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12 情緒
しおりを挟む「君はもう少し、人の情緒を慮るべきだ。いいな?」
「………………」
「了承できないか?」
確認するように言われて、オフェーリアは首をぶんぶんとたてに振りたかった。
しかし、ヴァレントがとても真剣に言っていることは理解できる。
それにベアトリーチェに言われた言葉が脳裏でひらめいて、たしかにオフェーリアにはそういう情緒的に足りない部分があるかもしれないと思う。
「善処しますわ」
だからこそ、少ししょんぼりして出来るだけ小さな声で言った。
すると彼は、苦笑してそれからぱっと手を放し、よしよしと頭をなでる。
それがものすごく不服でオフェーリアは眉間にしわを寄せて彼のことを睨みつけた。
けれどもオフェーリアの気持ちなど彼にとっては些細なことのようで珍しく笑みを見せて言う。
「君は偉いな。言うことを聞けて」
「子供みたいに褒めないでくださいませ」
「……そうだったな。悪い、子ども扱いはしない方がいいな、どうせこれから大人同士の関係になるんだから」
「どういう意味ですの?」
彼はとても平然とそんなことを言って、いまだに膝の上にいるオフェーリアを縦抱きにして立ち上がる。
急に体を軽々と持ち上げられてオフェーリアは意味が分からずに、間抜けな顔をして聞いた。
「そのままの意味だが? だって君は、俺がこうしなければよそへ行くんだろう。それで俺の時と同じようにして、今度は手酷く扱われるかもしれない」
「いいえ、情報さえくれればこのままの関係でも構いませんわ」
彼が歩くたびに体が揺れて、気が付くとベッドの淵におろされる。
そこに座って、手をつくとさらりとしたシーツの感触がする。
まるで彼が、私を引き留めるために仕方なくそういうことをするように言っているように聞こえたので、オフェーリアはただ事実を返した。
そうなると彼にとって利益がいないが、それはほかのもので補填することだってできる。
「わたくしの計画に必要なのは、あの人のスキャンダルだけですもの、そこに性行為は含まれてませんわ」
「だとしても」
オフェーリアは教えてやるような気持ちでそう口にしたが、肩口を押されて、うまく抗えない。
「散々あんなふうに煽られて、意気地なしだの朴念仁だの言われて、そのまま引き下がるわけがない、そう君は思わないか?」
「…………」
「君が君の為に自ら望んでああしていたことは十二分にわかった。だからこそもう俺は、君に手出しをしない理由はないだろ」
押されてそのままゆっくりと背後のベッドに倒れこむ。
ヴァレントは膝をベッドに乗り上げて、獲物を見つめる様な瞳でオフェーリアのことを見下ろしている。
「安心しろ。君を自分ものにしたらきちんと君に報いてやる。それに君の考え方からすればこれは、君の目的が報われるだけだ、事実として俺が君に手を出すという状況があるだけ」
「……間違っていませんわ」
「なら、受け入れてくれるんだろう、オフェーリア」
胸の中心に手を置かれて起き上がることができない。
さして力を入れられているわけでもないのに抗えない。それに彼が言った通り、これは最初の計画通りに事が進んでいるだけで何も間違ってなどいない。
オフェーリアが望んだ通りのシナリオだ。
なにも問題はないはず。
何度も望んだ結末のはず。
しかしいざそうなると、うまく声が出てこなくて彼を必死で見つめるだけだ。
なんだかとても心細いような、開けてはいけない扉を開けてしまったような心地になって、ごくっと息をのんで何か口走ろうとした。
「まぁ、今更、何を言おうと、もう手遅れだがな」
けれども彼はそう言って、おもむろに唇を重ねる。先ほどのような深いキスに思考を奪われて、もう二度と今までの無垢な自分に戻ることはかなわないのだった。
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