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夏休み早々……。5
しおりを挟む「ところで、バイアット公爵家の呪いについて、クラリスは何処まで覚えているの?」
バイアット公爵家はクラリスの家名だ。呪いは原作にも登場した禁忌の魔法。
私にある知識は、バイアット公爵家の血筋の人間の魔法玉でしか使うことが出来ないと言われている代物であり、かけた相手を侵食し朽ち果てさせてしまうというものだ。
「禁忌で、クラリスの血筋しか使えないってことぐらい」
「…………そう、でも、クラリスは知っているでしょ。自分がその血筋じゃないって、だから、ララが君の魔法玉を取って禁忌を犯そうとしたなんて嘘をいった。そうでなければ、君は彼女を直接呪えば良かった」
……まったく知らない話だ。クラリスが呪いを扱える家系じゃない?でも、クラリスは真っ当に公爵令嬢のはずだ。
ディックの言っている事もよく分からなくて、それでも一応最後まで彼の話を聞こうと見つめ返す。
「でも、彼なら呪いを扱える。その力を手に入れるために、殿下は手段を選ばない」
「ローレンスが……?」
「そうだよ。それで、殿下は、この場所を疎ましくと思っている」
ここでローレンスの名前が出てくるのも分からないし、その呪いを扱える人間にも心当たりが無い。そして、あまりピンと来ていない。
結局ローレンスはその呪いの力を使って何がしたいと言うのだろう。
「エリアル達の思惑は言えないと僕は言ったけど、それは僕が口止めされているから、でも、そんなの破るよ。だって、君は、クラリスは、きっと決められないだけなんでしょ?」
力を込めてディックは言う。
「だって君、学園にいる時ずっと楽しそうだ。エリアルが酷いことをしたのは謝る、僕も本当に配慮にかけることをした。……でもクラリス、君は、学園をこの場所を滅ぼしたりしないだろ?」
「私が……?」
「そうだよ、ローレンス殿下に協力するというのはそういう事、それも君の力が無いことを殿下が知っていてもおかしくない。今はまだ、彼の方へのアプローチが足りていないから、動かないだけで、君はいつかきっと殺される」
「……」
「僕たちの側についてよ。クラリス、それとも、そんなにローレンス殿下が大切? 事件があってから君は、人が変わったみたいだって、色んな人が言う。それは、ローレンス殿下以外の人の事も、君が、その、心を許したからじゃないの?」
……学園を滅ぼす?……私がローレンスに殺される?
一気にたくさんの情報が開示され、混乱が体を支配する。ローレンスは、そんな事……やりそうだと思ったし、呪いと学園を滅ぼすということは直結していて、その呪いが使えるという”彼”との渡りがついたら、私は殺されて、学園が滅ぶらしい。
なんとか頭の中を整理するが分からない部分が多すぎる。すぐになにかを反応できずにいると、ディックが私の両肩を掴んだ。
「僕は!君がそんな、恐ろしい人間に思えないんだ。殿下に陶酔しているような感じも見受けられないし、なにより君の固有魔法はとっても、っ、その、優しげで……!」
珍しく心底素直で、そして強い感情に、状況は分からないのに、何か込み上げてくるようで、彼と見つめあった。
「ねぇ、クラリス、君がいなくなったら、君のチーム皆悲しむし、僕とオスカーだって、悔しいよ!殿下に逆らえないなにかがあって、エリアルにも頼れないならっ、僕が、頑張ってみるから」
言葉の端々から伝わってくる。これはディックの打算でも、策略でもなんでもなく、ただの心配と不安なのだと。
そして、彼なりに考えて、今の状況の私を助けようとしてくれている。友達としてここまで、気に止めていてくれたなんてとても嬉しい。
きっとたくさん、思い悩んでくれたのだと思う。
ディックは、私を救わないで無視している方がきっと楽だっただろうに。
しかし、ただ、すこしばかり疑問がある。学園側というのは、エリアルとその他教諭全員なのか、エリアルはその中でもクラリスのことを隠しているのかだ。
「クラリス…………頼むよ……」
切実な懇願に、思わず口を引き結んだ。どう答えたらいいのか分からない。
彼は感情の乱れからか魔法が起動していて、私の肩を掴む手が強くなる。真剣に見つめ返して、私たちの間を沈黙が流れた。
「……」
「……」
……二つの国、この学園、ローレンスの思惑。情報量の多い話だったけれど、つまりは、ディックの主張は私がローレンスに協力しないでくれとそのひとつだけだ。
そうするべきなのかな……。
きっとその方が、安全に、私はこの世界で生きていける。それは、だいぶ前からわかってはいた。エリアル達にも、協力を仰げたし、なんなら、どこかでひっそりと学園外で暮らしたっていいんだ。
なにも、魔法使いになるということにこだわってはいない。ヴィンスは、私を簡単にさらえると言った。それは、私はそのぐらい今、守りが薄い。つまりはもしかしたら、逃げ出そうと思えば逃げ出せる。
ヴィンスの手を引いて、エリアル達学園側に支援してもらって、新しい人生をやり直す。それはきっとできる。でも、ローレンスだってそれに気がついているはずだ。ヴィンスを解放してくれたのだから、私がいつ学園から出ていく算段をしていても気が付かない。
……でも、それが安全だからという理由で、果たして選ぶべきなんだろうか。
クラリスは、ローレンスから逃げ出そうとしていた。私も必然的に、逃げ出した方がいい事は確かだ。はたから見たら、私は殺される道理があるのだろう。逃げた方がいい。
……しかしそもそも、殺そうとしている相手に、よくもまあ、あれだけ積極的に接することが出来るな、ローレンスは。
せいぜい悪くても体よく使われるパシリになるぐらいの気持ちでいたが、まさか生死が絡んでくるというのは予想外だ。
「…………」
……本当に私が死んでもいいなんてそんなふうに思ってるのかな。
でも疑問に思ったって真偽なんて聞けないだろう。わかっている、でも、それでもと思ってしまうのだ。
ローレンスの策略にはまってしまっているような気がする。
いや、そんなものがあるのかどうか私は分からないが、良くないとわかっていつつも、自分はディックに同意できないという事だけはわかってしまう。
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