大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸

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11 キス

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 彼の胸板を押して上半身を起こしたが、ふと腰に手が回っているのが見えて、これではどこにも行けないではないかと疑問符を浮かべてヴァレントに視線を向けた。

 彼はとても苛立った様子で目を細めて、しばらく黙った後、たっぷりの間を置いてからオフェーリアの後頭部へと手を持ってきて、グイッと引き寄せる。

「っん」

 驚いて身を引こうと考えたが、思いのほか力が強い。

 唇同士が触れ合って、今まで一度もしたことがなかったキスをする。

「っう、ん」

 それだけではなく唇を割って、彼の舌が口の中に侵入してくる。

 さして体温は変わらないはずなのに彼の舌が熱く、唾液でぬるりとしていて、舌で舌をなぞられる感覚は今まで一度も感じたことがない感触だ。

 驚きから吐息が漏れて、息を吸いたいと思うのに口を真っ向からふさがれていてうまく出来ない。

 口を離そうと胸元をグイッと押すと、後頭部を抑えている手とは反対側の手で突っ張っている手をどかされてさらに深く口づけられる。

 目の前に広がっている光景は、キスをしているのに怒っているように鋭く見つめるその瞳で、オフェーリアは怖くもないのに心臓が酷く音を立ててぶるりと震えた。

 それから一頻り、オフェーリアの口の中を舌でまさぐって、長い口づけを交わした後に、やっと離れていく。

 すぐにこんなことを唐突にした文句を言いたかったが、口を離されるとやっと呼吸をすることができて、肩で息をして目じりに浮かんだ涙を指の腹で拭った。

「……なぁ、オフェーリア」

 その間に彼は、低く丁寧にオフェーリアのことを呼ぶ。

 それにまだ返事は出来ずに視線だけで返す、彼はオフェーリアがきちんと聞いていることを理解して続きを言った。

「俺がずっと君を抱かなかったのは、君がずっと隠しごとをしていたからだ」

 ......隠しごと、ですの……?

 たしかに警戒されているとは思ってましたわ。でもそんなの些末なことじゃない。

「君はたしかに魅力的だったが、あんなふうに媚びられて、俺はてっきり誰かに脅されてるんじゃないかなんて思ってたぞ」
「っ、はぁ、別に、そうだとしても、そうじゃなかったとしてもあなたにとっては変わりませんわ。ただ、望んでいる女がそこにいるだけでしょう」

 だから抱かなかったなんていうのは、合理的ではない。脅されていようとも打算があろうとも、事実利益になるのなら何でもいいだろう。

 しかし、オフェーリアの言葉に彼はまた苛立った様子で、睨みつけるような視線のまま言った。

「違う。明確に、違う」
「ああ、倫理的な話をしているんですか? 倫理的に良くないことならばたしかに━━━━」
「そういう話じゃない。君が、心の底から望んでそうしているのか、否か、そういう話だ」
「??」
「普通に好意的に思われて愛情を覚えて、俺とそうなりたいというのなら俺もそうだと口にする。しかし、君の様子はあからさまにそれ以外の目論見があることを隠していなかっただろ」
「事実そうですもの」
「それで? 俺がそのことを鑑みず、誘惑すれば乗ってくる人間だと思ったわけか」

 彼は怒り心頭といった具合で、オフェーリアの両頬を片手でつかむようにして自分の方を向かせる。

 優しくて朴念仁で、真面目だった森のくまさんのような彼はなりを潜めて少々強引だ。

 いつもだったらオフェーリアだって食ってかかるのだが、なんだかこんなふうに言われるとオフェーリアが悪かったような気もしてきて少しだけバツが悪い。

 ……でもわたくし間違っていませんわ。

 そう思う気持ちもあって、オフェーリアは拗ねたような態度で小さく頷いた。

 するとヴァレントはわざとらしくため息をついて、それから言った。

「見くびらないでくれ。そんなに冷徹な、欲に負けた大人じゃない。一生の相手を探しているのに、訳ありなことを知りながら、君が誘ったからと言って自分の欲望をぶつけていいとは考えない」

 別にソレの何が間違っているのだろうと思う。

 けれどそう言ったら、まるでオフェーリアが冷徹で欲に負けることが当たり前だと思っている非道な人間みたいになってしまうと思って口を閉ざした。



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