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23 お礼
しおりを挟む彼に、素晴らしい仕返しについて記載した手紙を送ったが、返信はまったくなくなっていた。
何かあったのかと心配でもあるし、レーナの事を忘れ去ってしまったのかもしれない。
そう考えて、レーナは今回の舞踏会を最後にクレメナ伯爵家のマナーハウスに帰ることにした。
早く帰って彼の気持ちを確認したい。
そんな焦る気持ちの中で迎えた舞踏会、レーナはダンスが得意ではないので話をしたいと望んでくれている令嬢たちとソファーに腰かけて談笑していた。
そこにはもちろんリリーの姿もあり、最後ということもあってレーナもいつもより口数が多かった。
「そういえば、末の王女殿下であるサラ様、ついに魔法学園を首席で卒業されて魔法使いの資格を得たそうよ。素晴らしいですわよねぇ」
一人の令嬢が王族が座っている壇上の席を見上げて、尊敬のまなざしを向けた。
「ほ、本当に、いったいどれだけの努力をされたんでしょうか?」
リリーがその発言にすぐに反応して、同じように目線を向ける。
リリーは魔法の事になると反応速度がいつも早い。
「努力をするのも素晴らしいと思うけれど、いったいどこのどんな王子と婚姻をされるのかしら、あんなに完璧な美しさと有能さを持った姫殿下なんて他にいないでしょう? 気になるわね」
「……たしかに、とても美しい方ですね」
レーナも金髪に碧眼のとても神々しい容姿をしているサラ王女に目線を奪われて、身分の高い人はなんだか自分とまったく違う生き物な気がすると遠い気持ちになった。
魔法学園を首席で卒業して、素晴らしい魔法と一つの汚点もない頭脳明晰で美しく完璧な王女。それは短い間しか王都にいないレーナも知っている何度も話題に上がった皆のあこがれの的だった。
「そうそう、それはそれとして、クレメナ伯爵令嬢? あなたはどうなんですのよ」
ふと話題が変わって、レーナの方に隣にいた令嬢が振り向いてにんまりとした笑みを向けてきた。
これは今度は自分が色恋の話題の種にされるのかとひやりとしたところで柔らかな声がかかる。
「ごきげんよう。お嬢様方……少々よろしいでしょうか」
視線を向けるとそこには舞踏会なのに、ダンスのパートナーを伴っていないアンドリューの姿がある。
「ええ、構わないけれど」
隣にいる令嬢が首をかしげて答えると、アンドリューはレーナに目線をうつす。
「クレメナ伯爵令嬢に、個人的なお話があるのです。よろしいでしょうか」
「……はい、すぐに行きます」
「ありがとうございます」
彼は妹のルビーと違ってとても丁寧な話し方をする。周りにいる令嬢たちも彼には好意的な目線を向けている。
もともとルビーやその周りの令嬢が貶めていただけで、社交界での彼の評価はそれほど低くない、聞こえが悪かろうとも家の仕事をきちんとしているし、跡継ぎとして注目されていたのはどちらかと言えば彼の方だ。
そんな彼だが、いまだ婚約者はいないらしい。
そのせいか、送り出してくれる周りの令嬢たちの視線はなんだか気恥ずかしくなるようなもので、戻ったら色々なことを言われそうだとレーナは考えて彼のそばに付いて歩いていった。
しばらく歩いて、ホールの端まで移動すると、彼はレーナと向き合った。
「時間をくれてありがとうレーナ。今日は改めてあの日のお礼をさせてもらおうと思ったんだ」
そういうと彼は手にしていた小さな手提げ袋を渡す。
「ご丁寧にありがとうございます。その後は調子はどうでしょうか。私の知識は付け焼刃のものが多く、何か不都合がある可能性も否めません」
受け取りつつもレーナは気になっていたことを問いかけた。
もちろん時間があれば彼と一度きちんと会って話をしたいとも思っていたが、手紙の返信が無くなってレーナはすぐに屋敷に帰りたくなってしまった。
だからこそ、手紙でやり取りを済ませていた。
しかし、今ここで直接話ができるのはよかったと思う。同じ問題を抱えているわけではないが、レーナはアンドリューにそれなりの親近感を覚えていた。
「それほど心配しないで。そういう方法があるんだっていう事を教えてもらっただけでも僕はとてもありがたかった。僕の代わりに、ルビーに対しても言葉を尽くしてくれて、自分の情けなさが身に染みたよ」
肩を落としてそういう彼に、レーナもそう自己嫌悪にも似た気持ちを覚えるときがある。
深く頷いて、いつも自分を納得させている言葉を言った。
「いいえ、人には得意なことと不得意なことがありますから。……それにしてもああして彼女が我を忘れるまで追い詰めたことを私は後悔していませんが、取り返しがつかない事をアンドリュー様に確認せずにやってしまったことは申し訳なく思っています」
「いやいや、確認されていてもやってほしいと言っていたと思う。ルビーにひどい目に遭わされたのは僕だけではないし……」
彼は難しい表情をして続ける。
「僕は彼女を兄として愛していた、けれども彼女はそれを望んではいなかっただろう。僕のような出来の悪い人間が周りにいたからこそ、少しいびつに育ってしまったのかもしれない」
「……」
その言葉にレーナも姉として、マイリスがああなった責任があるという気持ちがもたげてくる。
自分が、こうでなければ……もしくは自分ですらなければ、彼女たちは普通の令嬢のように生きていたのかもしれない。
「でも、うん。後悔はしないよ。あの時言ってくれた言葉……誰だって人に助けられて生きているし、完璧な人間はいないよね。それに自分にも、やれる努力があってそれを認めてもらうことができた。それがとても嬉しい」
アンドリューはそうして切り替えて、小さく笑みを浮かべる。その表情はとても穏やかで優しいものだ。
ルビーの様な妹がいなくなったので、きっとよい婚約者にも恵まれるだろう。
「これからも、助けてくれる人たちに誇れるような生き方をしたいと思う」
「はい……私もです」
レーナは深く頷いてしみじみとした気分で返したのだった。
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