「女は目立つな」と言って足を引っ張り続ける婚約者はもういらない。

ぽんぽこ狸

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5 お花畑


「それに……わたくしの真意に気がつかない人ばかりで少し驚いていますの。ねぇ、レジナルド」
「……」
「わたくし、ただあなたをずっと前から、いつか背中を刺してやろうと思っていただけです」
「は、え?」
「わたくしは、あなたの言葉に心折れて悲しみのあまり落第した訳でも、あなたに復讐をするために首尾よく退学した訳でもございません」
 
 レジナルドは当事者のくせに、本当に自分にとって都合のいいことしか覚えていないらしい。

 それほど女というものを、侮っているのだろう。

「水に流してなんていませんよ? わたくしが将来を選択しようとするとき、あなたは、ケンドール伯爵領が魔獣が多いことを理由に勝手に話を通し、外堀を埋めて、わたくしの夢はその後叶えさせてやると言ったでしょう」

 レジナルドはやっとそのときのことを思い出したみたいな、はっとした顔をした。

 遅すぎである。

「わたくしはもとより、才能があるものよりも堅実で手堅い事務官を目指すつもりだと話をしてあったのに、あなたは裏切って、将来、自分が楽をする方法ばかりを考えていて」
「っ……」
「わたくしの夢など関係なく、無理矢理入学させ……ねぇ、水に流してもらえたと思っていたんですか」
「そ、それは」
「もうローズマリーは魔法学園に入ってこんなに素晴らしい成績を残していて一年もたっていて、その時のことをなにも言わないということは自分が正しかったと思ったのですか?」
「…………」
「わたくしはずっとあなたの背後を狙っていましたよ。鋭いナイフを持って、目を光らせていましたわ」

 レジナルドの横暴はあの手紙から始まったわけではない。

 それ以前からも、ローズマリーは彼のせいで苦労させられた。

 だからずっと待っていたのだ。いつでも事務官を目指し直せるように、彼がプライドをこじらせて、何らかの行動に出る時を虎視眈々と待っていた。

 そんな前のことは態度に出さないからには許してあげているはずだ。きっとこの手紙が理由なのだ。
 
 そう思うなんて、お花畑としか言い様がない。

「隙を見せたあなたが悪いのです。自分のしたことを忘れて生ぬるいことをしたあなたが悪い」
「っそ、そんな」
「そして思い出せばわかるでしょう。わたくしの夢、魔法使いなんかじゃありません」
「…………」
「事務官です。事務官の試験は勉強さえできれば、いついかなる時でも受けられる。魔法学園と違って年齢制限もない」

 ローズマリーは目を細めて、口元に指を置いてたまらず笑みを浮かべた。

「あなたと違って、わたくしの人生は詰んでなんていませんの。むしろ自由を得た。破滅したのはあなただけ、朽ち果てるのもあなただけ」

 「ふっ」と声が漏れる。じんと嬉しい気持ちが広がって高笑いしたい気分だった。

「捨て身の復讐? そんなことをする価値はあなたにはありません! せいぜい一人で勝手に朽ち果ててください。勝手に終わってください。あなたがわたくしに与えられるものなど一つもないのですから」
「クッ、クソ……」
「では、まだ勉強がありますので。失礼いたします」

 満ち足りた気持ちでローズマリーは立ち上がる。レジナルドは恨み言の一つも言えずに頭を抱えて小さく縮こまったのだった。

 
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