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26 体と魂
しおりを挟む「エリアナ、ありがとうございます。すごくいいですねこれ。さすがお母さまが褒めていただけありますっ」
パーシーたちを返すとフィルが興奮した様子で、軽く剣を振った。
広いホールを用意してもらったとはいえ、あまり振り回すと屋敷の装飾を壊しかねないので自重した方がいいと思うのだが、それでも喜んでくれている彼の気持ちに水を差すようなことはできずエリアナは笑みを浮かべた。
「気に入っていただけたようで何よりです。……それにしてもアリアンナ……そんなに魔法使って大丈夫?」
「何言ってんだせっかく面白いもん見れるってのに、出し惜しみしてどうするんだって」
アリアンナはとても楽しそうにそう言って、フィルに魔法をかける。フィルのお付きの騎士たちは少し不安そうにフィルの事を見ているけれど止めるような気配はない。
フィルはそれから散々面白がっているアリアンナに姿を変えられ、最終的に普段の彼の姿をそのまま女の子の体にしたような姿になり、その姿は圧倒的な美少女だ。
はかなげな白髪がさらりと揺れて、色素の薄い瞳はデルフィーナ譲りでしっとりと潤んでいるように見える。
たまにそうしてデートに出かけたりもしているという話は聞いていたが実際に、フィルの変身したところを見ると、女性でもときめいてしまうほど可憐だ。
「あ、いつもの姿になりました。そういえばこの剣、男の体だった時よりもグリップの部分が細くて握りやすくなってます。年齢だけでなくて性別でも作りが変わってるんでしょうか?」
フィルが、細かな装飾のついた細身の刀身を眺めながらそういう。
殺傷能力は低そうだが、護身用としては十分なサイズだ。
「……そうですね、持ち主の魔力に合わせて形作られているのでドワーフたちが細かに、設定しているわけではないんです。形を変えようと望めば剣の中に入っている魔力が変質していかようにも応えてくれる、それがドワーフの技術の真髄……らしいですよ」
「なんだかすごそうな技術ですね。僕はそれほど魔力操作が得意ではないので……うーん。やっぱりできそうにないですが」
「もちろん、そういうふうに作ることもできはしますが、基本的にはいらない機能ですから」
「それもそうですね、そういえば、何かそういう規制されている技術があったような?」
フィルは頬に人差し指を当てて小さく小首をかしげる。その様子にエリアナは少し考えた。
……アリアンナより女の子っぽい。
「はい、このソラリア王国には輸入に制限がかかっていますね。それにしても、フィル王子殿下」
「……? なんでしょうか」
「随分と女の子の体に慣れていますね」
「ふ、ふふふっ、そうだろ! ……なんせ俺が……こいつが生まれた時から……地道に……少しずつ……」
エリアナが指摘すると待ってましたとばかりに、アリアンナが長い耳を自慢げにピコピコさせながらロットを構えて、喋りだした。
しかししゃべりだしたところまではいいのだが、次第に勢いをなくして、一歩よろけると、そのままぐらりと大きく揺らぐ。
倒れてしまいそうな彼女に、エリアナは手を伸ばすが間に合いそうもない、しかしエリアナよりも一歩、早く動いた彼は違った。
手を取ったけれど子供の女の子の力では支えることができなかったらしく、何とか頭を抱きしめて二人して床にドテンと倒れこんだ。
「ちょっ、大丈夫!?」
「ぅ……フィル、へーきか? 俺はへーき」
「ぼ、僕もびっくりしましたけど、大丈夫です」
「ちょっと、気を付けてよ。アリアンナ、あなたの魔法、魔力消費が激しいんだから。そんなに魔法使って大丈夫かって聞いたじゃん」
ぐったりとしているアリアンナにエリアナは呆れつつもそばによって膝をついた。
フィルに体を預けるようにしてぐったりしている彼女に説教をするような気持ちで言う。
すると彼女はバツが悪そうに「面目ねぇ」と男みたいに謝って、それから心配そうにのぞき込むフィルの事を見上げて、砕けた笑みを見せて心配するなとばかりにその頬に触れた。
「ちょっとこうしててくれ……眩暈がする……」
「……はい」
「それでだ! やっぱり生まれたての子供ってのは純粋でな、エリアナ!」
「え、何の話?」
