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44 初対面
しおりを挟むカイルが今世で四歳のころ、クリフォード公爵夫人のお腹に、転生者の命が宿った。
お腹の中の子は女の子で最高祭司メイナードによると、ほかにはないぐらいカイルと相性が良く、お腹の中にいる間中に婚約することになった。
生まれる前の段階でこんなにガチガチに人生を決められて、さらには将来彼女はきっと立派な王妃になるだろうと、誰もが強く期待し今か今かと誕生を待ち望んだ。
そうして生まれたのがエリアナだった。
しかしその一連の騒動を見ていてカイルが思ったことはただただ、不愉快で、不可解で、ぞっとしていた。
そもそもこちらの生活にまったくなれていなかったというか、前世でも多くを学べず、知識を持たずにこちらの世界にやってきて戸惑う事ばかりだった。
今世での父、クィンシー国王や、母であり王妃であるデルフィーナも二人ともとても良い人ではあったのだが、馴染めている感覚はないし、心臓が痛んで息切れすることもままあった。
大人になった今はそんなことはないので、あの時はきっと気持ち的な面でそういう症状が出ていたのだと思う。
馴染めそうにない不可解で時代遅れのようにも見える世界。
今世のソラリア王国はカイルにとってそういう場所だった。
そして生まれる前から生きる道を決められてしまった婚約者。それはとても前世の自分とかぶって可哀想に思えた。
なんせカイルには、はっきりとした記憶があったのだ。
それもとても幸福で、満たされた生活、死んで取り残してしまったことはとても申し訳ないけれど、今のカイルだってその記憶をメインに生きている。
カイルには、ずっとこんな自分には勿体ないほど優しくそばに寄り添ってくれた婚約者がいたのだ。
今でも間違いなく愛しているし、”彼女”以外はない。誰も”彼女”以上に愛せない。
そう断言できる記憶だった。だからこそ、彼女をこれ以上可哀想にしないためにカイルは口を閉ざした。
もちろん王家の人間には記憶があった方がいい、しかし記憶がないと嘘をついてもカイルには使い勝手がよいギフトが与えられていたので、さほどカイルが王位を継承することに不満の声は上がらなかった。
婚約してから数年後、やっとエリアナと会うことになった。
彼女の五歳の誕生日に、王城に呼んでパーティーが行われる。
そのパーティーの前に顔を合わせるために、大人たちに囲まれてエリアナとカイルは初対面した。
エリアナは小さな淑女礼を少しぎこちなくして舌足らずな声で言った。
「クリフォード公爵家のエリアナと申します。カイル王太子殿下。お目にかかれて光栄です。以後よろしくお願いいたします」
すごくかわいいフリフリのドレスを着た小さな女の子は、ルビーのようなきらめきをはらんだ赤い髪に、意志の強そうな金の瞳、小さな唇はきゅっと引き結ばれていてカイルの事をじっと見つめていた。
それまでカイルは婚約者のエリアナに、自分があまりにそっけない態度を取ってしまったらどうしようかと思っていたぐらいだったのだが、まったくもってなんの違和感もなく、笑みがこぼれた。
自分と婚約させられて、こんなふうに期待されて困り果てて大変だろうから、カイルは受け身で何も言わずに何も背負わせないように、今回のパーティーをやり過ごそうと思っていたのに、気がついたら手を伸ばしていた。
「っ、き、君が婚約者の……」
もちろん握手をしてずっと会ってみたかったと伝えたかっただけだったし、優しく接するのなんか当たり前だと思っている。
だから、出来る限りの優しい顔で、カイルはその手に触れようとした。
「エリアナ、ずっと会いたいと思ってたんだ」
「! ……さ、さわらないで!!」
しかし、その手は無情にも払いのけられて、周りの大人たちの間に一気に緊張が走ったのを感じた。
「……ごめん……ただ握手をしようと思っただけなんだ」
警戒するように両手をぐっと握って、金の瞳を大きく見開きカイルを見ている彼女は、警戒しているというよりもどこか戸惑っているような様子でこらえきれなかったのか、その大きな瞳に涙をためた。
「っ……触らないで、私、ただ本当にわからないの。まだ少し、混乱していて……っこっちこそごめんなさい」
それから苦しそうにそういう彼女に、カイルは納得した。
たしかにこのぐらいの年齢の時にはカイルも前世の記憶や気持ちが唐突に湧いて出て、死への恐怖だったり、前世への寂しさだったりを感じていたことがあった。
だからこそ、そういう理由ならば納得だ。
「わかった、触らない。……けど、何に混乱してるのか教えて欲しい、俺は転生者の事には詳しくないから、君の話がたくさん聞きたいんだ。座ってゆっくり話をしよう?」
「……うん」
立ったままずっと話をするというのも疲れるし、用意されていたテーブルセットに座ると、この日の為に用意されたたくさんのお菓子がずらりと並んでいて、温かい紅茶が出されて二人で一息ついた。
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