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腹黒男め……。10
しおりを挟む悲しいというか……虚しいというか。
「クレア様!!」
ヴィンスが、私に気がついたようで、私を呼びながら駆けてくる。その、なんとも愛らしい姿に、避けられた傷心はすぐに塞がり、彼がいてよかったー!!私だけのものでいて!と先程と真反対の事を考える。
「クレア様!あの乱暴者に、なにかされませんでしたか?何も出来ず申し訳ありません」
「大丈夫だよ、心配しないで」
「ですが」
「あ、そうだ」
彼の問いかけを聞いて私は、ある事を思い出した。
「ヴィンス、私達、兄弟に見えてるんだって」
「そんな、恐れ多こと有り得ませんが?」
不可解という表情で否定されて、私も同感だ。けれどそういう状態なのだから仕方がない。
「ほら、家名が同じでしょ?ややこしい家庭の妙な兄弟に、見えるみたいなんだよ」
「……左様ですか」
「だからさ、敬称、他人がいる前だけでも控えられる?」
私に言われて、ヴィンスは眉間に皺を寄せた。どうやら、私を呼び捨てにすることに忌避感があるようで、口を開いて読んで見せようとしてくれるが、すぐに口を噤む。それから、一度間をおいて再度口を開く。
「私は、クレア様の下僕です」
……??
何がどうなって、その発言がでてきた。
私たちは避けられていつつも、声が聞こえる範囲に人はいるのだ。
「黙れと言われれば、声など出しませんし、鳴けと言われれば鳴き、笑えと言われれば必ずお応えします」
「……ヴィ、ヴィンス?」
「ですが、だからこそ、立場が曖昧になる様なことは、あってはならないんです。私に敬称を外せと言うのなら、貴方様はもっと私を貶めてください…………人前で出来ないのでしたら……せめて、せめて寮では貴方様の下僕でいさせてください」
力説されて唖然とする。
ヴィンスの心底悲しげな、涙を貯めたその表情に、私の中にあるはずのないサディスティックな感情がドキンと音を鳴らしたような鳴らさないような。
まぁ、そんな冗談はさておき、周りはそんな冗談ととらえられないようなヴィンスの表情にザワザワを色めき立ち話に花を咲かせる。主に女性陣が。
分かるよ、ヴィンスは可愛い。そして少年らしさもあり、薄幸そうな感じも持ち合わせていて……うん。
「うん、寮でね、部屋だけでね」
早々に彼の考えを否定するのを諦めて、ヴィンスの言葉に同意した。寮に戻ったら偉そうにしよう、そしてひたすらヴィンスに雑務を押し付けよう。
なにが彼をそこまでさせるのかまったく持って分からないが、それを引き換えに要求されてしまっては、仕方がない。
「はいっ!嬉しいです……ク、クレアさま!」
「敬称」
「くれあ……さま」
頑固だな、風呂場の汚れなみだ。
「……クレア」
「うん」
しょんぼりとしながら、少し顔を赤くして私を呼ぶ。周りの喧騒がさらに大きくなった気がした。
オスカーに言われた遅刻女、それともう一つ、私に不名誉なあだ名がついたんじゃないだろうかと思う。
「……。……、、……」
そんな中、メガホンを持ったなんだか暗い雰囲気をまとっている先生が前に立つ。私たち生徒は話をするのをやめて、先生の方へと向き直る。けれど、何を話しているのかメガホンを通してもまったく聞こえてこない。
「……、…。……」
生徒全員が、ん?と、首をかしげて、耳を傾けるが、やはりここまで声はと届かない。前の方にいる人達は聞こえているんだろうか。
そのひょろひょろとした黒髪の若い男性の教師の話は何も聞こえないまま、終わったらしく、今度は体格のいい先生がバトンタッチで出てくる。
前にいる教師陣は全部で、五人だ。
女性の教師もいるようでなんだか安心した。
「えー!エリアル先生から、注意があった通りだ!!次に俺、バイロンから個人戦のルールを説明する!!よく聞け!!」
こちらのバイロン先生は教師らしく、声がよく通りちゃんと聞こえる。しかし野外ということ、一学年全員が集まっていることを加味しても、大きすぎるぐらいの声量だ。
今朝のオスカーよりも声が大きいな。そんな風に思いながら説明を聞く。
説明されたルールは、一本勝負、ランダム個人戦闘、魔法武器使用可という簡潔なものだった。
魔法武器というのは、ローレンスが使っていたような、自分の魔力によって生成された武器の総称だ。
もちろんその魔法は特殊で、魔法玉にその性質が無いと、もとより使う事が出来ない。
試合は『ララの魔法書!』の知識も十分に使って対戦を見ていこうと思う。原作は昔に読んだ本なので、忘れていることもある。魔法戦闘についてしっかりと学ばなければ。
「それでは!俺がくじを引く!!呼ばれた二人はこちらへ、それ以外は各々、戦闘見学でも親睦会の情報集めでも有意義に過ごせ!!」
バイロン先生は教師陣の並んでいる場所へと一旦さがり、エリアル先生がいつの間にか持っているくじ引きの箱に躊躇なく手を突っ込み紙を二枚取りだして、生徒の名前を読み上げる。
呼ばれた女子生徒と男子生徒は前へと移動して、私たちは教師の誘導によって移動させられる。
対戦する二人は、地面についているコートであることを表す、白線の内側に入る。
それから、立ち位置の目印である、細い白線の上にお互い向かい合って立つ。彼らの互いへの距離は、五メートルほど。コートはバレーボールコートぐらいは大きさがあって、コートの大きさからみると、開始位置は近すぎるぐらいに感じる。
最初の試合なので私とヴィンスは、最前列で後ろの人が見やすいようにしゃがんで鑑賞する。
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