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しおりを挟むそういった人を今まで見たことは無いし、耳が多少とがっていたり肌が褐色だったり魔力量が多いだけで特に不都合があるなんて話は今まで聞いたことがない。
だから、稀にそういう事が起きるというだけなら、心には止めておくべきだが深刻にならなくてもいいような気がした。
「……クローディアもその症状を患っている一人だったんだ。彼女はたった三十五歳の若さで亡くなってしまった」
しかし続けて言われた言葉に、そんなに身近な問題だったことに驚いた。一般的に健康な女性なら自分の子供が成人するまでは普通に生きられる。
それに比べるとその寿命は圧倒的に短かった。
再度ここから見えるクローディア様の肖像画を見た。あれは一体いくつの時の絵なのだろうか。
「ただ、本人はずっと明るかったし、ものすごく活力にあふれた日々を送っていたから完全に悪いとは言わないよ。ただ子供は覚悟を決めて産むと苦労がないように思う」
驚いて、呆然とする私にフォルクハルト様はそんな風に言って励ました。
しかし身近にいてそして、その悲しみを一番に味わったであろう彼がそんな風に言って励ましてくれるのに、凄く堪らない気持ちになった。
こんな話はきっと、誰かに注意喚起をできるように呑みこんで処理するのはとても大変だったと思うんだ。
なにより責務を果たそうと自分を奮い立たせて私の為を思って話をしてくれたとするとそれに報いたかった。
「……よし、話は終わったから、本題に入ろうか。ごめんね楽しい授業のはずなのに湿っぽい事を言って」
「……」
「いくつか本を持ってくるから、少し待ってくださいね」
そういって立ち上がる彼に、思わず私は声をかけた。
もし、もう笑い話にできるほどに彼の中で消化されている出来事ならばいいのだ。
でもそうでは無かったら、悲しい事を話すのはとても勇気のいることだろう。そう思うだけで続けて言っていた。
「フォルクハルト様……私、クローディア様の事をもう少し聞きたいです」
「……悪いけど、彼女のことを話すと、暗い気持ちになると思うよ」
「はい、それでも。クローディア様とフォルクハルト様の話を……聞きたいんです」
先ほどのような概要ではなく、二人の話を聞けたら嬉しい。あまり知られていない話ということは、きっと広めたい話ではないはずだ。
だからこそこの家に入った私にだからこそ言えることがあるのではないかと思うのだ。
確証はなかったが、彼が笑みを消して、少し苦しそうに眉間に皺をよせるのを見て、その予感のような気持は確信に変わった。
それから、彼は滔々と彼女との思い出を語った。他愛ない出来事の話ばかりで、あまり纏まったうまい話ではなかったけれど、吐き出すように話す彼にやはり話を聞きたいといってよかったと思った。
話を聞いてひと段落すると今度は、ヴィクトアの自慢が始まって、やっぱり仲がいいなと思いつつ私は頷いたり相槌を入れたりして聞いた。
私は割と人の話を聞くのが好きというか、得意な方なので彼の話をずっと聞いていたけれどまったく苦ではない。
途中で私の事をフォルクハルト様は気にしていたが、その度にそう伝えると感謝を伝えられた。結局話は夕暮れまで続いて、ヴィクトアについての爵位継承の時のエピソードや幼い時の話も聞けたので充実した時間になったと思う。
しかし、フォルクハルト様の話を聞いていて、疑問に思ったことがあった。
喋りすぎて喉の調子を気にしている彼に、私はなんとなく問いかけた。
「ところでフォルクハルト様。お話を聞いた限りだと……その、フォルクハルト様はあまり、トラブルを起こすタイプではないというか、えっと、昼にヴィクトアに怒られていたような事をするタイプではないのかな……って、思うんですけど」
思い浮かんでいるのは昼食時の事だ。
ヴィクトアにフォルクハルト様の大丈夫は五割は大丈夫じゃないなんて言われていたし、彼もまたかと言った感じで怒っていた。
しかし、話を聞いた限りだとクローディア様の補佐として立派に務めていたらしいし、早くにクローディア様が亡くなって、発達が遅かったが年だけは成人していたヴィクトアがフェルステル公爵家の爵位を継承した。
けれども当然、まだ体も心も子供の彼に務まる仕事ではない、となると必然的に重要な時期を支えてきたのはフォルクハルト様だ。
ほぼ一人の力でフェルステル公爵家を没落させずに回していたのに、ミスを連発するのは流石に不自然だ。
「……ああ、あれね。ほら、ヴィクトアは、クローディアに似てなんでも意力的に取り組みすぎるからね。たまには田舎でゆっくりさせないとずっと働いているだろうと思って交流会を仕込んできたんだけど、君たちの新婚生活を邪魔する形になってしまってごめんね」
「いえ、そういう配慮だったんですね。納得しました」
きっとゆっくりといっても一泊か二泊だろう。とくに気にしていない。
フェルステル公爵領は王都からもさほど離れていない立地のいい領地だ。田舎の風情がある街並みでありながら利便が悪くない程度に発展している。
休息には持ってこいだ。
「よければ、君も共にいくといいよ。……屋敷の事は私に任せてくれればいいし」
彼はまったく打算ない様子でそういった。しかし、ヴィクトアが屋敷からいなくなるとあって私はやるべきことが思い浮かんだ。
私は、まだ彼にきちんとすべてを明かしてはいないし、共に旅行に行ける様な仲ではない。
「……いえ、止めておきます。お気遣いいただいたのにごめんなさい」
「いや、いいんだよ。君たちには君たちの距離感と関係性があるのだと思うしね」
フォルクハルト様はそういってフォローを入れたが、言い淀んでそれから、少し考えた。そしてゆっくりと口を開いた。
「私は口をださないけれど……もし将来の事について話をする機会があったら早めに子供をどうするかという事だけでも話をした方がいいね」
そう助言をした。どうしてだろうと首をかしげて彼を見ると「私から言えるアドバイスはこのぐらいだよ」と笑うのだった。
それから、授業はまた後日改めてということになって、フォルクハルト様の執務室から出た。
子供か……と思う。
フォルクハルト様の話を聞いて、思っていたことがある。ヴィクトアはお母さまであるクローディアが死んだとき彼は精神的にはまだとても幼かったはずだ。
クローディア様は、寿命が短く生まれついて、ヴィクトアはその逆。
だからこそ短命で亡くなった母やこの家系に思う所があって子供という存在にも何か考えるところがあるのだろう。
もし話をする機会があったら尋ねてみようと思うのだった。
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