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生きるためには 10
しおりを挟むそう考えた矢先だった。一番最初に動いたのはルシアンで、扉が乱暴に開かれる音がして、そのけたたましさと、急にどたどたと荒い足音が聞こえて、アルベリクも咄嗟に立ち上がって、扉の方を見た。
……。
「っ、もう来たのか?!」
焦るようにアルベリクが言って、ルシアンと似たような恰好をした、連中が、何人も部屋へと入ってくる。
その一人とルシアンは剣を交えて、俺に向かって、武器を構える人間、数人と俺は座ったまま相対した。
「謀ったかどうか、一応聞いていいかな」
そのまま、焦っているアルベリクに聞いてみると、彼は「ありえませんっ」と大きな声で言い、沢山の騎士の中から悠々と現れる、アリスティドの姿を凝視した。
「捕らえろ、従者は殺して構わない」
アリスティドは、そう周りを固める騎士たちに言う。
数の有利は圧倒的にあちらにあるが、俺はそれでもまるで、脅威には感じなかった。
直感的に、勝てるだろうと思う。しかし、ここでこの男たちを殺してもいいのか判断がつかない。
……どうするべきか、もうこれ以上の解決案というのは無いのかな。
そんなことばかりを考えていた。
にらみ合う兄弟のその企みと策略の果ての邂逅だとか、騎士たちの俺に対する、敵意や嫌悪や怯えだとか、そういうものにも全部現実味がわかないし、どうでもよく感じる。
「アル、お前の事だから何かするだろうとは思っていたけれどここまで、ずさんな計画だったとは思わなかった。一応は私と同じ血を半分は引いているのだからもっとうまく立ち回ると思ったが、がっかりだな」
「っ、兄上っ、俺を監視していたんですか?!」
「諜報に使用人をいくらかよこしてはいたけれど、まさか堂々と召喚者を招き入れるとはさすがに思ってなかったんだ、期待もしていなかったのに引っかかったお前が、悪い」
何やら話しをしている最中にも、ルシアンと騎士たちは戦闘を始め剣を交える。
素早く動くさなかに、魔法を使って炎、だとか風だとか、いろんなものが飛び交っているが、ファンタジー映画でも見ているような光景だった。
俺のそばにいる騎士たちもきっと手練れの騎士か何かなのだろう。
鍛え上げられた肉体に鋭い眼光、きっとルシアンと同じぐらいには強いのだと思う。
「そもそも、お前は、いつもそうして私に反抗するが、いい加減素直になってくれなければ困るな、愚弟を心配している兄の気持ちがわからないのか?」
「そんなことを言って、結局は改革をよしとしないご隠居達に媚びを売っているだけではないですか!」
「すべての物事に新しい価値観が合うわけではないだろう? お前はお遊びに慈善活動でもしているのがお似合いだ、アル」
身振り手振りも交えて訴えるアルベリクの話を、アリスティドはさも当然のことのように受け流して、その涙ぼくろのあるおっとりとした優し気な瞳を歪ませて、子供に言い含めるように言う。
……レジスと交渉とやらをやってみるか? しかし、そんな悪魔のような意味の分からない存在に話をして通じるか? それに結局代償は必要なんだろう?
俺たちの体に刻印がある以上は、どこまで逃げても意味がない。結局はルシアンの言っていた変えようがない環境というものに翻弄されるだけになってしまう。
ドンッという音がして、ルシアンが吹き飛ばされるのが視界の端で見えた。
一応不死性があるので生きてはいると思うが、変にイラついて、そちらに顔を向ける。
すると、体に衝撃が走って、熱いような痛みが広がる。
肩を切り付けられたらしい、よそ見をしていたら攻撃するのなんて当然だとは思うが、少し驚いた。
でも吹き飛ばすと、彼らは小動物のように死んでしまうだろうと思う。
そうすると、どうなるのかという点についてはよくわからない、王族にはこれから世話になる可能性がある以上逆らわない方がいいのか、それとも力を誇示した方がいいのか。
しかしこんなところで、そんなことをしても意味なんかないだろう。だって結局はこちらに来た時の運命から逃れられないのだとしたら、それも意味はない。
「リヒトッ!!」
ルシアンの声がする彼はまだ生きている様で、自分を吹き飛ばした相手を腕力で薙ぎ払いながら俺の方へと向かっていた。しかしそんな中でも第二の斬撃が俺にとどく。
腹を突かれて酷く痛む、しかし、ルシアンに腹を刺された時よりだいぶ味気のない痛みで、俺を刺している男の顔を見た。彼はまったくひるむこともなく俺を見据えて、様子をうかがってる。
自分は強いという自覚と、それから自信があるのだろう。その筋肉質な両腕を切り落として俺と同じ立場に落としてやりたくなった。
しかし、それをしても意味はない、自分の変わらない環境なのを誰に当たったって仕方がない。
相変わらず、アルベリクとアリスティドは兄弟喧嘩のような会話をしていて、ルシアンは必死で俺を助けようとこちらへと向かって来ていた。
彼はそうして俺を助けようとするのに、どうしようもない未来をどうするつもりなのだろう。
聞いてみたい、しかし、ここに来るまでの会話を思い出す、俺もナオも死ねばいいと言われたら、困ってしまう。
死ねるわけがない。もしくは苦い顔をして、それから返答に困るのだろうか。それもそれで違う気がする。そしてそれは彼らしくない、彼の本音はいつだってまっすぐだ。
そう思う。ルシアンが騎士二人に囲まれて、斬撃を受ける。不意にその背後から三人目の敵が現れて対処しきれない彼の首を狙っている。それを見てぞっとした。
その攻撃で流石にルシアンが死んでしまう。それが明確に嫌だった。ルシアンは彼自身は、そういえば故郷に帰ったら、新しい魔法を見せるのだと言っていた、優しい魔法を。
しかしその実、俺に殺される覚悟はしていたし、その未来が来ない可能性の方が高い事を知っていたそれでも、そういった。環境を変えようとは思わない、そういうけれど、彼は環境に屈しているわけでもない。
……俺だってナオが健やかであったらいいし、空元気なんて装わなくても元気で居られたらいいと思うな。
それに、ルシアンの未来だって叶った方が良いに決まっている。
魔法を使った。いらない人間の首を全員捥ぐ。血しぶきが上がって重たい音がいくつかする。それは首が落ちた音で、ほどなくして自立することが出来なくなった体がどさどさと倒れていく。
「っ、鬼め」
恨めしそうな、アリスティドの声がして、何もかも真っ赤に染まる部屋の中、生き残ったアルベリクは、驚愕の表情でこちらを見ていた。
腹に刺さった剣を抜く。それから立ち上がった。
ルシアンはあっけにとられて、自分の方へと倒れこんできた死体を押しのけて、俺の方へと来ようとする。それを無視して俺はアリスティドのそばへと寄った。
「俺を捕らえる方法があるなら、そうしていい。ただし、ルシアンとその家族の安全は保障してほしい」
「……っ」
返り血を浴び、この場でのすべての殺人を犯した俺に、アリスティドも若干、たじろぐ、しかしすぐに薄ら笑みを浮かべて、すでにその手に持っていて謎のリングを俺の首にはめようとする。
「まて、リヒト、聞いていないぞ、そんな話!」
その手を拒否して「約束してくれ」とアリスティドにいうと彼はにこりと笑って「約束しよう」とだけ言った。言葉を聞いて、手を離すとカチッという音と同時に視界が暗転する。
まるで電源が落ちたようにその場に崩れ落ちた。
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