259 / 305
恐ろしい事があった日は……。3
しおりを挟むあの日に私をけちょんけちょんにしたのだから、それで満足しておけば良かったものを、わざわざエントリーを偽装してまで、私を引きずり出して来て再戦させようとするのが悪い。
「……ああ……最悪の気分だわ、クラリス」
「……そう」
「わたくし、昔から、お前のことが憎くて憎くてたまらなかったわ」
シャーリーは大剣を構えて、話をしながらこちらに攻撃を仕掛けて来る。鉄のぶつかり合う音が響く、重い攻撃に魔力を強くして素早くガードしていく。
「ローレンス殿下の寵愛を受けて、我が物顔でわたくしに指図するのが、たまらなく屈辱的だったわ」
「っ、ふっ……っ、」
「だから、お前が罪に溺れた時、心底嬉しかったのですわ」
光を孕んだ瞳が私を捉える。力押しで攻撃をしてくる彼女に私も同じだけの熱量で睨み返す。
……どうでもいいよ、そんな事、早く試合を終わらせたい。
「それなのに……お前は平然とわたくしの前に現れるんですもの、許し難い、ただ、お前と言う存在が許し難いわ」
「くっ、……もう、話は終わりましたの?決着をつけてもいいかしら?」
早く終わらせたくて口を開く、お嬢様言葉なのはシャーリーにつられたからだろう。魔力を込めて、彼女の大剣を弾き。段々と体が痛くなってきた、早くしなければ明日の筋肉痛は確実だろう。
最後の一太刀に力を込める、そんな時にシャーリーは試合前と同じようにふふふっと笑って、口角を変に上げながら言う。
「だから、わたくし、お前だけでなく、お前を支える愚物共にも制裁を加えることにしましたの」
思い浮かぶのは、私の優しいチームメイトの二人だ。ヴィンスやサディアスも大切だが、この会場にいるし何があるとも思えない。
先日から少し様子がおかしかった、二人のことが脳裏にチラついて、振り上げていた剣を止める。
すると、シャーリーはその隙を見逃す事はなく大剣で、私に重たい斬撃を食らわせる。肩の痛みとともに今は剣に集中しなければと思うが、どういう事なのかそれが気になって、次の攻撃を正面から受け止めてしまう。
「あら、動きが悪くなりましたわね。どうしましたの?」
「っ、さっきの話はっ!どういう」
「そのままの意味だわ。今この時にも、彼女達は下賎な平民共に暴行を受けているはずよ。まったく、頭の悪い協力者がいてくれて助かりましたわ」
自慢げにシャーリーは続ける。彼女と言ったということは、やはりチェルシーとシンシアの事だろう。
二人がどうして?そんなはず、そもそも、だって、二人は強い、私なんかよりずっと、そんなことはありえない私を動揺させるための嘘に決まっている。
「信じないのは自由よ、けれど、呑気に公開試合が終わるまで待っていたら、あの子達は、もう帰ってこられないわね。……何も悪くないというのに、お前に付き従ったばかりに……災難だわ」
「ッ、う、嘘だ!……っぐ、」
「そう思うならそれでも構わなくてよ?……後で、わたくしに逆らった事を後悔する羽目になるだけですのよ」
「っ、……!」
帰って来られない?後悔する?何か酷いことをされているの?確かにチェルシーもシンシアも強いけれど、彼女たちはまだ学生で成人もしていない、子供で女の子なんだ。
それに、サディアスが言っていた、本職の騎士や魔法使いなんかがいるって、それだと、もしかしたら、なにかの拍子に負けてしまうことだってあるのかもしれない。
お祭り気分で浮かれた街では、諍いごとが多いように感じた。彼女達が無理やり誘拐されていても、街の人に気がついて貰えないかもしれない。
……どうしたらいい?どうするべき?私は今……。
「ゔっ!!……っ、……」
またも同じ場所に剣を受けてしまい力が入りづらい。痛みがじんじんと主張してきて、上手く考えられない。
「ふふふっ……クラリス、今、ここで、一切抵抗せずに、降参もせずに無抵抗に嬲られてくれるのなら、彼女たちの居場所を教えてあげても良くてよ?」
シャーリーは形成が逆転したとわかると、ここぞとばかりにまるで慈悲深いような顔をしながら、残酷な提案をしてくる。
そうだ、確かに今すぐに助けに行きたいけれど、どこにいるかも分からない、目の前には、それも知っていて、私が痛い目に会うだけで、居場所を教えてくれる人がいる。
振り上げられる大剣に、私は魔力を弱めなければと咄嗟に考えるが、自らの中のサディアスの魔力がそれを許さないとばかりに主張する。
体がちぐはぐになりそうな魔力に突き動かされて、剣を握り直しシャーリーの攻撃を跳ね返した。
「っ!」
自分を犠牲にするのは許してくれないらしい。それに、私が酷いことをされてそれで二人が助かる保証はない。
……でもっ、それでも二人を守らなきゃ。私の大切な友達なのだ。
シャーリーは私をきつく睨みつける。瞳の中に蠢いているこの私に向けられた憎悪が、チェルシーとシンシアを苦しめているのだと思うと、いてもたってもいられない。
……すぐにでも探さないと。シャーリーが具体的に何をしているかは分からない。でも私の大事な人を守らなければ。
そうと決まれば、と、私は魔力を片手に集中させた。私は基本魔法は、だいたいヴィンスを見習ってスピードに重きを置くようにしている。けれど今だけば、彼女を倒さなければならない今だけは、パワーの方が必要だ。
力を貯めるために、流した魔力と石に反応して、魔法玉についているアタッチメントからパキンッと、弾けるような音がした。
流し込んだ魔力が、何故か次々に消えていく。それでも攻撃を辞める選択はなく、私はシャーリーに剣が壊れんばかりの斬撃をくらわせて、ガードの意味もなく吹っ飛ぶ姿を横目で見つつ、ヴィンスとサディアスを探す。
未だに魔力はゴリゴリ削られていき、彼らを見れば、現在進行形で、チェルシーとシンシアが攻撃を受けているのだとすぐにわかった。
「ヴィンス!!サディアス!!」
私の勝利を告げる声も無視して、全力で走り出す。二人の試合が私の前に終わっていて本当に良かった。
出場者席に戻りつつ、彼らが半球状の盾の魔法で囲まれて居ることに、やっぱりと思い魔法玉を取り出す。
随分前に買って、それから一度も日の目を見なかった、皆と揃いで買ったアタッチが煌々と輝いている。
これは、私のものと対になっているアタッチをつけている人全員に私の魔力が切れるまで、防御魔法を展開できるという代物だ。
本来なら、団体戦で、初撃を完全に防いで、勝負を有利に運ぶために使う予定で買ったが、私の予想外の固有魔法や、いろいろな要因が重なって使う機会を失っていたのだ。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…
甘寧
恋愛
ある時、目が覚めたら知らない世界で、断罪の真っ最中だった。
牢に入れられた所で、ヒロインを名乗るアイリーンにここは乙女ゲームの世界だと言われ、自分が悪役令嬢のセレーナだと教えられた。
断罪後の悪役令嬢の末路なんてろくなもんじゃない。そんな時、団長であるラウルによって牢から出られる事に…しかし、解放された所で、家なし金なし仕事なしのセレーナ。そんなセレーナに声をかけたのがラウルだった。
ラウルもヒロインに好意を持つ一人。そんな相手にとってセレーナは敵。その証拠にセレーナを見る目はいつも冷たく憎しみが込められていた。…はずなのに?
※7/13 タイトル変更させて頂きました┏○))ペコリ
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる