“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸

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「……そもそも話が違うと思うんだ。俺は」

 真剣にヨエルの話を聞くサラにうまく伝えられるかと考えながらも問いかける。

「サラの方がずっと完璧で、レーナよりも優れていると言ったな」
「はい。多くの部分ではそのはずです。そうだと周りの人間も言うでしょう」
「俺もそうだと思う。サラは完璧だし、俺はそれも尊敬している、レーナ自身もそう言うだろ。君はすごい」

 とりあえず前提条件として何もヨエルが、現実を捻じ曲げてサラよりもレーナの方が優れていると思って、彼女を選んだわけではないと示す。

 サラは誰からも尊敬されるぐらいに素晴らしい人物なのだろう。素晴らしい技術や立場を持っている人間は、多くの場合、その背後に人間的にはこんなによくない人だという噂がついて回ることが多い。

 しかしサラに限ってはそんな話を聞いたこともないし、少なくとも言われるようなこともしていないのだろうと思う。

 それはとても稀有なことで簡単なことではない。

 その努力や、誰もが称賛している事実を否定するつもりはない。

 しかしヨエルの言葉にサラは怪訝そうに表情をゆがめて「では、なぜですか?」と短く問いかけた。

「完璧なサラを俺が嫁にと望まないかって?」

 質問の意図を正しく読み取るために言葉をつなげる。

 すると彼女は返事をして短く頷いた。

 完璧なサラと、足りないと言われ続けてきたレーナその二人はまるで対比になっているように間反対で、まったく別の性質を持っている。

 その二つだけを見れば足りないよりも完璧な方が良いに決まっていると思うだろう。
 
 もちろんそれが重要な時だってあるかもしれない。

 けれども少なくとも、今、ヨエルは、足りないことも、完璧なことも……それに純粋なことも、賢いことも、さほど重要だとは思わない。

「完璧かどうかは重要じゃないからだ。レーナにどんな欠点があって足りない部分があったとしても、人を好きになるのってそういう部分じゃないだろ」
「わ、わかりません」
「完璧でも、足りなくても、別にいい。きらいな部分がないから好きになるわけじゃない。たった一つでも、彼女にしかない唯一の部分に惹かれて、共に過ごした時間があったからレーナを選んだ。君もいつかそういう相手が見つかるといいな。サラ」
「っ、それでもその良い部分よりもデメリットの方が多いかもしれませんよ、なんせ、彼女は……」
「良いんだ。どんなにデメリットあったって、乗り越えていくべき障害があるってだけだろ、だからこそ完璧かどうかなんて興味もない」

 口にすると少しこそばゆいような気がしたけれど、そういう事だ。

 悪い所がない人間よりも、どんな人間だとしても魅力的なものが一つあればその人の事を好きになる。

 それはサラにとっては薄情なことかもしれない。

 けれどもその方がいい、好かれるために欠点をつぶすよりも、元からある魅力的な部分を磨いた方がきっといい。

「悪いなサラ。だから俺は君を好きになることはない。あきらめて新しい道を探してくれ、君も誰かに選ばれるような良い所をたくさん持ってるだろ。俺にはそれを魅力的に思う感性がなかったってだけだ」

 話を纏めてヨエルは立ち上がる。

 随分と長居してしまったが、今日はレーナと約束があるのだ。

 彼女に構っている暇はない。

「っ……っ……なんだ、わたくしには端からあなたを振り向かせるっ、素養は無かったという事ですか……っ……それだけなんですか」

 つぶやくような彼女の声が聞こえる。

 ヨエルは、思わせぶりな態度にならないように応接室をデールを連れて出る。

 涙を見ても慰めてやる気はない。それでまた勘違いしては不憫だろう。

「さて、さっさと屋敷に戻ろう。手配してくれ」
「はいっ、ヨエル様」

 元気な返事をする彼に笑みを向けて、戻ったらレーナにある程度の事情説明はしなければなと考えたのだった。



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