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しおりを挟む去っていくアンドリューを見つめているレーナに、ヨエルは横からのぞき込むようにして責める様な目線をおくっていた。
「惜しいみたいに見て、レーナはああいう、優しそうなのが好きなのか」
彼のジトッとした声に、レーナはふと見上げてどうして怒っているのかと疑問に思う。
せっかく、久しぶりに会えたというのに、笑顔でお互いに再会を喜べないのは切ない。
少し考えるためにレーナは数歩彼から離れて、向き合って見た。
「それなら、邪魔した俺は悪役扱いか?」
腕を組んでこちらを見るヨエルは不機嫌極まりないというような表情だ。
周りにいる貴族たちも彼に視線を向けてとても興味津々な様子だけれど、誰も怒っている彼とレーナの会話を妨害して怒りを買いたいとは思わないらしく近寄ってこない。
「心配して来てみたが、君は男と何やら良い雰囲気になっていたようだし、当初の目的は果たせる範疇の問題だったってことだろ。こんなことなら、兄上の口車になんかのらなきゃよかったな」
自嘲気味に笑って、そういう彼にレーナはやっとヨエルがなぜ怒っているのかその言葉で理解が出来る。
レーナの送った手紙の内容で心配して来てみたら、男性と仲睦まじく話をしていたと、それでは自分の思いが意味のないものだったのではないかと怒っているのだ。
「……心配してくださったんですか、それでここに?」
レーナはまったくの偶然の再会だと思っていたので、そもそも心配して彼が来てくれたことが、とても意外……というか驚いて思わず問いかけた。
するとヨエルはバツの悪そうな顔をして「それ以外にないだろ」と短く言って続けようとした。しかしそうかと思うとじわっと心の中が熱くなってレーナはぐっと拳を握ってヨエルに問いかけた。
「わ、私の為に? とても忙しいはずですのに」
「……ああ、君の為だ。でも━━━━」
コクリと頷く彼に、レーナはついつい彼の言葉をさえぎっていった。
「これなら、ヨエル様にも見てもらえます。私が王都で少しは認められたこと。知ってもらって初めて、お互いに納得がいくと思うのです。ヨエル様と、との、婚約のお話……」
「…………なんて?」
「ですから、私はヨエル様と婚約するには自分もきちんとクレメナ伯爵家の跡取りとして認められている必要がある。そうでなければ、私たち対等ではありません、ですよね?」
改めてこうなった経緯を説明する。
周りにいる貴族たちに聞かれている気がして少し恥ずかしかったが、ちゃんと確認してちゃんと知ることは大切だ。
「だから、ヨエル様のような素晴らしい人の結婚相手になるために、たくさんの人と関わって、それなりに認めてもらえたと思うのです」
「……」
「たしかに心配をかける様な連絡をしました。申し訳ありませんでした。しかし、それもきちんとヨエル様の教え通りに完膚なきまで、思い知らせることができたと思います。その時にアンドリュー様にもご協力頂いたのです」
ここまで彼が来る間の追加の手紙の内容を知らず、心配して来てみれば男性と仲良くしていたら誰だって起こるだろう。
結婚を約束している相手がいるのに良い人を作るのは浮気だ、よくない。
だからこそ、こうしてきちんと説明をして彼が移動していた間に起こったことを補足して伝える。
「ですから当初の目的は違えていません。私、きちんとできたと思うのです。あなたの婚約者になってもおかしくないとまでは言えませんが、そういうこともあるかと思ってもらえる程度には、”普通に”なれたと思います」
しかしレーナが言えば言うほど彼はおどろいたような表情になっていき、最終的には自分の額を手で押さえて、固まった。
よく考えてみると、ヨエルはこうしてレーナが想像していたのとは違う反応を返すことが多く、レーナもまだまだ人について理解できていない部分があるのだと思う。
思いはするけれども、明確に何が間違っていたのかレーナにはまだわからない。
「……ですからそのことを示したいのですが……ヨエル様、私は何か間違いを犯してしまいましたか」
だからこそ彼に聞くしかない。彼の表情を見たくて彼を見上げて問いかけるが、指の隙間から見える彼の鋭い視線と目が合っただけで感情はうまく読み取れない。
「いや。いーや……君は悪くない。なんだ、はぁ、そりゃそうか……」
一人で勝手に納得したような声をあげるヨエルに、レーナは彼の考えを邪魔しないように静かにしていた。
それからほんの数秒後、ヨエルは少し赤らんだ頬を隠すように顔に手を添えたまま、レーナの手を取る。
「俺は一人でから回ってばかりだな。……レーナ」
「?」
「悪い、ただの勘違いだ。忘れていい、むしろ忘れて欲しい」
「そうでしょうか、私にも直さなければならない部分があるのでは……」
「直すべき場所があるとしたら俺の方だ。もう少し、君の善性を……俺は多めに見積もるべきだった。悪かった勝手に怒って、勝手に文句を言って、君はいつだって俺を裏切った事なんかないのにな」
そう言ってヨエルはなんだか悲しそうな顔をしてレーナを引き寄せてぎゅっと抱きしめた。
ヨエルの体に包まれてレーナは、こんな場所で、こういうことは基本的にしない方がいいと頭の中では理解している。
けれども彼の中にもそういう常識はあるだろう、それなのに、こうするというのはどうしても今そうしたいからか、もしくは別の意味があるのだろう。
「……ごめん。正直不安で心配で、君が男と楽し気に会話をしていたからというよりも、ここに来た時点ですでに機嫌が悪かったような気がする」
「……」
「一度は了承をしたし、納得もしたふうだったのに、結局こんなふうになって君を困らせたのは俺が不甲斐ないからだ」
あたりのざわめきは大きくなる。
しかし、一方でヨエルは今度は卑屈になったように、言葉をつぶやく。
……ヨエル様は、寂しがりな上に、心配性でもあるのですね。
その様子にレーナはそんな理由をつけて納得する。レーナは特に怒ってなどいない、ただ会えてうれしいのだ。
彼に抱きしめられながらレーナはヨエルの手を取って、ぎゅっと握る。
「どんなヨエル様でも問題なんかありません。私にとっては唯一の人ですから」
そっとそんなふうに彼だけに聞こえる声で言った。
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