異世界召喚されて吸血鬼になったらしく、あげく元の世界に帰れそうにないんだが……人間らしく暮らしたい。

ぽんぽこ狸

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人外 6

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 王子たちもそれなりのペースで飲んでいるようで、給仕係りのメイドは忙しなく動いている。

 また、次の料理が運ばれてきたときには、別の酒が新しい料理とともに運ばれてくるやはりペアリング形式らしい。これは次々に飲まなければ食事が滞る。

 ……飲めないわけじゃないが、酒豪ってわけでもないんだよな。

 どうしたものかと思いながら、物足りない酒を飲み続ける。明日は二日酔いで動けなくなっているかもしれない。

「では、それぞれ紹介も終わったことだし。アル、説明を」
「っ、兄上」
「なんだい」
「俺は、この件に関しては……」
「もう一度言う。説明を、アルベリク」
「……」

 彼らはなにやら意味深なやり取りをして、それからアリスティドにじっと見つめられてアルベリクはとても嫌そうな顔をしたけれども、あきらめたように肩を落として、俺たちに視線を向ける。

「本来の召喚者殿に対する一連の王族の義務は、王太子が負うと契約で決まっているのですが……不肖ながら俺が説明させていただきます」

 ……不肖ながら……使っている人間初めて見たな。

 そんな感想を抱きつつも耳を傾けた。

「まず、お二方がこちらに召喚された理由は、先程からたびたび話題に上がっています、盟友の誓いの再契約の為に、聖レジスが契約魔法を付与した人間が必要だったからです」

 心底真面目そうに、魔法だ、神だと口にする彼に、俺はどこかおとぎ話でも聞いているような心地になった。

「ご存じかは分かりませんが、世界をまたいで物体を召喚すると、この世界に存在しうる物へと自動的に変換されてこちらへと出現します。その際に聖レジスは、お二方と契約をすることによって天授魔法として契約魔法を刻み込み、この国の根幹たる盟友の誓いの再契約を果たすことが出来るのです」

 なんだか言っていることはよくわからないが、とにかくこっちの人間ではできない事をよその人間なら出来るから呼んで来ようという事なんだろうか。

 ……しかしな。この世界にあるものに変換されて、召喚されるっていうのは、この体と何か関係があるのか?

「そういう理由でお二方には、今年の冬が終わるころまでにその再契約の義を終えていただきたい」
「……なるほど……具体的には何をするのかな?冬が終わるころまで待たなくとも、その俺たちに宿っている魔法とやらでちゃっちゃと契約してちゃっちゃと帰りたいんだけどな」

 疑問に思ったことは沢山あったが、今は話を進めるために、ナオも思っていそうな疑問について口に出す。

 それを聞くと、当たり前の疑問だとばかりにアルベリクは、深く頷いて、それから少し申し訳なさそうに言った。

「そのころまでかかるのには、きちんと理由がある。一つは、こちらに召喚された時点では体に魔力が宿っていないので、魔力の源泉である浄化の泉に行く必要があること」
「そういうものなのか」
「はい。リヒト殿。それからこちらの都合になってしまうのですが、召喚魔術を使うための魔力が莫大であり、お二方の帰還のための送り返す方の転移魔術の準備にそれだけの時間を要します」
「……なるほどな……」

 一応は説明されて納得したような気持になるが、俺はその魔法とやらにまったく知識がない。分かった気になっているだけで、実際には嘘をつかれていても気が付けない状況にある。

 それを今、躍起になって、正しい事を知ろうとして話を長引かせるよりもより多くの事をまんべんなく聞いた方がいい。

「じゃあ、聞く━━━━
「アノッッ!!!」

 俺が今度はその間の生活や、それを真面目にこなすことへの俺たちへのリターンを確認しようと口を開くが、ナオが大きな声で遮って、彼の方へと視線が集中する。それに、ひるむようにナオは目を逸らすがぐっと服の胸元を握って、それからアルベリクに向けて言う。

「カ、帰れるってことですよね。僕ら、元の世界にッ」
「……はい。そうなるように最善を尽くします」
「そーです、か。……それだけでも安心、できます。お兄さんの話、遮ってごめんなさい。僕の聞きたかったことはそれだけでで……ですから」
「あ、ああ」

 ナオが、その言葉を聞いて心底安心したというようにほっと息をついて、小さく微笑む。そんなナオを見ていると、なんだか胸騒ぎがした。彼らは勝手に他人の人生を無視して呼び出したりするような連中だ。こちらにだってこちらの都合があるというのに、言ってしまえば自分の国の為に俺たちに強制をしてる。

