異世界召喚されて吸血鬼になったらしく、あげく元の世界に帰れそうにないんだが……人間らしく暮らしたい。

ぽんぽこ狸

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召喚者塔 2 

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 彼女が気まずそうにソファーに座り直して、ふーっと深呼吸をしている間に、俺は背後にいるルシアンを振り返って、耳を貸せと手を口元に添える。そうすると彼は察して、かがんで俺の口元に耳を寄せる。

「俺ってそんなに凶暴に見えるかな」

 こっそり吐息をひそめて聞いた。

「……多少は」

 それに対してルシアンが、まったく声を潜めずに返す。それに反論したくなって、自分がイラついても怯えなかった人物を思い出す。

「いや、アリスティドや、アルセーヌは怯えてなかったじゃないか」
「あれは……君の死角から、数十人の銀武器を持ったものが狙っていたからであってな」
「……ん?」
「いざというときに王子殿下を守るためにそういう風になっていたんだ、だから彼らは君と対等だった」
「……ほ、本当に?」
「事実だが」

 真顔でさも当たり前のようにルシアンに言われて俺は、傷つくを通り越して、俺は猛獣か何かかとツッコミを入れたくなった。もちろんそんなことは無いし、こんな体になったとしても一般的な倫理観と道徳観を持ち合わせた善良な日本人だ。

「ふぅ……さ、きほどは、失礼いたしました。白銀の吸血鬼でもリヒト様は温和な方だと知っていたのですがつい動揺してしまいましたわ」

 胸をなでおろしながら彼女は、切れ長の瞳を細くして笑みを浮かべる。女性らしい柔らかな笑みというよりも気丈な印象を受ける笑い方だった。

「いや、構わない。こちらで俺は猛獣のように思われているみたいだしな」

 適当に受け答えをしようと思うと、なんだか少し責めるような口調になってしまっていて、一度、ゆっくりと瞬きをしてから、頭を切り替えるようにしてこちらも笑顔を浮かべる。

「そんなことは……置いておいて、君の事を話してほしい。ここに来てから退屈でな。やるべきことは沢山ありそうなんだが、勝手に出歩くこともできないようだし」
「では、アルベリク様になにか娯楽を……あ、いえ。召喚者塔の方には、召喚者様向けの素晴らしい設備がありますのでもう明日には移られますのよね」
「そうらしいね」
「では、そちらの設備を充実するように、アルベリク様に伝えておきます」

 彼女はそういって、それから背筋をぴしっと伸ばす。それから凛とした声で言う。

「改めまして、わたくしは、サラ・ド・アングラードと申します。今はアングラード公爵の元でお世話になっています」
「サラ……サラか、なんだか馴染みのある名前だ」

 彼女の名前を聞いて咄嗟にそう思った。日本にも割といる女性名だし、彼女の容姿によく合っていた。

 俺がそういうと、サラは懐かしむように、笑みを深くしながら口を開く。

「ええ、この外見ですでに察しがついていらっしゃるかもしれませんが……わたくしの先祖が百年前の召喚者様なのですわ」
「あ、ああ、どうりで」
「召喚者様のように国に貢献できるような人間になるようにと願いをかけてご先祖様の名をそのままわたくしの名前にしたそうです」

 先祖にあやかった名づけは世界のどこにでも存在するので、この考え方もおかしくはないのだろう。そしてそれはそれでロマンもあると思うが、ここに来た召喚者が日本人だったとしたら、百年前の日本に果たしてサラという名前は定着していたのだろうか。

 それに、女性名だと思うんだ。そうなるとここにいる期間である季節一つ分というを超えるだろう。まさか妊婦が召喚されたわけもないだろうし。

「それは良い名前を貰ったと思うが、一つ聞いてもいいかな」
「ええ、何なりと」

 俺は何気ない気持ちで彼女に聞く。

「サラという名前は多分、百年前の日本にはなかったと思うんだ」
「はい」
「でも君は、日本人みたいな黒髪をしている。召喚者のもう一人は日本人の男性だったのかな」

 彼女は、俺が何を言いたいのかよくわからないみたいな顔をしながら、考えつつも口にする。

「いいえ、わたくしの妹のアヤがもう一人の召喚者様の名前を継いでいますので、両名とも女性だったと……」
 
 言われて、少し気分が悪くなる。それではどう考えても、どうしようもなく犯罪が起こったことを証明してしまっている。こうして召喚者の血族がいるというのは召喚者が男ならまだ看過できる事態だが、女性であるなら話は別だろう。

「……妊娠出産までの期間がこの世界にいる期間と合わないし、さらに、君らの利益の為に無理やり犯して産ませたのだとするなら、流石に因習と言わざるを得ない」
「!」

 俺が口に出してそう言うと、サラは、自分が、この国の召喚者に対する非道を俺にしらせてしまったことに気が付いた。ぱっと口元を押さえて顔を青くさせる。もちろんその因習の結果である彼女に何か問題があるのではない。

 だがしかし、その慣習を続けようと考えているのは事実だろう。男だろうが女だろうが意志にそぐわない行為の果てにこの世に生み出される子供はとても難しい存在だろう。

「……君を責めてるんじゃない。その名前を聞いて、こんな反応をするのも俺ぐらいだろうし気にしなくてもいい。それより、やはりそちらの都合で俺たちを帰さない場合があるのだと理解できた、これは大きな情報かな」
「っ……」
「ただ俺たちを利用するだけして、さらにはその血を引いた子供まで欲しいなんてのも、少し嫌な気持ちにはなるかな」

 その行為を求めてこの場にいるサラにも向けて言ってみる。特に意味はなかった。これで彼女がしくじったからといって泣いて帰るような考えの浅い女性ならそれでもかまわなかった。

 それに新しい情報が入ったのでルシアンに問い詰めることもできる。

 顔を青くして固まるサラを俺はワインを飲みながら眺めた。本当ならばこちらも深刻な顔をして、同じテンションでいた方がいいのだろうが、どうせそんなことだろうと思っていたし、なんなら、それを酒の肴に飲むぐらいでは無ければやってられないだろう。

 今は仕事をしているんじゃないんだ、どうでもいいことはどうでもいい対応で構わないはずだ。


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