「だから、フィルがこういう姿で女の子らしい言動をとれる理由! 俺ら転生者と違って、こっちで初めて生きてる人間はなんだかんだ言って純粋なんだよ」
「……そうなの?」
「そりゃな。だから、俺たちにとっちゃ変えようがない習慣とか言動とかそういうのがまだ薄いんだ。だから教えてやればすぐになじむ。
とにかく若くて、覚えがいい。だから体に合った言動もすんなり入ってくる。
ま、だから俺は、なんだかんだいって、どんな姿かたちかよりも、転生者の知識なんってものよりも、一番大事なのは素直な人間性だとおもうぜ」
アリアンナはそう断言しつつ、フィルの顔を見上げている。フィルの方はなんだか頬をあかくして、アリアンナの事を見つめていた。
「要は中身って事だ。外見なんかただのガワに過ぎない。見た目がどんなでもお前もお前で、俺も俺でフィルもフィルだろって話を俺が懇切丁寧にしてやったのも慣れが早かった要因かもな。
とにかくフィルは、所詮外見なんてくだらない幻みたいなもんだって知ってんだよ」
アリアンナはとても自慢げに言った。
それは別に、アリアンナが自慢することではないような気がしたし、それとフィルが女の子らしくなったことについてはあまり関係がない気がした。
けれど関係がなくても、これは彼女がたまに言っている持論で、中身が重要だという言葉は彼女の矜持らしいのだ。
そしてアリアンナが言っている事には一理ある。
だって、エリアナは差別や理不尽が嫌いな事も前世から変えられない頑固な部分だ。
アリアンナの男性らしい挙動も、それはすでに確立した自我があって長年の習慣になっているから変えられない、変えたくないと思う部分だ。
では、転生者としての記憶がないカイルはどうだろうか。魂に刻まれた習慣というのがあったりするのか……それとも、エリアナが運命を感じたように、”彼”との共通点があったりして……。
ふとそんなことが思い浮かぶ。
こういうふうに言うアリアンナは、彼の実質的な中身である魂を追い求めていて、カイルとの可能性を信じ切れずにいるエリアナに対してどう思うだろうか。
彼女に対して今世での事情を説明はしたものの、すべての事については、説明しておらず、それを話すにはエリアナの罪についても触れることになるので深くは話をしていない。
しかし、相談をすればきっと良い答えを言ってくれるのではないか。
そう思ってエリアナは再度、アリアンナの方を見た。
するとアリアンナは丁度、フィルにおもむろに唇を重ねられていて、彼女は驚きからか体をビクつかせていた。
「っ……」
「……その通りです。アリアンナが僕は僕でいいってくれたから、僕は、僕としてアリアンナを愛していますよ。人として、恋しています。男としてとも、女としてとも、明確には言えませんが、愛してます。アリアンナ」
「…………」
「……」
「……な、なぁ、エリアナ?」
「は、はい?」
「だから言っただろ、ほら、俺らと違って若いから、突飛なことも躊躇なくするって、びっくりだよ」
彼女は今すぐにでも起き上がって何か物理的なリアクションを取りたそうにプルプルと震える手を持ち上げようとするが、魔力切れの人間は回復するまでそう簡単には動けない。
そしてアリアンナは脈絡のない事を言って、エリアナに視線で助けを求めてきた。
しかし、さすがに、フィルの可愛い告白を邪魔するほどエリアナは野暮ではない。
「うん……若いから、ね。私もそんなふうに、えいって、やる気を出して一線を越えられていたら何か違ったのかな」
そんなふうに言いながらエリアナは淑やかに立ち上がって、ふと彼らに背を向ける。
「……お、おい、エリアナ……ちょとまて……」
「ごめんね。私ほら、これでも歳だから、若い子のぴちぴちの恋心を邪魔なんてできないよ……」
「おい……おいぃ」
「アリアンナ、僕」
「わぁ、まて、まてまて! 俺が勝手にフィルに魔法かけて慣れさせただけなのに偉そうな事言ったの謝るから!」
「いいえ、謝罪なんかいりません。アリアンナ」
「わかったっ、落ち着け、落ち着いてくれっ」
「落ち着いてます」
アリアンナはなんだかコントのようなテンションでフィルにいろいろ言っている。それを聞きながらエリアナはホールを出て、相談をするにしてももう少しタイミングを計ろうと思ったのだった。
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