酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸

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 父と母が反対しても、リディアがそういうつもりで慕っていればいつかはそうなると確信していた。

 しかし、リディアの提案を聞いたロイは、目を見開いてそれからぶるぶると震えだして、テーブルクロスを乱暴に引っ張った。

 ずるりとテーブルの上のものが移動していって端から落下していく、ガシャン、ガシャンと音を立てて落ちていって、侍女が急いでリディアに向かって飛んできた。

 彼女は背をロイに向けて、リディアを守るように抱きしめた。

 その肩越しに見たロイは、とてもひどい顔をしていて酷く傷つけられ、てもうどうしようもないみたいなそんな様子だった。

 涙が雨のようにぼたぼたと溢れて落ちていって、彼は拳を振り上げた。

 しかしどこかを殴ることも、ましてや子供らしく魔法を使って暴走することもできずに、ロイは震える拳を下ろしながら、苦しそうに泣いた。

 それでもリディアをキッと睨んで、口を開いた。

「ぼ、僕に家族はいません! 僕はこれからずっと一人ぼっちですから!! 貴方はいいですねッ、安心できる場所があって家族がいて!! でもそれに僕を巻き込まないで!!」
「……ロイ……」
「お嬢さま、危ないです。刺激してはいけませんッ!」

 悲しそうに怒鳴るロイに手を伸ばそうとすると、侍女が小さな声でリディアに悲鳴のように言う。

 ロイが皆に避けられていて、一人だけ浮いているのが何故か。

 それをリディアはただ単に新参者で、ちょっとばかり冷たいからあんまり好かれていないのだと思っていた。

 しかし、実際のところは貴族で魔術を持っている不安定な子供など、平民の使用人たちからすれば恐怖の対象でしかなく、いつかリディアを傷つけるのではないかそんな警戒から、常に周りから距離を置かれていた。

 そんな、当たり前のことにリディアは今更気がついた。

「兄妹なんてありえないです! 貴方はこの屋敷の大事な”お嬢様”で僕は、血も繋がってない厄介者なんですからッ、何にも知らないで近づいてきて迷惑だったんです!」

 怒って、怒鳴って取り乱していても誰も、この場で彼の事をいさめたり慰めてやったりもしない。

 彼は、どこまでも孤独で寂しくて、リディアは初めて本気で傷ついている人の心に触れた。

 それでも、怒っていても彼は拳を振り下ろさない、本音を言っても傷つけようとして罵ったりしない彼は優しい人なのだとも同時に知った。
 
 今だって守られて大切にされているリディアと自分を対比して悲しくなっているはずなのに、涙を流したまま身を翻して一人で去っていくだけで、その背中はあまりにも寂しいものだった。

 歳もそれほど違わないのに、冷静で冷たい人だなんて思っていた自分はあほだった。

「リディアお嬢様、大丈夫ですか? 怖かったですね……」

 リディアの専属の侍女がリディアの頭を撫でて優しくそう言った。

 給仕係をしていた男性使用人は、厳しい顔つきでロイの去った扉を見つめていた。

「やっぱり、あんな危険な貴族の子供……リディアお嬢様がいるのに屋敷に置いておくなんて危険ですよ」
「ええ、ご当主様に進言しましょう。……身の上は同情しますけど、あれじゃあ、我々も不安ですから」

 大人たちはそんな風に話し合って、ロイを追い出す方法を考えている様子だった。
 
 それがリディアを想っての事なのだとリディアも理解している、しかしそれではあまりにもロイが可哀想だ。

 彼はこのままではどこにも行き場もなくなって、あんなに傷ついているのに身の振り方がわからないまま、安心できる場所がない状態で生きていかなければならない。

 ……そんなのってつら過ぎますわ。……ロイ。

 彼の事を想ってリディアはその日、一晩考えつくして、翌日を迎えた。

 リディアは、屋敷の者たちが考えているよりもずっと、打たれ強い人間だった。

 ロイが必要としている居場所がリディアの主観ではなく、彼からしてどこに存在するのか考えた。

 そうして翌日、何か事が起こる前にリディアはロイの部屋へと特攻した。

 扉を開けるとロイは、勉強をしていたらしく机に向かっていた。

 しかし、そのまなざしはやっぱり悲しげで気力もない様子だった。昨日の事もあってかとても落ち込んでいるように見えた。

 そんな彼にリディアは、気丈な笑みを浮かべて口にした。

「今日から! ロイをわたくしの側近にしますわ!!」
「……?」
「ロイは、このクラウディー伯爵家跡継ぎのわたくしの為に雇い入れた立派な側近ですのよ。わたくしたちの関係はこれで決まりですわ、どうですのロイ!」





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