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その10
しおりを挟む夕食はローズとクライヴ、それから客人であるナディアの三人で囲んだ。王都での話、騎士団内での事件、友人であるトリスタンの話。そんなとりとめのない話を主にナディアから聞きつつ、それなりに朗らかに時間が進んでいく。
彼女もこうして客人としてやってきてはいるが、最終的な目的はローズたちとの交流ではなく、里帰りが目的だ。ある程度楽しみながら食事をすれば良いだけでやらなければならない商談もないし、貴族らしい付き合いというよりも友人のような関係が正しいように思えた。
それに、ローズもクライヴも割合無口であり物静かな夫婦である。だからよく話をしてくれるナディアとならあまり気張らなくとも接することが出来る。
ナディアはそんな二人が結婚すると聞いたときに学生時代に二人がライバルであったことも含めて、それほど仲がいいとは思っていなかったので夫婦げんかで屋敷が吹っ飛んだりするんだろうなと、最初は思っていた。
負けん気が強い騎士同士だ、上手くいくとも思っていなかったが、なかなかどうして二人とも穏やかであり、女心などまったくわからないはずである部下のクライヴはローズを気遣うような対応をキチンとしているのだった。
それは少しばかり不思議ではあったが彼らの間にはナディアには分からない絆が存在しているのだと、あまり旦那とうまくいっていない身としてはうらやましくも思うのだった。
「ところで、ナディア先輩はまた昇進の話が出ているって本当?」
「……ああ、一応はな。ただ、その分家庭で過ごす時間が減ってしまうのが悩みの種だな」
ローズは前回、帰ってきたときにクライヴから聞いた話を口に出して、お祝いに何か送ったりしてもいいかと考えながらそんな話を出したのだが、とうのナディアは何やらあまり楽しげな様子ではなく、自分にできることは無いと分かっていながらも心配になって口を開いた。
「それは……確かに困りごとだね」
自分だったら昇進話なんて飛びついて、喜んでいたと思うし、クライヴが昇進したら喜ぶが、世の中そういう人間だけではないのだろうと思う。
「それに、ナディア先輩の配偶者殿は、ナディア先輩をそうとう好きですから、家に帰らないとわんさか手紙が届いて大変らしい」
「そうなんだよ。っていうかその話、あんたたち新人に知られるほど知れ渡ってるの?」
「はい、騎士団寮のポストがあんなつまってるのナディア先輩ぐらいだから。俺たちの間でも熱い夫婦だって話題になることがあります」
先程指摘された呼び方も直さずにクライヴはナディアにそう言う。それを見てローズは彼が少しだけ楽しそうで、テンションが高いななんて思いつつ、そんなクライヴに冗談で言ってみた。
「私、君にいっさい手紙とか送らないけど、欲しかったりするの?」
そうすると隣にいるクライヴは少し驚いたような反応をしてそれから、にこりともしないで「いらない」と短く答えた。そういうとは思っていたけれどもう少し優しく答えてもいいのではないかと考えた時にクライヴは付け加えた。
「会いたくなったら帰って来るから。君もそうしてくれればいい、俺も送らないしな」
「……うん、知ってる」
彼の答えに納得して、その答えが彼らしくて、そして、自分が求めていた回答よりも、よく感じてしまってローズは顔をぎゅっとしかめて、食事を口に運んだ。
正面を向くとナディアと目が合い、彼女ははぁっとため息をついてそれから、眉を困らせたまま笑顔を作って言った。
「あんたたちは、仲がいいんだか悪いんだか分からんな」
「そうかな?」
聞き返したが、たしかにローズにもわからなかった。
「ああ。……似たもの夫婦というか意思疎通が取れてるんだな。私たちとは違って」
そういってからナディアはまた、はぁ、とけだるそうなため息をついた。しかしながら似たもの夫婦というのは、その通りなのだが、意思疎通が取れているかという点では、今のところ否という答えしか出てこない。
ここ一カ月ほど、ナディアが来るまでの間ローズの心には不倫の件が渦巻いているのに、口に出せずにいた。そしてそのことを知ってるはずなのにクライヴもローズに何も言わないまま普通に生活を続けてしまっている。
この状態では、息が詰まるほど気になるというわけでもないけど違和感があってもやもやするのでどうにか早く解決したいのだった。
そう思って今日の夜にでもナディアと二人だけで話をさせてもらおうと考えて、ローズは答えずにぎこちなく笑ってその髪をなびかせて小首をかしげた。
そのしぐさにナディアもローズたちにも何か問題があるのだと察しがついたが、ばたんと少し大きな音を立ててダイニングの扉がが開かれる。開け放ったのは使用人であり、その男性使用人は、ローズの元へと速足で移動していき食事をしているローズに小さな声で耳打ちする。
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