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35 完璧
しおりを挟むサラについていって応接室に入り丁寧なもてなしを受ける。
王城の応接室はどこの屋敷のものよりも立派で、それを自由に使える彼女は、間違いなくこの国で一番位の高い家系の末娘だ。
器量がよく、誰から見ても完璧だなんて言われるほどに非の打ちどころがない少女、それがサラだ。
昔はもっととっつきやすそうな人柄をしていたが、今の彼女にはとっつきやすさどころか、高貴な美しさ以外はまるですべて削ぎ落したかのように何もない。
「……」
昔はそれなりに関係もよかったのだが、今のヨエルにとってはただの少し丁重に扱うべき障害に過ぎない。
彼女としても、どこぞの王族に嫁に行ってその国の国母になる事こそが一番の幸せだとわかっているだろう。
それがわからないほど、頭が悪いという事もないはずだし、変わり者ではないはずだ。
王族らしく生活してきた今までをこれからも続けていくには、それしかない。
だからこそヨエルとの結婚なんて持ってほのほかだ。こんなにも価値の高い姫をもらい受けるつもりもないし、ヨエルにはレーナがいればそれでいい。
だからこそ彼女の考えていることはわからなくて、何が納得いかなかったのかと口に手を当てて考えつつ、彼女が語りだすのを待つ。
まったく動揺もしておらず当然のようにしばらく沈黙した後、サラはチラリとヨエルの方を見た。
「……わたくしは、何をとっても完璧ではありませんか」
とても静かな声だった。特に感情を乱しているという様子は見受けられない。
凛としていて、なんだかそばにいるだけで責められている気がするほどの美人だ。
「間違ってないな」
その様子を好む人間もいるのだろうが、ヨエルはそうではないし、あまりにも完璧なものは面白味もない。
「では、どうして辞退されるのでしょうか」
「……知っての通りだ、大切な子がいる。舞踏会には君もいたはずだ」
「……彼女よりわたくしが劣ると?」
するどい紺碧の瞳で問いかけられて、ヨエルは考える。
……自分よりも優先するものがあると俺に言われた気がして、プライドが傷ついたのか?
だとすれば納得がいかないという言葉も理解できる。これほど優秀なのだ、途方もない努力をして周りからその評価を得ているに違いない。
だからこそ少しでもそれを脅かす事情があれば食って掛かるのも当然だろう。
それに国王陛下に言われて、その気になっていたのかもしれない。
幼いころにもそういう話も出ていたし、今度こそは本当だと勘違いしたというのならば勘違いさせたヨエルにも落ち度がある。
「そういう事じゃない。そもそも俺は、君とレーナを比べていない。グラントリー国王陛下や、ライティオ公爵から俺の意向で君を娶ることになったと聞いたのかもしれないがあれはただの行き違いだ。気にしないでくれ、サラ」
「同じです。変わりません、ヨエルには選択肢があった。違いますか」
「選択肢?」
「はい、そうです。わたくしを選ぶか、そうではないか。そして後者を選んだ。いま一度聞きます、ヨエル」
彼女はヨエルが気軽に説得をしようとしていることに少し怒っている様子で、難しい表情をして、声音はとても厳しいものになる。
「わたくしが彼女より劣っているから、彼女を選ぶのですか。……わたくしはずっと……幼い日にあなたに与えられると聞いてからあなたを想い慕って、ふさわしい完璧な女になれるように努力をしていたというのに」
それから、彼女の頬は少し赤みがさして、傷ついたとばかりに小さくため息をついた。
……完璧……か。
しかしヨエルの気持ちは冷めていて、そう言われても今更告げられてもいない恋心を裏切ったことを責められるいわれはない。
「学力も、魔力も、魔法も、社交力も、地位も、何もかも、わたくしは、クレメナ伯爵令嬢よりも優れています、いいえ、ほかのどの令嬢よりもずっと優れていて、完璧な成績を収めています」
「……」
「プロポーションにも自信があります、あなたの隣に並んでも見劣りしません。やっと、あなたがわたくしたちの罪を許してくれて、わたくしはやっと本来の仕事につけると思った矢先、すでにあなたの隣にはっ……とても、良いとは言えない、子が……いました」
サラは苦しげに言って、それでも淑やかさを失わないように背筋を伸ばして丁寧に訴えかけるようにヨエルにいう。
「もう一度聞きます、わたくしはどこが彼女よりも劣っていて選ばれなかったのでしょうか。それが納得できるまでわたくしは、この場からあなたを返すことはしたくありません」
きっぱりと言い切ったサラの決意は固そうで、ヨエルはまた少し考えながらとりあえず紅茶を飲んで、今まで接してきたサラとの思い出を掘り起こす。
真面目な気質で、固い所があることは理解していたが、ここまでの事を言うとは相当だろう。
きちんと付き合ってやりたい気持ちもあるがなにより優先したい事項はもう決まっている。
それが決まっているからここに来たのだ。それを示すだけでいいだろうとヨエルは口を開いた。
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