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14 やるべきこと
なだめようとバグウェル伯爵がその手を取っても、「触らないで!」と叫んで振り払う。
パトリシアには何も見えていない。
セドリックがどうして彼女に冷たいのかも、周りの人間がどうしてパトリシアと距離を置こうとするのかも。両親がどれだけ彼女を思っているのかも。
パトリシアの中にあるのはどれだけ自分が悪くなくて、どれだけ自分がかわいそうかということだけ。
いかに夫が疲弊していようと、両親が必死になろうと、自分が悪いということだけは認めたくないし、直視することしかせずに癇癪を起こす。
それがパトリシアのやり口だ。
「もういや! こんなかわいそうな私をよってたかっていじめて楽し――」
「パトリシア、わかりました」
「私は何も悪くないのに!!」
「もう一度言います、わかりました。話し合いの場です。あなたの言葉全部わかりましたわ」
「っ、…………ソ、ソフィア様」
「実は今日、その療養期間を使って別の提案をするために呼び出したのですわ」
ソフィアは、静かに自分の中で見切りをつけた。
そしてパトリシアを落ち着かせるために話の方向性を変える。
「ただ、後はバグウェル伯爵と話をしますので、少し待っていてくださいませ。楽しい提案になると思います」
「……そう、そうですか?」
「ええ」
「わかりました。取り乱してごめんなさい、ソフィア様」
そうして、虚を突かれたパトリシアは、侍女に促されるまますぐに応接室を去って行く。
残されたのはバグウェル伯爵だ。
彼は、頭を抱えて喉が詰まるみたいな声で「申し訳ありません。ソフィア様」と震える声で謝罪した。
「……教育は……難航しているように思いましたわ」
「…………はい。ふがいないことに……申し訳ありません。一体どこで間違えたのか……申し訳ありません」
「……」
背を丸めて頭を深く下げるバグウェル伯爵が少し不憫だった。
どうであれ、この人は父も信頼する優秀な人だ。子育てを放棄していたとも思えない。
それでも、パトリシアはああだ。
そして考えを変える気も、無ければ、自分に不利なことを言われると暴走する。
きっと、そうすれば人は自分の思い通りになると無意識下で学んだのだろう。
それがバグウェル伯爵のせいであるかどうかはソフィアが簡単に決めることではない。
だから、バグウェル伯爵とパトリシアの問題自体には口を挟まない。
ソフィアはただ、自分がやって当然のことをやるだけだ。
「実は、セドリックがなにかを企んでいる様子なんですの。それを阻止するために、しばし教育ではなくなってほしいことがあります」
「は、はぁ、セドリック殿が」
「これからパトリシアがどういうふうになっていくのだとしても、不条理な形で離婚をたたきつけられてはどうしようもない」
「ええ」
「そこに対処したいのですわ。協力をしてくださるかしら」
「もちろんですとも、ソフィ様にはいつも、多大なご配慮を頂いてしまい……言葉もありません」
「いいのよ」
それにこれは、セドリックに対するソフィアの私情もないとは言い切れない行動だ。
パトリシアのことだけを考えている訳ではなく、汚点のある状態で彼女が離婚された場合のバグウェル伯爵の痛手や、フィールディング公爵家のことなどたくさんの事情を鑑みて動いている。
お礼を言われることではない。
「気にしないでくださいませ」
そうしてソフィアはバグウェル伯爵に依頼をした。どれが身を結ぶかはわからないがセドリックはできるだけ早くパトリシアと離婚をしたいのだ。
長期戦にはならないだろう。
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