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しおりを挟む「それで、ルビー様は私たちのような分家筋の男爵家、それも国の一番端に領地を持つ貴族の元へと嫁ぐことになりました。昔から気が強く、人を利用して自分をよく見せるところのある人でしたから、競う人が多い場所にいるのがよくないのだろうという結論だったそうです」
リリーは律儀にレーナにその後の報告に来てくれた。
レーナとしてはうまくやれたのだとヨエルに手紙を送って『すごいな!』とほめてもらう事しか頭になかったので、その後について、こうして調べずとも知らせてもらって助かった。
「……そうですか。アンドリュー様にはきちんと謝罪をしたのでしょうか。彼は知っていたうえで、それでもルビー様をきちんと妹として愛していたように思いましたから報われていると嬉しいのですが」
「そ、それはどうでしょう……ただ、私たちお茶会の参加メンバーで、アンドリュー様に対してはきちんとした謝罪をさせてもらいました」
「お茶会メンバーでですか」
「はい。いくらルビー様の望んでいた事だったとはいえ、ああしてきちんと頑張っている人を笑っていた私たちは醜い存在でした、彼女たちもとても反省している様子です」
「いいことですね。そうなって私もうれしいです」
「そうそう、それから! レーナ様は文章の才能、絶対あります!!」
落ち込んだように言っていたリリーは、急に表情を明るくしてぐっと拳を握ってキラキラとした目でレーナを見つめる。
それに何のことだかわからずに首をかしげると、あの日渡した手紙をいそいそと彼女は取り出し、にっこりと笑って見せつける。
「み、自らの婚約者や腹違いの妹に静かに挑む姿、従者たちの思い、そして何と言っても爽快な結末! 現実に起こっている事とは思えない軽快な断罪劇に読む手が止まりませんでした」
嬉しそうに感想を告げる彼女に、自分の書いたものを見られるのは少し恥ずかしい気持ちになったが、そう言ってくれると嬉しい。
それに、その手紙には重要な役目がある。
それをわかってくれただろうかと彼女の言葉の続きを聞く。
「最後には誰でもゼロから成し遂げることができるし、知識の大切さとそれが多くの人に当たり前に届くことの重要性が描かれていましたよね」
「はい」
「そして、それとともに図書館の事が記載されているので、驚きました! そういった意図で手紙にして渡されたんだと気が付いたとき、心臓がバクバクしてしまいましたよ」
「ああ、良かったです。今、社交界をにぎわせている新鮮な話題ですから知りたいと思う人の気持ちを利用して宣伝出来たらと思ったのです。ヨエル様は、いつも私に協力してくださいますから」
「お、恩返しということですね」
「はい。きっとヨエル様ならもっとうまくやったと思いますが、これが私の限界です」
それに恩返しという意味もあるが、本で読んだ限り、一人だけの思想で行われる今のライティオ公爵領図書館のようなものは、長く続かない事が多い。
多くの人を話題性を作って巻き込んで、持続的に支援の必要性を感じてもらう。そうして初めて、それは文化となって定着する……らしい。
その本の知識にのっとって、レーナも図書館の運営に協力したい。そういう思いから立てた作戦だった。
それにここまですれば、いろいろな評価はあるだろうが、少なくともレーナはもう足りないだけの令嬢だとは思われていないだろう。
好意的でもそうではなくても、クレメナ伯爵家の正当な跡取りとして認識されたはずだ。
手紙に書いた物語は大分脚色を入れたし、現実のレーナ以上の評価をもらえたら嬉しい。
そうすれば、レーナは尊敬する彼に手を伸ばしてもいいのだと思う事が出来る。
結局たくさん時間がかかってしまったけれど、これなら屋敷に戻って、ヨエルの言葉に答えることができる。
「……少しでも周りの評価が、普通に近づいていたらいいのですが……魔法はどうやらまったく使えないようですしね」
「あ! そ、そうでした。その件についてもお話があるんでした」
つぶやくように言って結局、まだ補うことは難しそうなレーナの足りない部分について言及すると、リリーはあっと思い出して、侍女を振り返って小さなトランクを取り出した。
「アンドリュー様に必要な補聴器の魔法道具について、レーナ様の魔法も利用して調整をしようとしていましたよね。その時に暴走とまではいきませんが、扱いづらそうにしていたので、両親に相談して風の属性魔法になじみやすい杖を見つけてもらいました」
「……杖、ですか」
「はい。小さな子供が使うものというイメージがあるかもしれません。で、でもやっぱり扱いやすさはけた違いですから」
そう言って、彼女はトランクを開けて箱をレーナに手渡す。
たしかに、小さな子供は杖を使って、魔法を練習する。
子ども向けの物をレーナのような歳の子が持っていることは、恥ずかしいと思う人もいるかもしれない。
しかし、そう思っていては始まらない。
「気を使ってくださってありがとうございます」
「いえいえ、倉庫にたくさんねむっている物ですから」
「……とても触り心地がいいです」
「そうでしょう。き、きっとすぐに上達されますよ、レーナ様」
アンドリューのように今まで重ねてきた努力があるのならば、たった一つの工夫や知恵で一足飛びに力を示せるものもある。
しかし、出来ることばかりではなく、出来ないことだって山ほどあるだろう。
今まで何もしてこなかったレーナには、きっとこれからもそういうことがたくさんある。
けれども人より足りない部分は、補えるように一からでも始めればいい。
そんな姿は滑稽だと決めつけて侮って笑う人間もいるだろう。うまくいかない様子を見て、笑いものにしてやろうという人間もいる。
けれども、手伝ってくれようとする人がいて、出来なくてもアンドリューのように努力を続ける人もいる。
振り返ればレーナに期待してくれている従者たちがいる。
だから恥ずかしくても手に取って、前を向くことをやめたくない。
「ありがとう。リリー様、早くヨエル様に見せたいです」
彼はきっと笑ったりしない、真剣に向き合っていることを理解してくれる。そういう所が好きなのだ。
だからこれからもたくさんのことを知って出来るようになって、進んでいきたいと思えるのだ。
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