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腹黒男め……。5

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 こってりと絞られること二時間、既に日が落ち始めている。お叱りの内容は、規律を重んじる事の大切さ、誠実である事の云々と永遠に語られ耳にタコが出来そうであった。

「最後に言うことはありませんか!!クレア!」
「大変っ申し訳ございまんでしたぁ!!」
 
 私もおっきな声で返す、すると「よろしい!!」とベラは大きな声で許可を出し、彼女の首から下げている、一際大きな魔法玉によく似た水晶玉のようなものに、私たちの魔法玉の宝石部分を合わせるように言われる。

 素直にしたがえばとチカッと光った。ヴィンスの分が終わって、私は自分の魔法玉の宝石部分があまり見えないように手で隠しながら同じように合わせた。

 その後、ベラに続いて中に入ると、もうはじかれる事はなく、すぐに自分の魔法玉を服の中にしまう。

 外からも見えていたが、大きな玄関ホールがあり、玄関扉から、直線上にある扉、そしてそれを避けるようにして階段が上へと二つ伸びていた。
 階段に挟まれている大きな扉は開け放たれていて、リビングのような空間が拡がっており談話室のようなものだと想像出来る。

「それでは、貴方たちのお部屋へ案内しますからついてらっしゃい!」

 ベラは一度、振り返ってそういうが、私は談話室の中の光景に釘付けだった。
 
 あの柔らかい金髪、遠くからでもわかる整った顔立ち。彼は、周りに従者を何人も配置して優雅にこちらを見ながらお茶をしている。

 ……この~っ。

 腹黒男っ、わざとだっ!!

 私が睨みつけると、彼は口元を抑えて笑い。今までのすべてのことの顛末を彼は談話室から鑑賞していたのだと気がつく。

 最低っ!

 ふんっと顔を逸らす。
 入学早々問題を起こすなんてベタな展開がないように、入念に渡された教科書やカリキュラムを読み込んでいたというの。

 こんな仕打ちはあんまりだよ。




 私は普通に進学して中学、高校、大学と実家からすべて通った。一般家庭だったし寮生の学校と言うものには憧れはありつつも縁遠い存在だった。

 割り当てられた部屋はヴィンスと私、隣り合わせの部屋であり、最上階の一番端。長年人が住んでいないような部屋だった。
 何故こんなことになっているかは明白だ。あの腹黒男のせいだろう。

「ヴィンス、ここ屋根裏部屋じゃないよね?」
「……」

 天井が部屋の端に向かって斜めになっており、その位置にはベットが配置されていた。
 一応の掃除は行われているらしく、少し湿気った匂いがするけれど、汚れているという事はない。

「指定されていなければ私の部屋と交換できたのですが……申し訳ありません」
「いや、違うって、嫌じゃないよ?!角部屋なんて素敵じゃん騒いでも怒られないし!!」

 しょんぼりするヴィンスに、私はなんとか取り繕って笑顔を作りながらベットに座る。彼は私の言葉を信じていないようで、やっぱり表情は明るくならないまま、私の衣類をクローゼットに綺麗にしまい始める。

 ……自分で出来るんだけどなぁ。

 学園に入学しても、従者というスタンスから変わることはないらしい。幽閉部屋にいた時にも、私は自分のことは自分でやると主張したのだが、その度に捨てられた子犬のようになるので指摘するのをやめた。

 それに、彼がやった方が私より早いのだから、効率的だと割り切ることにした。家政婦業で幼い頃から訓練されていた人に家事で叶う事は無いんだ。

 その代わり私はヴィンスに何を提供できるだろうかと考える。……私は一応大学まで卒業している大人である。授業を聞いていれば、座学は問題なくこなせるはずなので、そのあたりで躓いていたら教えてあげられるけど……。

 うーんと、考えて仰向きにベットに倒れ込むと、屋根裏的な部分の斜めった天井に違和感を覚えた。
 天井の木に四角く仕切りがされていて真ん中に留め金がついていた。気になって手を伸ばし、カチャンと留め金を外すと、キィと小さな音を立てて星空を見るのにちょうど良い天窓が開く。

「うわぁ」
「クレア様?」
「来てっ、ヴィンス」

 私が手招きすると彼は躊躇なくベットに上がって、私と共に星空を見上げる。

 学園を包む膜のようなものが、日が暮れて暗くなったからか、淡く発光しており、揺蕩う光の向こう側には星の海が広がっていた。
 波のように揺らぐ光の膜は水の流れのように形状を変え続ける。

「凄い、です」
「うん」
「綺麗です」
「うん」

 噛み締めるようにそう言う彼に、あの場所から出られて良かったなぁと思う。

「ヴィンス、寮の食事美味しかったね」
「はい」
「夜でも部屋が明るいねぇ」
「そうですね」
「学校通えて良かった……明日から頑張ろう」
「はい、もちろん」

 彼の方に向き直る、けれどヴィンスはこの夜空を余程気に入ったのかじっと見入っている。無邪気な横顔に、私も思わず笑顔になる。

 夜はそのまま、ゆっくりと片付けや準備をしながら過ごし、消灯時間になると廊下の灯りが消されて、出歩くことが禁止になるので、早々にヴィンスを部屋に戻した。

 天窓を独り占めしながらベットに寝そべって考える。

 この学園には、アウガスとメルキシスタ両国の魔法使いになりたいものが集まっている。
 もちろんその中にはララやコンラット、それ以外の原作登場者がいるだろう。

 そういう子達に、私はどう接するべき?完全な他人?彼女たちは私の事をクラリスだとは気が付かないのだろうか。

 ヴィンスはまったく名前が変わっていない、金だの赤だのの髪色が珍しくない世界なので彼の派手な髪色で発覚という事はないだろうが、それでもさすがに気がつくだろう。
  
 そうすると芋ずる式に私の事もまさかクラリス?となるかも分からないし……うーん。

 そもそもこんな風に罪人が学校に名前を変えて通っているだ。そんな事を自由に出来るということは、背後に王族なり貴族なりの力が働いていると察するだろう。クラリスとバレた時にも堂々としていよう。もしかしたらそもそも中身が他人なのでヴィンスが目立たなければ、バレない可能性もあるのだ。

 うん、それで行こう。クラリスだと、バレないように立ち回る方が余程面倒そうだし。

 しかし問題はクラリスの事を一切知らない人間だ、その場合ただの庶民だとみなされる訳だが、ヴィンスを引き連れ、遅刻をして、その上……。

 自分の魔法玉を引っ張り出して月明かりにかざす。

 まずいよなぁ、これ。

 はぁ~と大きくため息をついた。明日から無事に学園生活を送れるだろうか。ヴィンスにはああ言ったが不安が募るばかりだった。




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