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しおりを挟むミオは何通も送られてきた手紙の中で一番新しいものを一生懸命目で追いながら馬車に揺られていた。
その手紙は、数日後、屋敷の準備が整うから、その日に馬車の手配をして置く。来てもいいと思うのならば、使用人に声を掛けて荷物を纏めて馬車に乗ればいい。
あとは、何もしなくても新しい居場所であるオルコット侯爵邸に到着できる。
そんな風に書いてある手紙だ。
差出人はイーディス・オルコット。二週間ほど前にミオに会いにやってきた女性で、気が立っていたミオは彼女に向かって魔法で攻撃をしてしまった。
今までの王族だと名乗る人たちは、そうすると怖い男の人たちが前に出てきてミオを睨みつける。こちらだって怒ってはいるがわざとやっているわけではないのに、そんな風に責められて辟易していた。
しかし、彼女は違った。ひるむことなくミオに提案して、安心させるように笑みを浮かべた。
けれども、怪我をさせてしまったのは事実なので手紙のやり取りをして謝罪をすれば、再度イーディスの屋敷に来ないかという誘いをかけられた。
それから、決心がつかないまま、手紙のやり取りを続けて最終的に、この手紙が届いて、ミオは、重い腰を上げた。
この世界に来てしまって何もやる気もわかないし、何をしたらいいのかもまったくわからなかったミオだが、それでも初めて自分の意思でした選択だった。
……でも、これでもし、虐めにあったりしたら私、何するかわかんない。
自分でした選択だからこそ、ミオは不安に駆られながら馬車に揺られていた。
ごとごとと揺れる馬車は、元の世界の車よりもよっぽど揺れるし、おしりも痛い。
そんなことにすらむかついた。
しかし外に出てみると案外、空は広くて元の世界と似ていて、お城にいた時にはまったく気がつかなかったが、どうやら今の季節は春らしく窓の外を眺めると、どこのお屋敷にも可愛いお花が咲き誇っていた。
それらはとても美しくて、見ていればほんの少し気持ちが和らぐ。
ダレルの話によるとイーディスが誘ってくれなかったら、ミオはずっと窮屈なお城の部屋か、教会しか世界を知らずに自分の運命を受け入れることになっていたらしいから、彼女には感謝している。
……それにしても、あのダレルとかいう王様、滅茶苦茶に胡散臭い。
私の事、其方とかいうし、きらきらした外人さんの雰囲気でいつもうざったいんだよね。
そのうえで、勝手に呼び出したのに、働けだの、魔法だの言われてもミオはまったく従う気にならなかった。
だから抵抗していたのだが、その気を張る生活も今日で終わりにできたのならいいと思うけれど所詮は異世界、安心などできるはずもない。
しかし、碌でもないミオを利用しようとしている場所なのだとしても、一応は何とか受け入れなければいけないだろう。
目的地に到着して止まる馬車の中でミオは立ち上がった。
心の中では強がって仕方ないとあきらめた風を装ったり、他人に対する文句を考えたりして、気を紛らわしているが、結局心臓の音がバクバクと鳴り響いて手が震えた。
「……」
ずっと異世界の服を着ているのは、恥ずかしいとラモーナに言われて意地になって着替えを拒否し続けてきたけれど、今日の為に、こちらの世界のドレスを着せてもらった。
そのせいで動きづらいけれど、少しでも自分の事を気に入って欲しいという気持ちがないわけではない。
扉を開けられずにトランクをもったまま、硬直していると、勝手に扉が開く。
もしかすると、そもそも自分で扉を開ける方式ではなかったのかもしれない、貴族ってのはなんでも人にやってもらうお金持ちらしいし、車の扉を運転手に開けてもらうような話なのかもしれない。
しかし、では扉が開いたら次は何をしたらいいのだろう。
このドレスに合わせたヒールを履いているせいで足元がおぼつかない。馬車から降りるのにも一苦労だ。
馬車の縁に手を置いてよっこらしょと降りていいのか、足元を見てじとじと汗を掻く。視界の端には、屋敷の入口にそろって立つ男女の足元が見えた。
…………変な行動を取ったら、私、どうなるの?
笑われて呆れられてその程度ならいいけれど、こっから先、ミオはどうなってしまうのか。
世界が違うと言われて外を見てそれは知っている。そして、それがわかってしまうと未来の予測すら簡単には立たない。だってミオはまだただの中学生だ。
この世界で立派な大人みたいな扱いをされているけれど、何も分からない。
どうしたらいいのかわからなくなると、緊張と、コルセットを強く締められたせいで、眩暈がしてきてくらくらする。もうしゃがみ込んで、目をつむってわんわん泣きたかった。
でもそうしたら、変な子だと思われてしまうかもしれない。
ああかもしれない、こうかもしれない、とミオの頭の中にはぐるぐると思考が回って、キリキリと音がしてすぐそばに岩石が精製されている。
またミオの思考とは裏腹にとんでもない場所に飛んでいって緊張の原因を壊そうとしているらしい。
……それはだめっ。あの時だって、イーディスに怪我をさせたのにっ。
抑えよう抑えようと考えるが、どんなに必死に堪えても、岩石はキリキリ音を立てて大きくなるばかりだ。
「っ、……」
「ミオ、どうしたの。さあ手を取って」
ふいに声をかけられて岩石は、ごとごとっと音を立てて、床に落ちた。顔をあげれば、目の前にはイーディスがいて、ミオに手を差し伸べていた。
示された言葉と態度にすぐにこの手を取ればいいのかと合点がつく。
すると同時に手を取っていた。触れる手は柔らかくて温かで、ぐっと引かれて足を踏み出して馬車のステップに足を乗せた。
「今日はドレスなのね、とても綺麗だわ」
「……」
安心するような声、それから優しい気さくな笑み。
まったく馴染みない顔つきで、その瞳は紫色をしていて、不思議なのに思いやりがその瞳にあふれているようだ。
彼女の手に支えられるようにして馬車を降りると、なんてことはなく、どうして逆にこんな簡単な行動すらできなくなってしまっていたのかわからないくらいだ。
「貴方の到着を心待ちにしてたわ。こちらは、私の夫のアルバート」
イーディスの手を離して、彼女についていくと扉の前で気弱に笑う男性を紹介された。やっぱり、青い髪に青い瞳の奇抜な外見をしているけれども、不思議と怖いとは思わない。
それどころか初対面でも優しげな人に見えた。
「始めまして、聖女ミオ。今日からよろしくお願いします」
アルバートは丁寧にそう口にして、手を差し出す。それに一瞬不思議に思ってから握手を求められているのだと納得して、おずおずと手を取った。
緩く握られる手は男性らしくて大きくて、とても優しく握られる手に彼の人間性を感じる。
「それじゃあ、早速、ミオの部屋へと向かいましょうか。色々と屋敷の説明もあるし」
「……はい」
言葉とともに屋敷の扉は開かれる。お城の全部がキラキラとした雰囲気とは違って、このお屋敷はなんだか落ち着いた雰囲気で、ノスタルジーなイメージを持つ。
この様子なら洋風なペンションにでもいると思えば、少しは暮らしやすそうだと前向きなことを考えられた。
「じゃあ、俺は書斎にいますから、何かあったら声をかけてください」
「ええ、ありがとうございます。アルバート」
「行きましょう、ミオ」
彼らは、そんな風に言葉を交わして、身を翻して歩いていく。ミオはトランクを持って借りてきた猫のように静かについていった。
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