私の通り名が暴君シッターでした。

ぽんぽこ狸

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「いいえ、ありがとう、ございました。……妹が、お騒がせして本当に申し訳ありません」

 お礼を返して、丁寧に謝罪した。

 しかし、ヴィクトアが険しい顔をしているのは変わらなくて、私の謝罪も顔を顰めたまま少し考えて言った。

「気にすんな。……なんなら遠慮しないですぐに呼んでほしかった欲しかったぞ」
「うん。迷惑をかけないといったのに、ごめんなさい。自分で何とかできると思ったんだけど……」

 額を抑えながら言う彼に、言い訳しか思い浮かばずに申し訳なく思いながらもそう返した。

 すると、ヴィクトアはさらにため息をついて、私を冷たい瞳で見た。

「……そうじゃない」

 私の返答は何か間違っていたらしく、冷たく言われて頭が混乱する。

 やっぱり彼には関係がないと言い切ったことなのに、屋敷にまで妹が押しかけてきて迷惑をかけたことを怒っているのだろうか。

 わかっていたことなのに今の機嫌が悪い彼に言われると、冷や汗が出る。

 イラついた様子で目を細めてじっと私を見下ろす彼に、目が合わせられなくてヴィクトアの胸元あたりを見つめて、できるだけ小さくなった。

 そんな私の様子に、責める気がそがれたのか「クソッ」と小さくつぶやいてそれから肩に手を置いて、ヴィクトアはちょっとだけ優しい声音で言った。

「あんたが困っているのなら、俺もその問題に向き合う義務がある。それは逆でも同じことだ。だからこそ、一人で抱え込んで何とかしようとしなくていい、な。いつも言ってんだろ?」

 けれどもその優しさには答えられない。

 ヴィクトアにあの人たちとの交渉や調整をやらせるなんてそんな無責任なことは出来ないのだ。

 それに、私が彼に黙っていたせいで一度うまい思いをさせてより厄介な話になっている。

 そうなったからには私は首を縦に振ることは出来ない。

 きっと納得させて解決するしかない、あの人たちだって私が折れなければ、きっといつかは主張を折るはずだ。

「……」
「……」

 私が黙り込むとヴィクトアも黙って、廊下に重たい沈黙が流れる。

 ヴィクトアが長いため息のような吐息をつきながらこめかみを抑えるのを見て、私はどうにか気を逸らそうと、彼に疑問に思っていたことをつい聞いた。

「と、ところで、頭痛が随分辛そうに見えるけど、大丈夫?」
「……ああ、問題ない。いつもの事だしな慣れてるよ」

 私の急な話題の変更にもヴィクトアは何も言わずに合わせてくれて、ほっと息をつく。

 辛そうだと思っていたのは事実だったので、話題に出せてよかったと思う。

 しかし同時になんだかその頭痛の件については、使用人も誰も触れないし何かデリケートな話題なのだろうなと想像していたので、あまりよくない気がしたが、それでも他の話題が見つかった安心感から会話を続けた。

「慣れていてもお薬などあるかもしれないから、お医者様にかかった方がいいんじゃない?」

 なんだか変に心臓がどきどきしていて、先ほどの私の失態をごまかしたい一心で心配していたことを口にした。

 しかし、私の言葉にヴィクトアはきっぱりと口にした。

「必要ない。原因は理解しているから、あんたは気にしなくていい」

 少し冷たい言葉だった。心の奥にチクリと刺さるみたいで思わず口を噤む。

 しかし、沈黙が怖くてつい、頭によぎったことをそのまま口にした。

「それでも心配だから、理由だけでも知りたいと思ってしまう」
「……」

 私の言葉を聞いて、ヴィクトアは少し驚いたような顔をした。

 それから自嘲気味に笑って私を見ないまま言う。

「……それを俺にあんたが言うのか?」

 言われた途端に喉が引きつった。

 ヴィクトアが私に対して憤っているというのは明確で、眩暈がしたが、何とか踏みとどまって、ぐっと拳を握る。

 ……迷惑と気苦労をかけている私が、ヴィクトアを心配するなんてのは、可笑しいって事、だよね。

 その通り過ぎて泣けてきそうだった。

 でも、彼は何も悪い事を言っていないのに泣きだしたら、彼が悪者になってしまう。そんなことはあってはならない。

「ごめん。今のは性格悪かったな。……ただ、この時期はどうもだめでな……しばらく休む、本当にあんたは気にしなくていいから」

 そのまま私の反応を気にしないまま身を翻して自分の部屋へと戻ろうとするヴィクトアの服の裾を掴んだ。

「ごめんなさいっ、本当に!」

 振り返った彼に、女神の加護を使って出現させた青い花を押し付けるようにして持たせて、これ以上は涙が堪えられそうになかったので急いで自室に向かう。

 私の花は治療の為に魔力をあたりに充満させる役割があって、その魔力に包まれて、加護を受ける人たちは体表から魔力を吸収して体を治癒することが出来る。

 だから花を持っているだけでも効果は高くはないが、花の魔法の加護を受けることが出来るのだ。

 彼の悩みの種である私が彼を心配することなんて確かにおかしいだろうけれど、恩返しはさせてほしい。ヴィクトアが辛そうなのは見ていてとても悲しい。

 彼には健全でいてほしいのだ。

 そのためにも私は…………。



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