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しおりを挟むハリエットの聞こえる声についてはかん口令が敷かれることになった。
突然、その事実を公にするためには、必要な調べが足りておらず段階的に情報を公開していくことで理解を得ていくような流れになったことにシェリルは納得がいった。
そして今回の件で重傷を負い多くの注目を集めたケアリーについては、本来守るべきハリエットに手をあげようとして、彼女の属性である炎の魔法で反撃をされ、あのような事件が起こったという説明がなされた。
傷が癒えたあとで正式な裁判が行われて、正式に裁かれ、ケアリーはその後の余生を暗く寂しい監獄で過ごすことになったのだった。
シェリルとしてもこれは当然の結末だと思ったが、ハリエットの心中は複雑なものだろうとすぐに想像できた。
しかし、彼女から送られてきた手紙を見ると実母であるロザリンド、それから国王サイラスや献身的な侍女たちに囲まれて自分の能力と向き合っていることが読み取れて、これならば大丈夫だろうと思う。
ざっと手紙を読み終えてシェリルは顔をあげる。
わざわざ休日に直接手紙を届けに来てくれたセラフィーナに目線を向け口を開く。
「きちんと確認したわ。セラフィーナ、その後のハリエット王女殿下にあの事件が暗い影を落としていたらどうしようかと思ったけれど、そんなことはない様子で安心したわ」
「はい。それもこれも、シェリルお姉さまがあのとき、咄嗟に判断してケアリーを助けてくださったおかげです。そのおかげでハリエット様も心の整理をすることができて、きちんとその罪を裁くことができました」
セラフィーナは待ってましたとばかりに、弾んだ口調でそう言い、一拍置いてから頭を下げる。
「今回の事、感謝してもしきれません。そちらの手紙には記載がありませんが、私から直接、シェリルお姉さまの要望を伺って、できる限りの褒賞を与える準備があることを伝えるように仰せつかっています」
「褒賞……でも、私は過去の契約者の手記をもとにできることをしただけよ。それにあなたに資料を写本してもらったお礼にあなたの悩みを聞いただけだったはずだわ」
「お姉さまがそう思われていたとしても、私は自分がしたことよりもずっと大きな恩を受けたと思っていますし、ハリエット様も、それからロザリンド王妃殿下も感謝してもしきれないほどだと思っているのです」
「そうかしら」
「はい、なにもすぐに決める必要はありませんから、ごゆっくりと望みを考えてくださると嬉しいです」
セラフィーナの決意は固いようで、今思い浮かばなくてもゆっくりと考えていいと口にする。
それにここまで恩を感じられているのならば、頑なに受け取らないというのも相手に悪いだろう。
それで気持ちが治まるならばとシェリルは小さく頷いた。
「わかったわ。考えておくわね。……それにしても、このかん口令は長く続くことになるのかしら」
「そうですね。王家の側近や近しい人間には比較的早く情報を与えて、誤解がないようにしたいと考えているようですが、貴族たちへと広まるのはまだ先になると思われます」
「定例の国政会議を利用してまずは上級貴族から情報を流すと書いてあったけれどまだ少し先のことだものね。突然開いては貴族たちに怪しまれるかもしれないし」
もうしばらくは、このままの状態が続くだろうことは明白だった。
シェリル自身あまり人との交流がなく、ああして倒れて以来また、療養期間だとクライドに言われているので問題がないのだが、事情をすべてあの後に話してしまったクライドには少し申し訳ない気持ちだった。
だからこその確認だったが、確認しても早くなるわけではない。仕方がないことだろう。
「そうですね、それに下手な情報の公開の仕方をして……第一王子の派閥と揉めることは極力避けなければなりません。こちらの事情ではあるのですが今までハリエット様は、公務もまともにこなせないと言われ貴族たちにも侮られてきました」
「……ええ」
「そのすべてが精霊の声の能力が制御できないせいで、その唯一無二の力で精霊と契約を結び自由に国を豊かにすることができるなどと解釈されてしまえば、次期国王と目されているルーファス王子殿下を押している派閥の方々から攻撃対象になる可能性もあります」
その危険性は十分に考慮するべき事項であり、この平和な国での一番の争いごとが王家の跡目争いだなんてことになっては目も当てられない。慎重になるのもうなづける。
「それに私も目の当たりにして思いましたが、精霊様のお力は素晴らしく強大なものですが、私たち人間の意に必ず沿う素晴らしい力というようには思えませんでした」
「そうね、力には代償が必要で、そして大きな力は簡単に人を傷つけうる、それはとても注意すべき点だと私も感じたわ」
「はい。その通りです、だからこそ、きちんと向き合って侮ることなく、王家一丸となってより国を豊かにするにはどうするべきか考えていくべきだとハリエット様も仰っていました」
「そのとおりね」
力を持ってもおごることなく、自分の分からないものを侮ることなく向き合うこと、それはとても大切なことだ。
そしてそれができるからこそ、彼女は精霊に選ばれたのかもしれない。シェリルはそう思った。
それからしばらくセラフィーナとはまた雑談をしたり、ケアリーがいなくなって職場がどんなふうに変わったかなんかを聞きつつ時間を過ごしたのだった。
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