11 / 17
その11
しおりを挟むローズのすぐそばにいたクライヴが聞こえてきた内容に表情を険しくさせるも、ローズはすぐに立ち上がり、今までの騎士然としていない一見、優し気に見える非戦闘員らしい顔つきから、一気に彼女らしい厳しい瞳にかわった。
彼女はナプキンをイスのうえに置き、忙しなく動き始めた周りの使用人を一瞥してからナディアとクライヴに声をかけた。
「……魔物が発見されたので、少し出てくる。二人は、そのまま夕食を続けていて」
それがこの屋敷の通例ならばとナディアはなにも言わなかったが、すぐ隣にいたクライヴはぱっとローズの腕を掴み、自らも立ち上がった。
「今日ぐらいは俺が行こう。先輩も来ているし、それに君は俺がいる時ぐらいは、俺に任せてくれても━━━━
珍しくすこしとりみだしているようなクライヴの姿に、ナディアは彼もこんな風に女性を大切にしたりすることがあったのかと思う。なんせ強さにしか執着のない男だというのは同じ学年の者たちの周知の事実だったのだ。
その彼もまた、好きな女性に出会って大人になったのだなと思ったのだが、ローズはそのクライヴの言葉を聞いて、鋭い視線をさらにするどくして目をぎらつかせて、怒りをあらわにした。
「これは私の役目。君は黙っててほしい。それとも私の性分を忘れたのか」
現役の騎士をも威圧で引かせるようなその気迫に、まったく衰えていないどころか、大人になったことによる経験からくる、自信のようなものが感じられて、ナディアはごくっと息をのんだ。
昔の彼女はただ魔術の天才というだけで、特出して凄みのある方ではなかったが、今は成熟した大人になった女性特有のどっしりとした凄みが感じられる。それを同じようにクライヴも感じたようで、ナディアは彼を少し可哀想に思った。
「っ、……」
「ようがないならもう行く。ナディア先輩どうぞごゆっくり」
「……ああ」
手を振り払われて、カツカツとヒールの音を鳴らしながら颯爽と去っていく痺れるほどにきまっていた。しかしその背中を情けなく見つめる男の姿はまるで今の彼女たちの夫婦像そのもののようで、だれもかれも色々とあるものだと考えを改めた。
この騎士夫婦は難しい問題なんて無そうでいいななんて思っていた数分前の自分を訂正しつつ、女にあしらわれた部下を慰めてやろうとナディアは上司らしく偉そうに言った。
「クライヴ、あんたも大変だな」
「……」
「しかし、仕方ない気もするな。あの茨騎士を嫁に貰ったんだ。ただで守らせてくれるわけもない」
それから、学生時代のローズのあだ名を口にした。学園時代、そりゃあもう彼女は鮮烈だった。高い公爵の位を継ぐうら若い乙女でありながら、自分をけなすもの、近づくものまでその棘で痛めつけ、売られた喧嘩は勝ってぼこぼこにするそれがたとえ、上級生だろうが魔物だろうが。
そういう生徒だった。彼女は、是非王族の直属の近衛騎士団にという話もあったほどに優秀な騎士であるのに、その周りの彼女の家族がその価値を理解していなかった。
だから、簡単に家庭に入れるという選択肢を選ばれてしまった。しかしそんな彼女を卒業までの猶予を与えて抱え込んだクライヴは、誰もが男の中の男だと思ったものだがそんな彼ですら、ローズの前では二の足を踏んでいる。
ナディアの言葉にクライヴは、顔をしかめて、体を放り出すにしてイスに座り、先程までの楽しそうな雰囲気をがらりと変えて、あからさまに項垂れるのだった。
「そんなの、分かってはいるんだ。ナディア先輩。でも普通の女性のように無力であってほしいとは思わないが、せめて、何か一つでも頼って欲しいと思うのは俺のわがままか?」
「敬語敬語!まったく規律が大事だよ。クライヴ」
「……今はそんな気分じゃない」
「あんたね。私の事見下してるでしょう!? ローズより弱いからって」
「た、多少は」
無駄に素直な、部下に笑ってしまいそうなるが、事実である。それだけ彼女は、強かった。そして今も夜の森でも得意の炎の魔法で魔物を焼き払い大剣で切り捨てていることだろうと思う。
「まぁ、私からそれとなく言っておいてやるよ。泊めてもらってる恩もあるしな」
「……俺の話は聞かないし、俺に興味ないのにナディア先輩には懐いてるのはなんでなんだ」
若干イラつきながらいうクライヴに無礼な、と思いながらも、彼女は割と同性に弱いのだという弱点をクライヴに伝えないまま、カラカラ笑った。
それに、クライヴ自身がローズに弱いのにも原因がある。学年が違ったナディアのような人間はあまりローズに関わらずに済んだが同学年はどうあがいてもかなわない才能が目の前にいたのだ。
そんな学生時代の思い出があったら、強く出れないのも頷ける。
……確か、結局、クライヴは公式な試合でローズに一度も勝てたことは無かったよな。
ライバルだと本人は言い張るが、正直周りから見るとローズの独壇場だった。それに加えて、彼女は騎士になってすぐに家庭に入ってしまったのだからもうそのローズを超えることはクライヴにはできない。
そしてある種憧れでもあった強者は、自分を支える人間になった。そんな関係性は普通は体験しないだろう。それだけ不思議な関係性のただなかにある二人を応援してやりたい気持ちが、トリスタンほどではないがナディアにもあるのだ。
……少しはクライヴの劣等感もなくなるといいんだが。
どんな風に伝えようかと考えながら、ナディアは残りの食事を食べ終えて、クライヴを慰めつつも自分の部屋へと戻るのだった。
27
あなたにおすすめの小説
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。
Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる