでこのままお世話になるよう話になり、ラウラが否定しなければあっという間にアイヒベルガー公爵家に住まいをうつすことになりそうだった。
それにもまたラウラはこの強引さは呪いのせいなのか? と思ったが、どうにもそういう感じではない。
なんだか感じに覚えがある。
「ハーゲンこれからの予定が決まった早速屋敷に使いを出して準備を整えてくれ」
「はい、主様」
「っ、あの!!」
ラウラは彼らのやり取りを聞いていていよいよ声をあげた。
するとフェリクスは、首をかしげてなんの悪気もない様子でラウラの事を見た。
その悪気のなさそうな感じの雰囲気に、ラウラは呪いとかそういうものが関係なく、これはただのこの国の権力者として当たり前に育った彼の素なのだと判断した。
「そう、追い込むようなことをしなくても、流石に逃げないわ……なんていうか……はぁ、フェリクスは……」
『呪い以前の問題じゃろ。な、これだからアイヒベルガーの男は万能を望むぐらい傲慢で、そしてそれを当たり前としておる。のう、だから言ったじゃろ。ラウラ。こやつは勧められないと』
ラウラとフェリクスの間に風が吹き、手を離すと珍しくニコラはラウラの前に手を広げて、ラウラを背にしてフェリクスに向かって厳しい視線を向けていた。
そして続けていった。
『おい、アイヒベルガー、お主、わしのラウラを今度また思うように操ろうとしてみろ。その体、わしの風でぼろ雑巾のように切り裂いてやる』
「…………まさか、これが、ニコラか?」
『わしの名を呼ぶなど無礼じゃ人間、そしてさっさと帰れ。ラウラはしかるべき時にきちんとお主の元へと向かう。簡単に結婚などとのたまうのならばその準備でも粛々とすすめて待っておれ。この口先ばかりのすっとこどっこい』
「……」
突然の事にフェリクスは言葉を失ってニコラのことをじっと見つめた。
しかし突然風が吹き、フェリクスやその従者騎士などすべてからラウラを守るように後退させると、彼は名残惜しそうにラウラを見つめてから、どよめく騎士たちに目もくれず言った。
「ラウラ、精霊さまの言葉は本当か?」
「……」
「君は俺の元へと来てくれるのか?」
その瞳は精霊であるニコラではなくラウラを見つめていて、呪いがあり猛烈にことわりから外れた精霊的力を求めているのならば、ニコラに視線を持っていかれるはずなのに、とラウラは不思議に思った。
しかし、そんなことを熟考している間もなく、「うん」と彼に応えた。
そうすると、納得してフェリクスは従者たちを連れて、去っていく。
そんな彼らを見つつニコラはラウラを振り返った。
『まったく、お主はもの好きじゃな。なぜあんな妙な男を受け入れる気になった。そもそもお主を好いているからと言って答えてやる義理はないのだぞ』
ラウラはキラリとした美しい金髪を靡かせてふわりと飛び、ラウラにすこし強く問いかけた。
彼女曰く、ニコラの姿は本来このような姿ではなく、ニコラが姿を見せようと望んだ相手にだけ、相手の思い描く精霊や妖精の形で認識されるらしいのだ。
だからこそフェリクスは彼女を「これ」と言ったのだ。彼には一体ニコラがどんな風に見えているのだろう。
そう考えつつもラウラは、先ほどまでフェリクスとつないでいた手を手で摩ってニコラに答えた。
「うん。でも、ニコラ。私、きっとフェリクスならきっと大丈夫だって思ったから、それに私、ここにいたいし。クリストハルトの家庭教師も続けたいし、ヘルムート子爵夫婦にも恩返ししたい」
『たしかに王族に対抗できる、人間で年頃の近い人間といえばあやつぐらいじゃがな……』
「そう、それにあの様子ならきっと私を無視しない、もう透明人間になることはないのかなって思えるから」
ラウラはあまり深く考えてはいなかったが、彼の様子を見て、ふとそんなことを思っていた。
そして自分で言ったその言葉がとてもしっくり来た。
押しの強い人らしいが、やっぱりラウラは悪人ではないと思うし、これだけラウラの事を望んでくれる人もそういない。
ラウラの言葉にニコラは『それはそうじゃろうな』とそこだけは同意して、二人は、一緒に仲良く庭園を散歩したのだった。
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