悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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人を襲う計画……。2

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 それに爪の先まで綺麗に保たれていて、ヴィンスの几帳面さが目に見えるようだった。この私より綺麗な爪に、前世だったら調子に乗ってネイルをしていたところだ。

「綺麗な手……」
「ありがとうございます」
「爪も自分でお手入れしてるの?」
「ええ、少々手間ですが、気がついた時に」
「そっか、ネイルとかはつけないの?」
「興味はありませんから」
「そうなの? こんなに綺麗にしてるのに」

 てっきりそれが好きでやっているのかと思ったので、少しでも飾ればいいのにと思った。

 けれど、ヴィンスは、ニコニコして少し間を置いてから、私の指の爪を親指の腹で撫でながら言う。

「貴方様はよく人の手を見ていらっしゃる方ですから、不快に思われないよう、気をつけているだけです。飾り立てるつもりはありません」
「…………そんなに見てる? 私」
「それほどではありませんよ、ただ、少し人より気になるのでは無いかと仮説を立てているだけですから」

 言われて見ると、確かに、人に対してどんな手だなと考える事は、ままある。ただそれは、そういう事を考える時はだいたい触られた時だ。

 それに、綺麗な手でなければ嫌な気持ちになるわけでは無いが、ヴィンスに言ったところで、彼は行動を変えないと思うし、なんならこの綺麗な手も好きなので文句は無い。

「綺麗じゃない手も好きだよ。私。だって、頑張ったことって手に出るって言うじゃない?」
「……そうですか」
 
 私の言葉にヴィンスは少し寂しそうに笑う。個人的には、無理して綺麗に保ってなくてもいいよという意味だったのだが、これでは彼は頑張ってない手に見えると言っているのだと解釈したのだとわかり、追加で言葉を付け足す。

「でも、ヴィンスの頑張って荒れた手をもっと頑張って綺麗にしてるのは、すごいって思う」

 言っていて、そういえば前世の自分はこういって欲しかったのかな。と思った。私も、よく手をきちんと手入れしていた。

 多分、人の手を見る分、自分の手も、私は見ることが多いのだと思う。だから、前世では仕事で荒れた指先や、家事で赤切れができても、入念にケアして、爪も磨いて治していた。

 それを……誰だったかな。上司だったか、もしくは友達か、それか恋人かに、言われたんだ。

 苦労していない手だって。

「だから、この手はすごく好き。頑張ってるって知ってるもん。いつもありがとうね」

 ヴィンスは、眉を下げて笑うけれどそれから少し、表情を曇らせた。

「…………それほど労われると、少し不安になります、クレア。貴方様は、知らなくてもいいんです。私がどんな仕事をしているだとか、そういうのはまったく知らなくていいんです」
「どうして?」
「だってクレアは、私の仕事を減らそうとするでしょう?それは……悲しいんです」
「……なるほど」

 ……つまり労われるのは嫌いじゃないのね。それなら……まぁ、彼の仕事をとるなと周りの人にも言われているし、仕事を減らそうとしたりはしないけど。

 いや、本当はしたいんだ。私はヴィンスの上司でもなければ、雇い主でも無い。家族だし、恋人なのだ。だから身の回りの事を全部やって貰って良いはずがない。

 そんなことをせずとも、家事は折半だろ!というか、女である私がやったって良い!なんせ前世では、前時代的な彼氏が多かったし、嫌われない事に重きを置いてきたのだからそういう価値観に頭が固定されているのだ。

 けれどその言葉を必死で押さえ込んで、頑張れ私、偉そうになれ、と言い聞かせる。こんな時こそ悪役令嬢であることを思い出せ。

「そうですわね!! 貴方の仕事は減らしませんことよ!! これからも、励めるよう、こうして労ってあげてるだけですもの!!」
「……ふふっ、左様でございますか。失礼致しました」
「許してあげますわ!! ヴィンス」

 ヴィンスは私の言葉にクスクス笑って、肩を揺らした。その笑顔がやっぱりどうにも可愛くて、私は塗り終わったクリームの蓋を絞めて、ヴィンスの頭をヨシヨシなでた。

 そうすると、素直に撫でられていたヴィンスは何か思いついたらしく、なでなでしている私の手を掴んで、それから、今までの無邪気で朗らかな笑顔とは違い、含みのある笑みを浮かべる。

「クレア。私も貴方様の手が好きです」
「……う、うん? ありがと?」
「か細いのに、力強く、優しい貴方様の手は……本当に切り取ってしまいたいほどです」
「!」

 ちゅっと手のひらにキスをされて、突然の柔らかい感触に私は椅子の上で飛び上がる。

 ヴィンスはいつもと分からない笑顔で私の手に頬擦りをして、うっとりして微笑んだ。

 私はその笑顔に、背筋がゾクゾクするような寒気を覚えて、どっちの意味だろうかと考える。

 切り取って自分の物にしたいほど、手が好きだということなのか、それとも、好きでとても良い手だからこそ、切り取って捨てておきたいのだろうか。

 だってヴィンスは無力な私が好きだ、そんなヴィンスが褒めるような良い手は、私にくっついていない方がいいと思っていそうだ。

 なんだかヴィンスの言葉が、比喩的な熱烈な言葉と言うより、仄暗い欲望を含んでいるような気がする。

「……素晴らしい手ですからね。本当に」
「き、切らないで、ね?」
「そのような事はいたしませんよ。比喩です。お気になさらず」
「だ、だよねぇ」

 絶対に比喩では無い。そう確信しつつ、ちゅ、ちゅうと、優しくキスをする彼を見つめる。
 吐息が手にかかって、少し意識してしまえば擽ったいような、恥ずかしいような気持ちになって、でも拒否するわけにもいかずにもう片方の手でヴィンスの頭を緩く撫でる。ふふっと微笑むヴィンスに妙に心臓の鼓動が早くなる。

 それでもお互いに飽きるまでそうして、他人から見たらイライラするような甘ったるい時間を過ごした。



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