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35 協力
しおりを挟むじれったい気持ちのままシェリルは屋敷で悶々としていた。そしてその気持ちを汲み取るように、来客を告げるベルの音が鳴りやってきたのは騎士をたくさん連れたハリエットだった。
事態が事態なので中に入れるだけ入れて、エントランスで話を聞くことにした。
外は昨日に比べて多少ましになったのかもう街中で争っているような喧噪は聞こえないし、危険な様子もない。
しかしだからと言って、王族である彼女がこんなふうに一番守りが堅いはずの王城から飛び出してくるだなんて非常識で危険なことだ。
ただそれを理解できないような人ではないこともわかっているし、シェリルは彼女がなにをしに来たのか直感で想像できていた。
「ウィルトン伯爵、こんなときに訪問して申し訳ありませんわっ、でもあなたにしかお願いすることができない相談があってまいりましたのよ」
彼女は前置きや、相手を探るような態度を一切見せずに、手を組み口早にシェリルに言う。
その様子は必死で、彼女の周りを囲む騎士たちの視線も緊張感を助長させていた。
「急ぎ、精霊との新しい契約が必要になりましたわ。隠したところで意味などないと思うので言うけれど、あの人がっ! 兄がやりましたわ、わたくしの力を知ったあの人が、っ、壊したんですの!」
とにかく思いついたことを言っているような唐突さで、シェリルは予想をしていたとはいえ、がっかりした気持ちはどうしてもあった。
いくらああしてシェリルを侮っていた人でも、たいしたことのない仕事なのだと言ったからにはプライドを持ってやり遂げると思っていた……いや、そうであって欲しいと願っていた。
しかしそうはならなかったらしく精霊の守護像は壊された。
それはとんでもないことで、昨日から非常事態の鐘が鳴り続けていることからして対応が追い付いていないのは明白だった。
シェリルの言葉を待たずに彼女は一歩踏み出して、続けた。
「アルバートお兄さまがどうなるかは全くわかりませんし、その対処をしている余裕もお母さまにもお父さまにもありませんわ、とにかく今はできるだけ人を守るために二人とも城を出て戦っていますの!」
いつもの毅然とした態度ではなく、まるでシェリルに乞うように苦しげな瞳を一心に向けていた。
「わたくしには、力があるわ。でもいまだ一人ではうまく扱える気も致しません。でもすぐにできるだけ早く契約をし直す必要があるのです、ウィルトン伯爵、どうかわたくしに協力してくださいませんか」
彼女の言う通り、その問題を解決しないことには、きっとこの国はどうしようもない。
その判断はシェリルも正しいと思う。しかしこんな形で当事者になろうとは想像もしていなかった。
「あなたのそばにいてあなたに加護を与えている精霊様たち、彼らならばきっといい契約をしてくださると思いますの。ウィルトン伯爵、あなたにしか頼めませんの。一緒に王城に来てくださいませ」
「……私の周りにいる精霊様にようがあるということなんですね」
「ええ、けれど、それ以上に、あなたに意見を聞くこともとても大切なことだとわたくしは考えていますわ」
「……」
「お願いします。わたくしはこれを機会にしたい、アルバートお兄さまは責任を取らされることになるでしょう、でも今までと同じ契約内容で行くならばまた誰か犠牲が必要になる」
声を固くしてハリエットは言った。つまり彼女は、自分のことだけを考えてシェリルに声を掛けたわけではないということだろう。
シェリルのことも、そしてセラフィーナのことも心配していてそして、突然やってきたこの緊急事態を機会に、この国を変えようとしている。
それはとても大胆なことでありながらも、こうなったからには放っておくことなどできるわけもない。
否応なしにも、時は進むし起ってしまったことは変わらない。だったら、対策を早く打つしかない。
「わかりました。ハリエット王女殿下、ただこの屋敷が心配です、あなたの騎士を半分、ここに置いていってください。それが条件です」
「は、半分だなんて、外は比較的落ち着いたとはいえ、いつ襲われてもおかしくない状態ですのに」
しかしシェリルにも譲れないものがある。
ハリエットにそう提案すると彼女は目を見開いて、自分の騎士たちを振り返って厳しい表情をしたが、なにもハリエットを危険にさらしたいわけではない。
「襲われませんよ。ハリエット王女殿下……私には加護がついていますもの」
「!」
シェリルが言うと彼女は耳を澄ませて、驚愕の表情を見せた。
「やはり精霊の力はすさまじいですわ」
「ええ、行きましょう。私も、夫が心配です。早く手を打たなければ」
そうしてシェリルとハリエットはウィルトン伯爵家を出る。
シェリルはクライドが戻って来た時のために手紙を残したが、ロザリンドやサイラスすら出陣している状況で帰宅することは難しいだろう。
彼が一刻も早く休むことができるようには、これが最善だと思う。けれど心配をかけてしまうかもしれないという思いもないわけではない。
……そんな苦しみを味わってほしくはない、でも私も同じだけ、あなたを案じている。
だからこそ判別がつかなくて、どちらの気持ちを優先するべきかはわからない。そんななかでも、より良くなると思う方を選んだのだった。
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