 そんな人間が言う言葉など、情報として受け入れるのはいいが、信用してはならない。あの英文を見たからというのもあるが、それ以前に、こちらの事をこの国の全員がないがしろにしているという事実を忘れてはいけない。

 けれども、ナオはきっと見えていること、言っていることしか、気が付かない。彼は素直で、きっと今の言葉を信じた。来ることが出来たのだから帰れるとでも思っているのかもしれないが、順路の知らない道をどうやって戻れるだろうか。

「……なあ、アルベリク、帰る、とは具体的にどうやって?」
「魔法で、です。もちろんこちらにいらっしゃったのですから帰す魔法も存在しています」
「それは、俺にはよくわからない。でも、帰さない方が君たちにとっては利があるではないかな?」
「……」
「例えば……そうだな。俺たちがその再契約を終えたとする。しかし、その契約の魔法とやらは、この国に必要な物だとさっき言っていた。君たちが俺らに今度は別の事をやってくれと頼むとする。そうしたら帰してやるからと、そしたらこちらは従うしかないわけだ」
「……それ、は」
「それに今気が付いたんだけど、よく考えれば、契約の魔法なんてものがあるんだろう? 俺は魔法に詳しくないが、人間同士でも出来るんだよな?それなら、俺たちを必ず元の世界へ送り返すと契約を結んでくれないかな?」

 俺がそこまで言うと、アルベリクは苦い顔をした。そうは出来ない事情があるのかなんなのか。

 しかしとにかくこの話は怪しい。それだけは事実だろう。

「どうしたんだ?アルベリク、俺たちの関係が対等なのは今だけで、いずれは役目を終えて、俺たちは君たちにお願いされる立場から、帰宅を頼む立場になる、その時のための保険が欲しいんだ。そう思うのは当たり前だよな」
「……、……」

 さらに、正当性を示すためにそういうと彼は気まずそうに、口を引き結んで、沈黙する。そのまま部屋には重たい沈黙が生まれて、しばらくすると、ククッと小さく喉を鳴らして笑う声が聞こえてきた。

 それは、アリスティドとアルセーヌの二人で彼らは、視線を交わして、眉をハの字にしてくすくすと笑っていた。

「アル、やっぱりお前は真面目過ぎて良くないな」
「本当に、お前はまとも過ぎて、私たちは愉快だ」

 そんな風に、彼をなじるようなニュアンスで口にする。それから二人の王子は俺に向き直り、美しい完璧な笑顔を見せた。そしてアリスティドの方が口を開く。

「悪いなそれについては今は何も言えることがない。それにその契約をひとりの人とするには、君たちの要求が大きすぎる。つまりは国家との契約になる。国家となんてそんな大層なことは私個人では決められない。国王陛下にお伺いを立ててみることにしよう」
「それに今はめでたい宴の席だ。そんな小難しい話はやめて、もっと楽しめる話をしたらどうだ。それもまた作法というものだろう」
「……」

 彼らは二人で見事に俺の疑問や提案を考えておきますと適当に流し、もう同じ話をさせないように予防線を張る。やはり、アルベリクは多少なりとも真摯に問題に向き合おうとする姿勢が見て取れたが、彼らにはそれがないように思う。

 ……やはり、今は無理に根掘り葉掘り聞いても意味がないか……それに、今の会話を聞いて多少なりともナオが危機感を持ってくれればそれで……。

 そう考えて、ナオの方を目線だけで確認すると彼は、スープを必死に冷ましてちまちまと飲んでいた。目が合うということもないし、緊張もほぐれたようでぽけぇとしているので話を聞いていなかったのだということがすぐにわかる。

「……、……」
「……! お兄さんどうかしました?」
「……」
「ア、あの」
「ナオ、グラス」

 言って手を出せば、またも並々と注がれたワインを彼はおずおずと差し出した。

 手に取って煽る。やっぱり物足りない味のするワインだ。

「アリスティド、アルセーヌその通りだな。今夜は楽しませてもらうよ。どうせ飲まなければならないのなら楽しく、だよな」

 多少の嫌味を込めて二人にそういうと、彼らはまた目線を交わしてつやっぽい笑みを浮かべて、三人でグラスを持ち上げてカツンと触れ合わせた。

「その通り、物分かりが良くて私たちも助かる」
「今宵は宴の儀式、享楽におぼれて酔いしれよう」

 二人はそう言って、ワインを煽った。彼らは多分食えないやつだ。必死になればなるほどのらりくらりと質問を躱し、俺の望む返答は返ってこない。であればわざわざ悪印象を刻み付けなくてもいいだろう。

 そんな考えから、彼らの言うことに今日は身を任せることにして俺は限界を気にすることなく酒を飲んだ。



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