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メンヘラっけを感じるんだよなぁ……。1

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 寮の自室に戻りヴィンスの手を離す。それからイスに腰掛けて、頭を抱えた。それほどの事態があった訳でも無いのに、なんだか足元がぐらついて良くない。

 あんな話をされると、嫌でも沢山の事を考えてしまう。確かに、私という存在、クラリスという存在どちらも常識外れで、こちらの世界でも当たり前に受け入れられることは無い。

 でも、クラリスより私の方が、この世界にずっと適応していない。前世でこの世界の事を本で読んで知っていたり、魔法の無い世界からやってきていたり、初っ端幽閉されていたり、沢山の状況が重なって私は確かに特異だ。
 サディアスが言っていた通り、除外されるべき、ジョーカーだとも思う。

 でも、なってしまったんだ。消えてしまう事なんて出来ない。私はここにいる。クラリスのために先生が私の事を警戒したり、思い通りにしたいと言う気持ちだって理解出来る……理解出来る……でも……。

 やけに心臓の鼓動が早く、変な汗をかいていて服が体に張り付いている。

 ……私を理解してくれる、仲間だと、協力者だと、私を呼んでくれたのがクラリスだと知った時に思った。

 最初に会った時だって、好きに生きていいと言ってくれたし、不可抗力で私がここにいるのだとしても、何かしらの道しるべになってくれるのではないか、そんな期待が強かった。

 私には、居場所が無いんだ。私はクラリスじゃない。私が持っているのは、ローレンスが気まぐれによこしたこの“クレア”だけだ。

 それだってあの人は……。

 エリアル先生は言っていた、疾患つまり、二重人格などの人格障害や記憶障害だと思っていると。それなら、クレアだって、私個人に与えられた名前じゃない。全部全部、クラリスのものだ。そんな私が、「私はクレアです」……か。

 おかしいよね、そんなのは。

 前世での名前を名乗っていればいいとか……そういう話じゃない。

 ……この世界で私を私たらしめるものって……なんだろう。

 考えながら顔をあげる。今日は、このままふて寝でもしようかと思いながら、リボンを解く。ローレンスに貰ったリボンだ。しかしふと思う、これはローレンスが、たとえどんな打算があろうとも、“私”にくれたものだ。私の所有物だ。

 なんだかその事にとても安心して、キュッとリボンを握る。とりあえず、これをしまってお茶にしようと思い、立ち上がるとヴィンスが扉の前からまったく動いていないことに気がつく。

 ……?

「ヴィンス」

 私が声をかけると、彼はビクッと体を揺らして私を見た。

 その表情には、いつもの笑顔も、私へ向ける親しみもない。

 ……そうだ……クラリスに何か言われて。

「大丈夫?クラリスに何か酷いことでも──────
「っ、こないでくださいっ!!!」

 私が心配から、数歩、彼の方へと足を進めると、大きな声でヴィンスは私を怒鳴りつけた。固く、警戒するような、威嚇するような声に、今度は私の体がビクつく。

「私っ……私はっ!!!」

 震える吐息を吐いて、ヴィンスは自分自身を抱きしめるようにして身を小さくする。まるで寒さに震えているようだった。

「貴方様もっ!!私を!!私をっ、いらないと仰るでしょう?!」
「待って!落ち着いてっ、ヴィンス!」
「落ち着いています!!でもっ、これ以上はっ、耐えられない!!!」

 私に向けられる視線は、好戦的な怒りの目線ではなく、ただただ怯えて震える獣のようだった。
 手負いの獣というものに実際に出会ったことはないが、きっとこんな目をしているのだろうと思う。

「ごめんなさい……クレア、私はっ、でも、知っています!!わかっています!……貴方様も私を必要と、して、いない」
「そ、そんな事ないよ!クラリスに何を言われたのか分からないけど、私は貴方が━━━━
「ではなぜ、クレアは私、自らに選択を迫られるのですか?!何故、他者と交流させたがるのですか?!っ~……私に意見を持たせて、何をしようとしているんですか」

 ……何を……何をと言われても答えなんかない、ただ、その方が良いと思ったのだ、同じ目線でそばにいたい、その方が良いと思った。

「クラリス様は仰いました。私は元から邪魔で仕方がなかったのだと、ローレンス様は仰いました、私はローレンス様が命じた相手に仕えなければ価値はないと!」
「……」
「私は、今、今も!お、同じようにローレンス様に命じられてクレアに仕えているんです!でも貴方様はっ、私を貴方様から引き離そうとしてらっしゃるそれではダメなんですっ、それでは私は、貴方様にもローレンス様にも誰にも!!必要とされないっ」

 頑として彼が、自己の主張をしない理由がわかった。先程、先生も言っていたが、ローレンスと繋がっているのはヴィンスだ。そうなると確かに、クラリスにとってはヴィンスは邪魔な存在だったのかもしれない。

 彼は、ポロポロと涙を零し、その瞳に魔力を纏わせた。反射で魔法を使ってしまっているのか、私を害そうとしているのかは分からない。

「クレア!クレアっ、お願いします。私を必要としてください……!何でも致しますからっ!貴方様の真実など、私は知らなくてもいいです!言う通りにしますから……」

 私が傷ついていたのと同時に、ヴィンスも酷く傷つけられてしまったらしい。混乱しているのか、前に倒れ込むように私の方へと来て、彼は膝をついて、私の手に縋った。



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